ポイント2.聞こえる母音は1単語に1つ/ポイント3.子音はモノマネで習得する

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■「lock the door」は「ラ、ドー」と聞こえる

英語は単語数の多い言語である。しかし日本語に比べれば「同音異義語」はきわめて少ない。発音を正確に理解していれば、聞き取りは決して難しくない。とりわけTOEICに関していえば、リスニングの勉強をすると、スコアが一気に伸びることが多い。

私の場合、NHKで放送していた20分程度のコメディドラマ『フルハウス』を見ることから始めた。これは「シチュエーションコメディ(シットコム)」と呼ばれる1話完結の連続ドラマで、日本では『奥さまは魔女』が有名だ。2カ国語で録画して、まずは英語放送に耳を傾ける。だが全く聞き取れなかった。「ラ、ドー」と言っているので、何のことだろうと調べてみると「lock the door(ドアを閉めて)」。わずか3語も聞き取れないことにショックを受けた。

それからビデオを何度も見直した。英語を聞いて、何を言っているか考えて、それを一言ずつ確認した。わからない言葉は、日本語の吹き替えを聞き直し、それを英訳して推測する。結果的に、シットコムを教材に選んだのは正解だった。子どもと一緒に見る番組だから、会話はゆったりしていて、発音は正確。20分程度という時間も集中するのにちょうどよかった。最初は1話でわかるセンテンスがひとつかふたつ、全部解読するのに3日かかった。やがて2日になり、1日になり、3年目には初見でも大体の筋が追えるようになっていた。

この結果、わかったことがある。それは最初に聞こえる母音は、1単語に1つだけということだ。たとえば、「McDonald(マクドナルド)」の母音は日本語だと6つあるが、英語では「マクド」の「ド」が「ダー」として耳に届くだけ。同じように「America(アメリカ)」も「メー」としか聞こえない。しかし何度も繰り返し聞くことで、「ラ、ドー」が「ロック、ザ、ドアー」と聞き取れるようになる。最初は「the」のような冠詞や「to」「for」のような前置詞も、ほとんど聞こえない。余計な音を無理に拾う必要はない。何十回も聞き直すうちに、だんだん聞こえるようになってくる。

なぜ聞き取れないか。それは自分が発音できないからだ。発音できない音は聞き取れない。だから克服する方法はひとつ。発音記号をしっかり学び、発音できるようにするのである。

英語には少なくとも15以上の母音がある。一方、日本語の母音は5つ。「カタカナ英語」では、正確な発音はできず、よって聞き取りも難しい。ただ、従来の英語教材では、舌や唇の動かし方に細かい指示があり、挫折しがちだ。そこで私は自己流で発音法を編み出した。

たとえば「ア」の発音。メジャーリーグで活躍した佐々木主浩投手は、当初、キャッチャーから「ファースト!」と指示されて困ったという。それは「fast(速く)」と「first(1塁)」の区別がつかなかったからだ。日本人には「ア」としか聞こえない音も、英語では大きく五つに分かれる。詳しくは別表に写真付きでまとめたので、参考にしてほしい。

子音の聞き分けも難しい。とくに「R」と「L」の聞き分けには、いまだに私も苦労させられている。「R」の発音は桑田圭祐のイメージで舌を丸めること、「L」は山瀬まみのイメージで舌を前歯の裏にはりつけることがポイントだ。専門家からは邪道といわれるかもしれないが、私のなかでは一番しっくりくる方法だ。とにかく自己流であっても、カタカナ英語から脱却できれば、英語にしか存在しない音が耳に入ってくるようになる。

発音の勉強は、成長の実感を得やすいので、とても楽しい。自己流の発話法でも、繰り返すことで、次第に「fast」「first」の違いも聞き分けられるようになる。英語が上達していく楽しさを、日を追って味わうことができる。

一方、単語学習は「埋め立て工事」に似ている。土を少しずつ海に放り込んではいるのだけれど、その土が海面に見えるまでには何の変化もないと思ってしまう。そこに至るまでは莫大な時間と労力が必要なため、途中で諦めてしまいがちだ。しかしだんだん海底に土が溜まっていくように、英単語も頭のなかに少しずつ蓄積されている。コツコツと頑張っていれば、英文を読むスピードは確実に早くなる。気がついたときには、英文をスラスラと読みこなせているはずだ。

■文法書の丸暗記は不可能かつ不必要

英語力を高めるためには、文法も重要だ。単語は、「ある参考書の収録語をすべて完璧に覚える」ということができる。しかし文法は、「文法書の内容を完璧にマスターする」というのは不可能だし、その必要もない。私は「文法が苦手です」という人には、いつも「長い時間をかけて少しずつ慣れていってください」とアドバイスしている。

実をいえば、私も文法は苦手だ。冠詞や前置詞の用法、不規則動詞の活用、to不定詞の使い方……。これらを完璧に覚えるのは難しい。「会話だけ上手くなればいい」という人は覚える必要もないだろう。しかし「英語を仕事で使いたい」という人や「TOEICの点数を上げたい」という人は、少しずつ場数を踏んで覚えていってほしい。ただ、ひとつだけ例外がある。英文には絶対に主語と動詞があるということだ。「何が」「どうした」という骨格となる情報は必ずある。英文を読み解く際の最大のポイントなので、忘れないでほしい。

「TOEICのスコアが上がらない」という相談を何度か受けたことがある。勉強の方法には共通点がある。試験の本番を想定して問題集に取り組む。回答後、1問ずつどこが間違ったかを確認する。そして付属のリスニング用CDも何回か聞く。この方法で何冊か解いた――。

私から言わせれば、これでは勉強の中身はゼロに近い。問題集を1回解いた後、流すように解説を読んで、すべて頭に入るのは天才だけである。英語を勉強するとは「進歩すること」だ。そのためには、問題集は何冊もやるのではなく、同じ1冊を勉強しつくすべきである。その1冊の中に知らない単語や、聞き取れない文章がないように取り組む。「こんなのTOEICに出ないよ」という単語や表現もあるかもしれないが、学んだことは全くムダにはならないから、いま手元にある問題集を徹底的にやってみてほしい。

私自身は集中力が続かないタイプだ。だから「飽きたらやめる」主義だ。単語学習に飽きたら、リスニング。リスニングに飽きたら、リーディング……。ひとつの勉強に1時間かけることはまれで、せいぜい2、30分程度だ。

その代わりと言ってはなんだが、思いついたらすぐ勉強をするようにしている。意気込んで机に向かうことはない。そもそも私の家にはずっと机がない。家での勉強はいつも万年床の中。寝そべりながら英文を読み、「この単語の意味はなんだっけ」と辞書を手繰り寄せる。ときには気分転換のために近所の喫茶店や学習室も使う。移動しながら本も読むし、歩きながら辞書も引く。興味が湧いたときに学ぶのが、1番頭に入る。

あるとき、中年男性から「先生。今、中学生向けのラジオ講座を聞いて学んでいるんですよ。もう遅いですよね?」と恥ずかしそうに声をかけられたことがある。私はなんだか悔しくて泣きそうになった。
「このレベルは何歳までに」という枠組みは、学習塾やメディアが決めたもので、年齢と学習レベルは無関係のはずだ。

思えば私も遅かった。大学卒業後、洋書販売の営業マンとして働いていたが、営業センスがなく、成績はいつも目標の半分を達成できるかどうか。仕事がつらくなって34歳で退社し、貯金を取り崩しながら引きこもり生活を始めた。

何もしない苦しさから逃れるため、何かやろうと考えたとき、人生で最後に褒められたのが学生時代の語学だったことを思い出した。英語を勉強すれば将来に何か役立つかもしれない。でもたぶんムリだろう――。そんな葛藤を抱えながら英語学習を始めたのだ。

勉強している間は不安を忘れられるため、英語は格好の時間つぶしになった。だが3年が経って海外の雑誌がだいぶ読めるようになると、日本への誤解や偏見に満ちた記事に腹が立ってきた。そこで日本人を代表するような使命感に駆られ、英文で反論を送るようになった。これは結果的に英作文の練習になった。気がつけば、私は英語を学ぶことが楽しいと思うようになっていた。今でも学ぶことは楽しい。またお金がたまったら、もう1度引きこもって勉強し直したいぐらいだ。

私の経験から言えることは、「英語学習に近道はない」ということだ。しかし逆に言えば、コツコツやれば誰でもTOEIC 900点はとれる。語学学校や海外留学をする必要はない。たくさん文章を読み、発音を練習し、単語を覚え、忘れたらまた覚える。私が好きな言葉――「愚直」にやることが最高の勉強法だと信じている。

■「イングリッシュ・モンスター」高得点を約束する7カ条

1.英語は単語の集まったモンスターだと思え
2.とにかく「忘れては覚え」の繰り返し
3.問題集は1冊をやりつくせ
4.好きなジャンルの英文をインターネットで読め
5.主語と動詞を最初に見つけろ
6.「カタカナ英語でいい」と開き直るな
7.高得点をとる特別なテクニックなんかない

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菊池健彦(きくち・たけひこ)
1959年、青森県生まれ。北海道大学文学部を卒業後、洋書店に入社。34歳のときに退社。引きこもり生活に入り、独学で英語学習を始める。7年後に貯金が底をつき、英語講師を目指して試しに受けたTOEICで970点をとる。以後、990点満点を38回記録している(2013年3月現在。ナラド エンタテインメント公式サイトより)。海外渡航経験なし。独身。著書に『イングリッシュ・モンスターの最強英語術』(集英社)などがある。

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(菊池健彦 構成=鈴木 工 撮影=市来朋久)