リア充になりたい! でもオタクから足が洗えない。『ネガティブロック』は、マイナス方向の視点でオタクになって毒舌を吐くけど、3人いたら楽しい、そんな薄暗さが心地いい高校生活を描いた、リア充とオタクの壁を自然に描いたあるあるコミックス。

写真拡大

この『ネガティブロック』という本。
表紙だけ見たら『らき☆すた』みたいな萌え系日常マンガに見えるかもしれません。
半分あってる。半分違う。
この本は、オタクの中にある「リア充」という言葉に対しての、毒です。
ちなみに『らき☆すた』もかなり毒いですよ。糖衣錠毒です。

少し前に爆発しなくていいリア充なんて記事を書いたのですが、その舌の根も乾かぬうちに、リア充へのデッドボールを投げるこのマンガを紹介します。
最近使われている「リア充」は、言うなればポジティブなイメージです。
リアルが充実していればリア充でしょう、生活を潤わせよう、楽しもう!というポジティブスイッチです。

ではちょっと、これをネガティブスイッチに入れてみましょう。
ポチ。
オタク側からみたら、「リア充」という言葉は
・嫉妬の対象
・ちょっと怖くて近寄りがたい
・別世界、交わらない世界
・憧れないわけでもないですわ!
などなど、非常にネガティブな「外界」としてのイメージのある単語です。
「リア充」ときたら「爆発しろ」は、「そもさん」「せっぱ」みたいなもんです。
しかしここでふと、首をかしげる人も多いでしょう。
「オタク」って線引きそもそもあるの?と。
はい、そうなんです。オタクに線引はないし、リア充は自分の受け取り方次第。
しかしここに、プライドが入ってきて壁を作ってしまう。これはもう業みたいなものです。

このマンガの主人公は、根っからの妄想系オタクだけど思い切って高校デビューしたあいる、人が怖くて内気にこもる地味メガネいずみ、毒舌を吐きながらマイペースに開き直って生きるまほの3人を描いたコメディです。
主に、高校デビューして「リア充」を目指すあいるを中心に描くのですが、ここで描かれる「あるある」ネタが、非常にきつい。

例えばクラスの親睦会で、道とん堀にお好み焼きに行ったシーン。
あ、そもそも「クラスの親睦会に出て会話をする」っていうのがリア充ゾーンとして描かれているのが、いきなり鋭い。
そもそもネガティブモードだと行かないもの。
その中でクラスの自称「超オタク」のイケメン男子が話します。
「超」つけるってのが実に、実に。オタクは自分に超なんてつけない(上には上がいるのを知っているから)。
好きなアニメは、シャナとらきすたとひぐらしとそれからけいおん。超……。☆がない。!がない。
好きなキャラはながもん。……それは、長門(長門有希。涼宮ハルヒの憂鬱のヒロインの一人。かわいい)だ!……というのをぐっと噛み砕いて堪える。
問題はこの後。
「そーいやこの前メロブにナンパしに行ったよな」「男経験ないのか話しかけると全員キョドるのマジウケたわー」
ここで、あいるの限界メーターは天井に達します。
メロブ(メロンブックス)はオタク……だと自分を思っている人間が心を解放する場所。恋する相手は当然二次元。三次元にようはない。
「(二次の園に生きる乙女達に何てことを……!)」
でも言えない。これ「アニメイト」でも応用が利きます。リブレットはなくなっちゃったね。
加えて違法コピーを自慢して言った言葉が「しょーがねーじゃん、だって俺オタクだから」。
これが、あいるの逆鱗に触れて、悲しい結末に。

リア充……と作中で語られる、前向きで青春を謳歌している面々を決して否定しているマンガではありません。
むしろ、あいるがオタクゆえの挙動不審を含めて、良い人はいっぱいいるよ、というリア充肯定は基盤にあります。
しかし、オタクであることのプライドが激しく強く描かれているんです。
オタク友達のいずみやまほといる時間は、何よりも尊いし、楽しそうです。だって好きなものと仲間なんだもの。
オタクとリア充は、住む世界が違う気がどうしてもしてしまう。
「ラ●ンドワン行きたーい♪」と言われると「あのCMを観ただけで、非リアの心を締め付けるあの!?」とギョッとしてしまう。
なんだかわからない”リア充の壁”を感じている様が、なんともあるある。
オタク同士ならいいけど、そうじゃなかったらカラオケもJ-POPとかわからないですしおすし……。

筋肉少女帯の歌で『銀輪部隊』という曲があります。
自転車に乗ってロンリーなやつらがバイシクルをこいでひたすら、悩んでる暇があったら群れなして走れという歌です。
この歌は途中、進路を変えてポジティブになった奴に対して、祝福しろ、といいます。
同時に、戻ってきてもいれてやんねーからな、とも言います。

まさにこの感覚。ポジティブに青春を謳歌するリア充側は「オタク」に対して、案外今わるいイメージはないもの。以前よりは。
けれどそこに溶け込めない、なんだか自分のペースと反りが合わない。
そんな三人は、自分たちが「オタク」であることに誇りをもっている。
今オタクでつるんでいる時間がとてもかけがえないものなのも、わかっている。
オタク文化を愛しつつ、リア充を口で軽蔑しつつ、リア充にほのかに憧れる。
この見えない壁と距離感と絆。
分かる人にはすっごいわかると思いますし、わからない人には全然わからないでいいものなんですが、絶妙に描かれます。

特に、マイペースで毒ばっか吐くまほの存在が実にいい。
物語はあいるやいずみがリア充に行ったり来たりするのを中心に描かれるのですが、まほは「オタク」の位置から動きません。
鼻もほじるし、「カンフー・パンダはデブケモにめざめる」と言うし、町中で「ホモでフェラ」とか言うし、3人の世界の中ではもう生き生きのびのびなんです。
でもクラスでは浮いていて、いつも寝てるか読書してる。
うっ。痛い。
そんなまほから見て、リア充としてみんなと仲良くなろうとしているあいるがどう見えるか。
まさに銀輪部隊です。

オタクであることは楽しい。プライドもある。幸せもいっぱいいっぱいある。
でも、リア充にもなりたい。
かわいい女の子でオブラートに包んでいますが、かなり現実体験談的な内容を含んだ、ネガティブハッピー青春記なのです。

しかし、いずみの「さっきの人達……私達の事、笑ってなかった?」発言がグサリときます。
なんだろう、なんか自意識過剰になる瞬間って、あるんだよ、ある。

(たまごまご)


おとと 『ネガティブロック』