大相撲の地方巡業では本場所では見られないファンサービスが行われるが、思いがけないアクシデントも付き物のようだ。
 「その“1万円札バラまき事件”が起こったのは、4月6日の神奈川県藤沢市『藤沢場所』。化粧まわしをつけた力士6人が土俵上で輪になり、手拍子に合わせて自慢のノドを披露する“相撲甚句”の最中。輪の中心は春場所、横綱、大関に初挑戦し、ファンを沸かせた大阪出身の勢(伊勢ノ海部屋)でした」(担当記者)

 その甚句がたけなわに差し掛かったとき、突然、60歳前後の初老の男性が土俵に上がってきたのだ。
 「呼出しが慌てて下りるように促したのですが、男性はその手を振り払い、やおらポケットから財布を取り出すと、歌っている力士たちに1万円札を1枚ずつ配り始めました。きっと“ご祝儀”のつもりだったんでしょう。最後は強制的に引きずり下ろされ、配ったお金もすぐ返還されましたが、場内はとんだハプニングに大騒ぎでした」(同)

 ひいきの力士や上位を食った力士たちに、タニマチ(後援者)がご祝儀を渡すのは大相撲界の伝統だ。
 大正時代、後に横綱になった新小結の栃木山が横綱太刀山の連勝を56でストップさせ、意気揚々と花道を引き揚げて来ると、汗で濡れた背中に百円札が2枚貼り付いていたという。
 当時の百円は今なら30万円以上の価値がある。いかに若手力士の殊勲にファンが狂喜したかを物語るエピソードとして語られているが、これと今回の1万円札バラマキ事件とは、およそ似て非なるもの。単なる小金持ちが、これ見よがしに配っただけだ。
 「悲しいのは、すぐに返還したものの、いったん6人の力士全員が、それを嬉しそうに受け取ったこと。大相撲界が力士たちの意識改革に取り組んで久しいですが、尾車巡業部長(元大関琴風)は、『今後、二度とこういうことが起こらないように目を光らせないといけない』と苦い顔。改革の効果が上がっていないことを露呈してしまいました」(スポーツ紙記者)

 変化の道、いまだ遠し。