不況でも利益を伸ばす20冊 −役職別 鉄則本ガイド【部長・幹部候補】

■“スキル”は部下に任せ、視点を広げよ

役員になるには、“突出”していなければいけない。皆が考えないことを考え、発言する。それが幹部候補の仕事である。

スキルは部下に任せればよい。上級管理職の役割は、部下が必死に考えているときに視点を転換させてあげること。ただし無から有は生まれない。視点転換のアイデアを得るには、普通の人が読むレベルに留まらない読書が必要だ。

まず、古典を読もう。グローバルな時代になればなるほど、文化に対する感受性や寛容性が重要になる。自国や相手国を理解し、その強み、弱みを知ることも大切だ。

日本を知るうえで、武士道の精神は押さえておきたい。『葉隠』は、その指南書として現在まで伝えられている本である。日本的精神のルーツはもちろん、具体的な処世術も書かれており、学びが多い。

『葉隠』和辻哲郎/岩波文庫
武士道の指南書。「『武士道は死ぬことと見つけたり』という言葉が有名だが、具体的な処世術も描かれており、現代の経営にも優れた教訓になる」。

欧米から始まった資本主義を理解するには、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』も必読だろう。現代経済の土台となっているのは、お金よりもむしろ人々の勤勉さである。社会学者のマックス・ヴェーバーは、その起源を宗教に求めた。

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
マックス・ヴェーバー/岩波文庫
営利を敵視するプロテスタントの倫理観が、実は資本主義の発展に貢献したことを説いた本。「土台になっているのは、仕事に対し勤勉に取り組む精神」。

日本の歴史も理解しておこう。

現象を多面的に捉える材料として、歴史の知識は有効だ。『日本の200年』や『昭和史』を読めば、基礎が身につくだろう。

『日本の200年』アンドルー・ゴードン/みすず書房
著者は米国の歴史学者。徳川将軍家による支配の後期から、20世紀初頭の帝国日本の興隆期、現代日本までを記述。「大局観を養う基礎知識として役立つ」。

『昭和史 1926−1945』半藤一利/平凡社
「文藝春秋」編集長等を務めた著者が日中戦争から太平洋戦争の時代を検証し、なぜ戦争をするのか、「底なしの無責任」がもたらした悲惨とは何かを問う。

ユニークな1冊が『荻生徂徠の経営学』だ。荻生徂徠は江戸中期の儒学者。本書では豊臣秀吉の朝鮮侵攻はなぜ失敗したか、という徂徠の問いと分析が紹介されている。日本は武将任せで中枢の戦略機能を軽視した、というのが徂徠の主張である。中央集権的でトップダウン型の中国、韓国企業に敗れる日本の電機業界の姿は、徂徠の主張と重なり合う。

『荻生徂徠の経営学』舩橋晴雄/日経BP出版センター
豊臣秀吉の朝鮮侵攻の敗因を分析し、江戸幕藩体制のもろさを論じた儒学者・荻生徂徠。彼の主張を紹介し、組織中枢の戦略機能強化の必要を説く。

現在の日本の課題を正しく知ることも重要だ。『戦略不全の論理』は日本企業の利益率の低さを指摘し、その打開策のヒントを与えてくれる。国が置かれている状況を理解し、そのうえで自社の課題を捉え、克服するためのアイデアを示す。経営幹部にはこうした大局的な視点が求められる。今のうちから訓練しておこう。

『戦略不全の論理』三品和広/東洋経済新報社
なぜ日本企業は利益率が低く、戦略が機能しないのか。戦略を立案できる経営者をどう育てればよいかなど、日本企業の抱える問題と解決策を提示する。

最終的に数字を上げなければ、役員にはなれない。利益を出すための方法論については、京都の企業が先進的だ。京セラのアメーバ経営を解説した『稲盛和夫の経営塾』や、村田製作所のマトリックス経営をつくった泉谷裕氏の『「利益」が見えれば会社が見える』が参考になろう。

『稲盛和夫の経営塾』稲盛和夫/日経ビジネス人文庫
著者は「アメーバ経営」で知られる京セラ創業者。日本の強みを活かし、生産性を高めて利益率を伸ばし、高収益企業をつくるための方法論を語る。

『「利益」が見えれば会社が見える』泉谷裕/日本経済新聞社
村田製作所の強さの秘訣である徹底した原価管理、利益重視の経営手法「マトリックス経営」。それを確立した著者による本書は利益創出の参考になろう。

『武士道』新渡戸稲造/岩波文庫
「太平洋の懸け橋」たらんと志し国際連盟事務次長等を務めた著者が武士道を考察し、武士道がいかにして日本の精神的土壌に開花したかを説き明かす。

『論語と算盤』渋沢栄一/ちくま新書
日本の産業発展の礎を築いた著者の思想を伝える。「自立するための高潔な精神と合理的な判断力をあわせもつ『士魂商才』の教えは、現代にも通用する」。

『手仕事の日本』柳宗悦/岩波文庫
柳宗悦が日本各地に残る美しい手仕事を紹介。「日本のいいデザインは典型的な機能美。その特徴を言語化した本書はブランドを考えるうえでヒントになる」。

『徳川時代の宗教』R・N・ベラー/岩波文庫
西洋以外の国で唯一、日本が近代化に成功できた理由とは何か。著者である米国の社会学者は、日本に勤勉を尊ぶ宗教的土台があったからと指摘する。

『ドラッカーに先駆けた 江戸商人の思想』平田雅彦/日経BP社
パナソニックで松下幸之助のもとで働いた著者が、ビジネスの土台となる倫理思想の多くは江戸時代にすでに確立されていたとして、多様な思想を紹介。

『経営の精神』加護野忠男/生産性出版
企業の目的は、利潤の最大化ではない。著者は、バブル崩壊以降、日本企業が精神のバランスを欠いていると説く。営利や合理よりも大切なものとは何か。

『価値づくり経営の論理』延岡健太郎/日本経済新聞出版社
技術力、生産力は高く評価されているものの、利益の出ない体質になっている日本の製造業。再生のヒントは価値づくりにあるとして、生き残りの道を解説。

『中国化する日本』與那覇潤/文藝春秋
実は10世紀の宋の時代から中国は近代化していたと本書は論じる。「日本人の多くは中国より先に近代化したと思っている。中国との関係を知る良書」。

『トイレ掃除の経営学』大森信/白桃書房
日本の主要企業で実践されている5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)。本書は、なかでもトイレ掃除が勤勉精神の形成・伝承につながる理由を論じる。

『戦略本社のマネジメント』上野恭裕/白桃書房
できる限り現場に任せる「小さな本社論」が主流だが、本書は「大きな本社」を持つ企業のほうが業績がよい事実をデータと分析によって明らかにしている。

『アメーバ経営論』三矢裕/東洋経済新報社
本書はアメーバ経営を代表的手法とするミニ・プロフィットセンターの研究である。そのメカニズムや導入のプロセス、効果を明らかにしている。

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甲南大学 特別客員教授
加護野忠男
1947年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科教授を経て、2011年より現職。『松下幸之助に学ぶ経営学』など著書多数。

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(甲南大学 特別客員教授 加護野忠男 宮内 健=構成 浮田輝雄=撮影)