上段右2番目で微笑むキューブリックは、この作品を自ら封印してしまうことをまだ知らない/[c] Films Sans Frontieres

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2000年以降、ネットスラングとして定着している“黒歴史”という言葉。「なかったことにしたい事実」という意味だが、巨匠と呼ばれる映画監督たちにも、人目に触れてほしくない“黒歴史”がある。『2001年宇宙の旅』(68)や『フルメタル・ジャケット』(88)で知られるスタンリー・キューブリックの場合は1953年に製作した『恐怖と欲望』だ。5月3日(金)から、この封印されていた幻の作品が日本初上映される。

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『恐怖と欲望』は、親戚から借金をしてまで完成させたキューブリック初の長編映画。架空の国を舞台に、敵地に墜落し極限状態に陥った兵士たちを描いた戦争ドラマだ。公開時には批評家たちから好評を得るなど、決して悪くはないデビューだった。しかしキューブリックは本作の出来に満足できず、「アマチュアの仕事」に過ぎないと唾棄し、遂に自らフィルムを買い占め、その後の上映の機会を奪ってしまったのだ。

ちなみにキューブリックには、未製作のままお蔵入りした企画が幾つか存在する。ある企画をお蔵入りから救い『A.I.』(01)として形にしたのは、『リンカーン』が公開中のスティーヴン・スピルバーグ監督だ。戦時下のホロコーストを題材にしたキューブリックの企画がスピルバーグの『シンドラーのリスト』(94)との被りを避けて製作を見送ることになったり、最近になってスピルバーグがキューブリックの遺した映画脚本「ナポレオン」のドラマ化を進めていることが報じられたりと、何かと因縁の多い2人。「彼こそが最高の師匠だった」とキューブリックを評し、その影響を公言しているスピルバーグだが、キューブリックの未製作企画はスピルバーグの存在を抜きにして語れない。

『恐怖と欲望』と同じように、スピルバーグにも“黒歴史”とされている『1941』(80)がある。『アバター』(09)のジェームズ・キャメロンも自身の『殺人魚 フライングキラー』(82)をよく思っていないように、どんな名監督でも自分の初期作品には色々言いたいことがあるようだ。『恐怖と欲望』が貴重な作品であることに違いないが、「隠す必要なんて全くなし!」なのか、それとも「封印していたのも納得?」なのかは、是非スクリーンで確かめてもらいたい。【トライワークス】