『Overhaul』

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アベノミクス三本の矢の中でもとりわけ重要なのが産業の新陳代謝の促進である。競争力を失った産業・企業群を市場から退出、あるいは再生させることは、いつの時代、どこの国でも政治的・経済的に難題である。

『Overhaul(オーバーホール)』(スティーブン・ラトナー、Houghton Mifflin Harcourt社)。リーマンショック直後の2009年春、オバマ新政権は米国自動車産業の再生に取り組んだ。その中心人物だったラトナー氏自身によるドキュメンタリーが本書である。

内容は率直かつ辛辣、「Fuck the UAW!」の場面も

彼はちょっと変わった経歴の持ち主で、若い頃にニューヨークタイムズ記者としてワシントンで過ごした後にウォール街に転身し、名門投資銀行ラザードフレールで最高幹部に上り詰めたあと、通信・メディア部門専門の投資ファンドを設立した。そしてオバマ政権発足後、政治任用の高級官僚として自動車産業救済のためのタスクフォースを率いることになる。

内容は、率直かつ辛辣そのもので、公務員の守秘義務を違反しているのではないかと思わず心配してしまう。一例を挙げれば、大統領の首席補佐官がオバマの支持母体である全米自動車労組(UAW)のことを「くそ野郎ども!(Fuck the UAW!)」となじるのを暴露したりとか。

GMとクライスラーの法的破綻処理を念頭においたオバマ大統領による自動車産業再建の基本構想の発表が3月末日、そこからクライスラーはわずか1か月、GMも2か月で破産法11章の申請手続きまでこぎつけるわけで、自動車タスクフォースの行動力の速さには舌をまく。彼らが対峙するのは、GM・クライスラーの無能な経営陣だけではない。クライスラーを買収することになるフィアット社の曲者社長、UAW、自動車部品企業、何千というディーラー、ウォールストリートの銀行団、そして一番厄介なのが連邦議会の面々である。大統領、ガイトナー財務長官、サマーズ経済政策会議議長の3人の統率の下で、ラトナー氏率いる若手の少数精鋭部隊がこれらの既得権益の代表たちと亘りあう様は、迫力満点である。

「政治と経済のぎりぎりの妥協点」探るタスクフォース

本書で頻繁に登場するのが、ビッグ3と日本自動車メーカーの競争力比較分析。ビッグ3の問題の本質の1つに固定費化された労働コストがあり、このコスト圧力を回避するために需要を上回る量産を行ってしまう。この結果、市場での販売価格が下がり低収益を招くという悪循環が発生する。タスクフォースはこの問題を早くから掴み、破産法適用と、合併戦略を駆使したリストラプランを練り上げていくわけだ。冷徹な数字(例えば標準的なGM車とトヨタ車には4000ドルのプレミアム格差が存在)に裏打ちされた合理的な再建シナリオを描くとともに、大統領レベルの政治決断も加味して総合的な結論を下すことにより、政治と経済のぎりぎりの妥協点をタスクフォースは探っていく。この手法は、大胆な経済リストラ政策を講じる際の1つの規範たりうるだろう。

本書の最後の方に、GMの失敗の本質を、タスクフォースメンバーが対外的に説明するくだりがある。曰く、「GM一家の閉鎖社会」、「説明責任の欠如」、「切迫感の欠如」、「変化を嫌う体質」、「負け組根性」等々。今後、抜本的な構造改革が必要になるに違いない我が国の主要産業セクターの面々がGM病にかかっていないことを祈る。

経済官庁(審議官級)パディントン

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