セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO 鈴木敏文氏

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価値の再編集などを意味する「キュレーション」というアメリカ生まれの概念が、ビジネス界で注目されている。総合デザインに佐藤可士和氏を迎えた新生セブン−イレブンを例に、この新時代の発想法を追った。

■キュレーション力を磨き続ければ市場は飽和しない

ローソンやファミリーマートはトップ自ら、「市場飽和説」を公言する。既存店売上高が伸び悩むなど、数値データからは一見そう見える。

一方、鈴木敏文氏は「変化対応していけば市場飽和はありえない」と唱える。考え方の違いはどこにあるか。

【鈴木氏】もし、どのコンビニも同質であったら、市場は飽和しているといえるでしょう。何も意識せず店内を見れば、ローソンもファミリーマートもセブン−イレブンも同じに見えます。

しかし、自分で買い物をする意識で見ると、ほしい商品があるかないか、商品がおいしいかどうか、それぞれに違いが出てきます。そのなかで顧客はどの店を選ぶか、その選び方が一店舗あたりの日販の差に表れます。

セブン−イレブンの平均日販は約63万円と他社と12万円前後の開きがあります。どの店も同質で業績も同レベルだったら市場は飽和していますが、日販の差がそうではない証しです。

また、業界のなかで何ら革新性が出てこなかったら、飽和しているかもしれません。しかし、セブン−イレブンの場合、住民票の写しや印鑑登録証明書が夜間や休日でも身近な店舗で取得できるコンビニ初の行政サービスを始めるなど、革新的な試みに次々着手しています。近くて便利な店としての利便性はいっそう高まるはずです。市場のどこが飽和しているのでしょう。市場飽和を唱える人たちはマーケットを固定的に見ているとしか思えません。

世の中は常に変化します。例えば、2011年の夏は電力不足問題からスーパークールビズが提唱され、アロハシャツや短パン姿も職場で認められるようになりました。これまでのサラリーマンの世界では考えられないことです。電力不足の問題1つで常識が簡単にひっくり返る。これも世の中の変化です。

マーケットが変化するなら、売り手側も変化しなくてはならない。その際、忘れてならないのは、新たな需要は店のなかではなく、常に外にあるということです。コンビニの店舗というプラットホームの意味を問い直し、今は店の外にあるが、顧客の潜在的なニーズを掘り起こす商品やサービスを取り込み、照準を絞り込んでレコメンドし、新しい価値を伝え続けていく。

これを絶えず繰り返していけば、単身世帯や共働き世帯の増加を背景に、新しい市場を生み出していくこともできます。決して市場は飽和しない。むしろ、コンビニはこれから一番伸びていかなければならない。ここに考え方の決定的な違いがあるのです。

――一方は市場が飽和すると考え、もう一方は新しい市場を生み出せると考える。違いはキュレーション的な発想ができるかどうかだ。

iPadがこれまでなかった市場を喚起したように、キュレーションの大きな特徴は、新しい編集により、新しい市場が生まれることにある。セブン−イレブンの一連の取り組みも、「近くて便利」を具現化するため、売り場を新たに編集したことにより、ミールソリューションという新しい可能性が引き出された。直近の業績で、11年5月の既存店売上高はセブン−イレブンが最も大きな伸びを示している。

また、iPadは必要とされたのではなく、ユーザーが欲したデバイス(機器)であるといわれる。モノ余りの時代には、消費者自身は「こんな商品がほしい」という意見を持たず、現物を見せられて初めて、こんなものがほしかったと気づく。顕在的なニーズに応える商品は誰でもつくれるが、潜在的なニーズ、すなわちウォンツを掘り起こす商品は革新的な取り組みのなかでしか生まれない。

とすれば、受け手の立場に立って、何が「よりよい価値」なのかを問い直し、受け手が欲するコンテンツや機能を絞り込み、新しい価値を的確に伝えられたものだけが強い支持を得ることができる。キュレーションの発想力が競争力を左右する時代に入っていることを認識すべきではないだろうか。

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セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO 鈴木敏文(すずき・としふみ)
1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。

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(ジャーナリスト 勝見 明=文 岡倉禎志=撮影)