資産運用や人生設計についての多数の著書を持つ作家・橘玲氏が、世界経済の見えない構造的問題を読み解く『マネーポスト』の連載「セカイの仕組み」。アベノミクスが最悪シナリオの財政破綻に向かった場合、【1】金利の上昇、【2】円安(通貨の下落)、【3】インフレという3つのリスクが想定されるが、ここでは「インフレ」について解説する。

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 20年もデフレが続いて、私たちはモノの値段が上がることをうまく想像できなくなっているが、財政破綻は最終的にはインフレに行き着くことになる。

 これはきわめて単純な理屈で、インフレというのは国家にとって税金の一種であり、歴史上、巨額の財政赤字はほとんどが「インフレ税」によって清算されてきた。インフレで借金の実質価値を減らすことができなければ、どこまでも財政赤字は拡大しつづけるから、けっきょくインフレになるほかはない。

 国債というのは固定金利による借金のことだ。あなたの月収が20万円で、期間10年で1000万円の住宅ローンを年利3%で借りているとしよう。このとき日本を900%(10倍)超のハイパーインフレが襲えば、生活はなにひとつ楽にならなくても、名目の月収は200万円になる。金利も大幅に上がっているだろうから、これを銀行に預けるだけで普通預金でも20%以上の利息がつくかもしれない。

 しかしそれでも、契約で決められた固定金利の年利3%という条件は変わらない。1000万円のローンの実質負担は10分の1以下になり、借金はたちまち返済できてしまう。インフレというのは、国家にとってこれと同じ効果があるのだ。

 しかしこれは、国債の(最終的な)保有者である国民にとってはとんでもない事態だ。物価が10倍になれば、1000万円の貯金の実質価値は10分の1になってしまう。銀行が破綻すれば、1000万円超の預金はペイオフで一部しか返ってこない。1990年代末の保険会社の破綻では、保険金の減額や保険料の大幅な値上げが社会問題になった。

 いったんインフレが起こると、円安を引き起こす。これは因果関係を逆にして、円安が輸入品の価格を押し上げて国内物価をインフレにする、といっても同じことだ。このようにして財政が破綻すると、金利の上昇→円安→物価の上昇というスパイラルが始まって、加速度的にインフレ率が上昇し、最後はハイパーインフレと呼ぶような物価の暴騰に至る。

 インフレの最大の被害者は年金だけで生活しているひとたちで、急速な物価の上昇で家賃を払えずにホームレスになる高齢者が激増するかもしれない。ハイパーインフレとは、国民を犠牲にして国家が借金を清算することなのだ。

【プロフィール】
●たちばな・あきら:1959年生まれ。作家。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』など著書多数。財政破綻に備える資産運用の詳細は新刊『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』を参照。

(連載「セカイの仕組み」より抜粋)

※マネーポスト2013年春号