国際社会が中国に対し、北朝鮮への影響力行使を期待しています。しかし、以前とは性質の異なるドライな中朝関係に、幻想を抱くのは禁物です。

本稿執筆時点ではミサイルは発射されていませんが、北朝鮮の攻撃的な外交姿勢が連日のように日本メディアを騒がせています。

その北朝鮮政府が「全面戦争も辞さない」と敵意をむき出しにして挑発するアメリカでも、ケリー国務長官が日中韓を訪問して北朝鮮情勢を議論したことの関連報道は見られます。ただ、「米国本土まで撃ってくることはない」という安心感からか、国民の関心は北朝鮮へ向かっていないようです。

金正恩(キム・ジョンウン)第一書記も、現状では、本気で日本や韓国の領土を目がけてミサイルを撃ち込むつもりはない。「わが国は核兵器を持っている」と誇示し、特にアメリカを牽制するためにやっているのでしょう。極東アジアは依然として金王朝の瀬戸際外交に弄ばれている状態といえます。

日本メディアの報道で最近特に目につくのが、「ついに中国が北朝鮮との距離をとり始めた」という論調。確かに中国政府はミサイル発射に断固反対の姿勢を明示しており、メディアも北朝鮮の国際協調を無視した横暴を非難しています。

ただ、ぼくの見立てからいえば、中国が北朝鮮との距離感を公に変えたひとつのきっかけは、今回のミサイル関連の動きや今年2月の核実験ではなく、金正日(キム・ジョンイル)の死去とともに始まった金正恩の世襲でもない。

2009年5月25日、隣国であり大切なパートナーでもあった中国に対し、北朝鮮は2回目の核実験を行なうことを開始わずか20分前に通達してきた。実験場のある清津(チョンジン)は中朝国境に近く、安全保障という意味でも大問題。中国はいきなりの知らせに強い不快感を示しました。

当時、大学院生として北京にいたぼくは、この日から中国国内の空気が一変したのを感じました。直接意見を交わした中国の軍人や有識者も、メディアの報道も、誰もが北朝鮮を赤裸々に非難し始めました。

その後、中国は北朝鮮への不信感を強めていったのですが、露骨に反対姿勢を示してこなかったのは国家戦略によるものです。北朝鮮情勢に関する中国の外交目標は「朝鮮半島の非核化と安定」。仮に北朝鮮が“崩壊”するような事態が起これば、何万、何十万という難民が国境を越えて押し寄せ、安全保障をも脅かす混乱に陥りかねない。だからこそ中国は、日米韓に「対話で解決」を呼びかけるのです。


日米韓は中国に対して「北朝鮮へ影響力を行使してくれ」と求めますが、多大な期待を抱くのは現実的ではない。新たに就任した習近平(しゅう・きんぺい)と金正恩という指導者同士の間柄もドライなものです。先日、中国の外交幹部はぼくにこう言いました。

「中国は北朝鮮の権力中枢と独自のパイプを保持しているし、影響力も持っている。ただ、各国が想像するような、運命を共にする血の同盟関係では決してない。そんなのは、60年前の話だ」

また、中国はあくまでも「自国の国益を損なうからミサイル発射に反対する」のであって、価値観やイデオロギーという面で日米韓と足並みをそろえているわけではないということも、われわれは知るべきです。

もっと突き詰めていえば、北朝鮮への影響力行使をめぐるやりとりは、米中間の駆け引きでもある。それにおんぶに抱っこの日本は、当事者でありながら完全に“蚊帳(かや)の外”にいるのです。

だからこそ、ぼくは安倍晋三総理に言いたい。米中に任せっきりで、引きこもっていていいのでしょうか? 拉致問題という課題も抱える日本独自の視点でリーダーシップを発揮すべく、米中韓に働きかけていくべきではないでしょうか? 戦略的姿勢がなければ、尖閣問題を抱える中国との外交だって機能しません。

独立自主の外交なくして国家の安全や国益が確保できるというなら、その方法を逆に教えて!!

今週のひと言


中国と北朝鮮の“ドライな関係”に


過剰な期待をかけてはいけません!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)


日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!