パワハラかどうか判断が難しいケースがある

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パワハラは、それが原因でうつ病になり自殺を引き起こしたことが、裁判で労災として認定されてから注目を集めるようになった。雇用調整を伴うリストラの中で顕在化してきた側面もある。しかし最近では、従来なら問題にならなかったような些細なことでパワハラだと訴えられるケースが増えている。上司としては、部下への叱り方1つで、裁判沙汰になりかねない時代になったのだ。

元来、パワハラに該当するかどうかの1つの判断基準は「人権侵害」に当たるかどうかだ。「愚図な性格だから結婚できない」「親の顔を見たい」「三流大学卒だからこの程度の仕事しかできない」など、仕事と関係のないことを持ち出せばレッドカードとなる。「酒が飲めなければ営業はできない」などと断定的に強要することもいまや御法度だ。大相撲の「かわいがり」の例を持ち出すまでもなく、従来「よし」とされてきたこと、特定の業界では常識とされてきたことが、もはや世間の非常識であることに気づく必要がある。

ただ最近では、上司と部下の人間関係に大きな溝が生まれているため、パワハラかどうか、判断が難しい場合がある。どういうことか。

パワハラを起こしやすい典型的なタイプの人の特徴としては、(1)仕事ができる、(2)実績がある、(3)まわりに注意できる人がいない、(4)キレやすいといったことが挙げられる。経験主義に陥りやすく、「自分の若いときには……」などと成功体験を振りかざして部下を叱責するところが問題だ。本人は熱血指導のつもりでも、自慢話をしているにすぎない。部下は指導内容を理解できないどころか不満を感じるだけで、コミュニケーション不全が起こる。

しかも、多くの労働相談を受けている経験から感じることは、最近の若者は、上司が感情的になり大声で叱責すると、頭の中が真っ白になり、何を言われているか受け止められない人が多い。叱責されることに対する免疫力が低下しているのだ。

■部下への指摘はその場では我慢

これでは、上司と部下の溝は深まるばかり。上司の熱血指導は、部下にとっては単なるパワハラとしか受け止められなくなってしまうのだ。

例えば、何度注意しても初歩的なミスを繰り返す部下を上司が指導していたら、部下が不満気な表情を浮かべ反論してきたとする。上司はついカーッと頭に血が上り「何度言ったらわかるんだ、バカヤロー!」と大声で怒鳴りつけてしまった。

この場合、「バカヤロー!」という言葉尻だけを捉えてパワハラかどうかを判断することは難しい。問題となるのは、その言葉の周囲にある状況や受け手の尊厳を傷つけたかどうかである。

部下にしてみれば「改善努力はしている。みんなの目の前でバカヤローと大声で罵るのはゆきすぎだ」という納得できない気持ちを抱くかもしれない。そうなれば、パワハラとして訴える可能性も出てくる。

ところが、人間関係の距離が近ければ話は変わる。普段からいろんなことを話し合うことができ、尊敬している上司から「バカヤロー!」と言われたのであれば、部下は激励と受け止めるはずだ。また、人間関係の距離が近ければ、「言いすぎだった、悪かった」と謝れば済むケースも少なくない。そこがパワハラとセクハラとの大きな違いでもある。

では、人間関係の距離を縮めるためにはどうしたらいいのだろうか。まず、上司が我慢をして部下への不満をためこむのは、職務遂行上、精神衛生上よくない。部下の仕事ぶりで気づいた点があれば、小出しにして密なコミュニケーションに努めるのが賢明だ。ただし、感情的にならないためにも、即その場で指摘するのではなく、定期的に部下と仕事の進め方について話し合う機会をつくろう。未熟な経験にチャンネルを合わせて、経験論だけで説明をしないことも重要となる。

くれぐれも「お酒に誘ってノミニケーションでOK」などと考えてはいけない。いまや、それ自体がパワハラの引き金となりかねないのだ。

(「職場のハラスメント研究所」代表理事 金子雅臣 構成=小澤啓司)