リンクアンドモチベーション社長 小笹芳央氏

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サラリーマンの平均年収は412万円――。ピークの1997年と比べ、50万円以上減少した。もはや現状を維持するのも難しい時代、上昇し続けるためにはどうすればいいか。

■平は「2週間単位」、課長は「1年単位」

40代前半は、マネジャーになる人が多く、ビジネス人生の大きな転換期です。当然、プレーヤー時代とは異なる視点を獲得しなければなりません。

第1に、マネジャーには会社全体を見渡す視点が必要です。サッカーでいえば、ボールを追いかける選手の目線から、チーム全体の動きを追う監督、コーチの目線に切り替えるわけです。

マネジャーは全社的な視点から、自部門の役割を理解し、部下たちの行動を方向づけていきます。上からの情報を部下に伝えるときには、現場向けに噛み砕き、意味づけしていきます。

反対に現場の情報は、整理し、優先順位をつけて上に報告します。他部署と連携をはかることも増えるでしょう。プレーヤー時代に比べて縦、横、斜めと空間的に視点が転換していきます。

同時に、時間的にも視点を転換します。プレーヤーなら今週、来週、せいぜい今月の仕事を進めればよかったのですが、マネジャーは少なくとも半年から1年先まで計画を立て、成果を出さなくてはいけません。

部下育成では、数年先まで見通して手を打つことが求められます。そこでプレーヤー感覚を引きずっていると、「自分でやったほうが早い」と部下に仕事を任せることができなくなります。

このように40代前半は世界観をガラッと変えるように強いられるわけですが、一方で人間は、行動経済学でいう「現状維持バイアス」も働きます。変わりたくない、このままでいたい、という変化への抵抗は、年齢が上がるほど強まります。その意味で40代前半は、変化への対応力を最初に試される時期です。この先出世するために最も重大な要素の1つが、この対応力なのです。

もう1つ、大きな視点の転換があります。それは、評価される側から、評価する側になるということです。

評価権をもてば、孤独に耐えなくてはいけません。部下たちが居酒屋で、自分の欠点を愚痴り合っているかもしれないのです。

以前に比べ、マネジメントが難しい時代を迎えたことも確かでしょう。最大の理由は、若い世代の働くモチベーションが多様化していることです。

一方、いまの40代前半は、団塊世代はじめ先輩たちの価値観をまだいくらか引きずっています。働くモチベーションの上位に「お金」と「地位」がランキングされているのです。これは戦後の復興期から高度成長期まで、国民全体で共有していたモチベーションです。この価値観は徐々に薄れながらも、いまの40代前半にはまだ残っています。

ところが、成熟社会に生まれ育った下の世代は、お金とポストだけが働くモチベーションではありません。自分と同じように、お金とポストで部下が動くと思い込むのは、新米マネジャーが陥りやすい落とし穴です。

■「お金」「ポスト」で動かない若手への対策

若い世代をマネジメントするには、1人ひとりが何を求めているかを見極める必要があります。この欲求が働くモチベーションの「エンジン」です。

エンジンは個々に違いますから、マネジャーは機会を見つけて部下から聞き出すようにしたいものです。ポイントは喜怒哀楽で、その部下は何に喜び、何を避けたがっているかを探ります。

ここでは基本的な4タイプを紹介しましょう。

(1)ドライブ欲求(達成支配型)

自分が強くありたい、成功を収めたいという欲求で、周囲に影響を与えることが好きです。勝ち負けにこだわり、敵か味方か、損か得かに敏感です。

明確な目標設定、達成状況の確認によってモチベーションアップされます。ライバルを設定してあげたり、権限や責任を拡大してあげたりすると燃えてきます。

(2)アナライズ欲求(論理探求型)

知識を吸収したい、複雑な物事を究明したいという欲求で、反対に勢いだけで突っ走ることや無計画な状態を嫌います。ものごとの真偽や因果関係に注意が向き、優劣を判断したがります。

思考よりも行動を重視するような職場では意欲が失せ、能力向上の機会を与えるとモチベーションがアップします。

(3)クリエート欲求(審美創造型)

新しいものを生み出したい、楽しいことを計画したいという欲求が強く、個性を重視し、平凡やマンネリを避けます。好きか嫌いか、楽しいか楽しくないかは重要な価値基準です。

独自の視点やアイデアを高く評価されるとモチベーションがアップし、変革への期待には応えようとします。何か提案してきたら必ず反応してあげないといけません。

(4)ボランティア欲求(貢献調停型)

他人の役に立ちたい、平和を保ち葛藤を避けたい、という欲求です。ものごとを善悪、正邪で判断しがちです。

貢献への感謝と励まし、良好なチームワークによってモチベーションはアップします。逆に、貢献に無関心であったり、貢献行為を阻む壁があるとダウンします。

これらの欲求は誰もがもっています。どれが強く、どれが弱いか、何が最もモチベーションアップにつながるかを見極めることが、いまの若い世代をマネジメントするうえで重要です。

■同僚をビジネスの提携先と捉えよ

部下は、上司の意欲に敏感です。やる気のない上司の下で頑張る気持ちは起きません。だからマネジャーは、部下だけでなく自分自身のモチベーションアップもうまくなければいけません。

私が最も効果的だと考えるのは、自分は「アイカンパニー」の社長なんだという発想をもつことです。つまり、自分自身を1つの会社に見立てるのです。

そうすれば、ライバル会社と比較したときの競争優位性は何かと気になってきます。お得意さまは誰で、その人に自信をもって提供できる商品は何かと考えてもいいでしょう。

最も重要なことは「アイカンパニーは○○する会社」と明確に打ち出すことです。どんな看板を掲げ、どう認知されたいのか――それが自分のアイデンティティです。そこからアイカンパニーを優良企業、人気企業に育てる努力がはじまります。

40代前半はちょうど人生の中間地点。後半戦に向けて、自分のバリューを高めていく戦略を立てるのです。まず、アイカンパニーの会社方針をつくりましょう。3年後、5年後のビジョンを描き、そのときに売り上げや利益はどうなっているか……。考えをめぐらすことは、自分のキャリアプランにも役立ちます。

アイカンパニーを設立したら、勤めている会社への依存心は小さくなります。「この組織は、アイカンパニーを登記している場所にすぎない」と割り切っていたら、万が一リストラ宣告されてもショックが少なくなるはずです。

会社への依存心が小さくなれば、職場の風景もこれまでと違って見えてきます。同僚はお互いに提携し協業している別のアイカンパニーだと考えられるでしょう。

もし40代前半で出世が遅れていたら、同期入社のアイカンパニーに比べ売り上げも権限も小さいわけです。その原因は何かと考えるとき、「上司の評価がおかしい」と責任転嫁するのは、商品力のない会社が「客は見る目がない」とぼやくのと一緒です。

アイカンパニーを立て直すためには、上司や先輩に、出世が遅れている理由を率直に尋ねてもいいでしょう。自社の強み・弱みを知るマーケティング調査だと思えば、苦言も素直に聞けるはずです。

視点の転換も、部下のモチベーションアップも、すべては自分のアイカンパニーを発展させるため、と頑張ることができるのです。

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リンクアンドモチベーション社長 小笹芳央
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。2000年、同社設立、代表就任。著書に『変化を生み出すモチベーション・マネジメント』など。

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(リンクアンドモチベーション社長 小笹芳央 構成=伊田欣司 撮影=上飯坂 真)