安倍首相が発足させた「産業競争力会議」で“解雇自由化”に向けた議論が行われている。雇用を流動化し、労働生産性を上げるためという名目でさまざまな仕組みが検討されているが、なかでも現実的と考えられているのが「金銭解決制度」というものだ。

具体的な中身は少々複雑なのだが、例えば正社員A氏が会社側から「勤務態度が悪い」と解雇され、「それは不当だ!」と裁判所に訴えて勝訴したとする。その解雇は違法であるとの判断だ。ところが、A氏に働く意志はあっても、もともとの評価と、暴露合戦と化す裁判(労働審判)の遺恨があるため、会社は職場復帰を認めようとしない。そんな事例は現実にも数多い。

「そのとき、会社は金銭を支払って、A氏を辞めさせようとします。それには、解雇によって得られなくなった賃金相当額(逸失利益)と、一定の補償金が含まれます。お金という解決手段をもって、水面下では今までも事実上の解雇が行なわれてきたわけですね」(労働問題に詳しい弁護士の佐々木亮氏)

こうした例が法令として制度化されると、どうなるのか。

「もしこうした金銭解決が制度として導入されると、年齢や勤続年数に応じて、その相場が設定される可能性もあります。これまで雇用を守ってきた法律や判例に関係なく、国が企業に『○○円払えばクビにしてもOK』とお墨付きを与えることになりかねません」(佐々木氏)

労働ジャーナリストの金子雅臣氏も同意見だ。

「これまで国は業績不振に陥った企業に対し、社員の雇用維持を支援する目的で雇用調整金を与えていました。ところが、解雇自由化後は、“解雇をしようとする企業”に対して助成金が支給されるようになります」

雇用維持を目的とした「雇用調整助成金」と従業員の再就職を支援する「労働移動支援助成金」の予算額の配分は、現状では1000対5の割合。だが、産業競争力会議に名を連ねる竹中平蔵氏(慶應義塾大学教授)は「これを一気に逆転するようなイメージでやっていただけると信じている」と発言しているのだ。

「要するに、解雇自由化が制度化されると、“雇用維持”から“解雇推進”へ180度変わり、経営者側が社員を解雇するにあたって、今までのようにガマンしたり躊躇(ちゅうちょ)する必要がなくなるわけです。企業側からすれば解雇のハードルがグンと下がることで、解雇の自由化が常態化するようになるでしょう」(金子氏)

その結果、いったいどんなことが起きるというのか。

「まず、大企業では社内で公然とリストラ交渉が行なわれることになります。今までは“自分から”辞めさせるために追い出し部屋やリストラ部屋など、時間もコストもかかる手法で社員に自主退職を促してきました。解雇自由化となればそんなことをする必要がなくなりますから、スピーディでローコストな解雇ができるようになるでしょうね」(金子氏)

その実務を行なう人事部が忙しくなりそうだ。

(取材・文/興山英雄)