商品ロゴやパッケージのデザインを担当した佐藤可士和氏。

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価値の再編集などを意味する「キュレーション」というアメリカ生まれの概念が、ビジネス界で注目されている。総合デザインに佐藤可士和氏を迎えた新生セブン−イレブンを例に、この新時代の発想法を追った。

■ブランドの価値をきちんと「整理」し、的確なコミュニケーションで伝える

ビジネスのあり方や本質を問い直し、提供すべきコンテンツを選択し絞り込む。ただ、それだけでは顧客に新しい意味や価値はなかなか伝わらない。キュレーションで難しいのは、それぞれのコンテンツを結びつけ、1つのブランドとして価値を表現する伝え方だ。

セブン−イレブンの場合、日本で最も活躍するクリエーティブディレクターの1人、佐藤可士和氏とタッグを組むことで、この問題の打開策を図った。おにぎりや弁当、パン、惣菜などのオリジナル商品を全面リニューアルするとともに、従来バラバラだった商品のロゴやパッケージデザインを佐藤氏の力を借りて統一する。売り場全体でブランド価値を再構築し、顧客に再認識してもらうブランディングプロジェクトを1年がかりで進めたのだ。

グループの広報誌上で佐藤氏と対談した縁で、プロジェクトへの協力を求めた鈴木敏文氏がいきさつを話す。

「私は、小売業にとって、新しいものを生み出すと同時に、新しさをいかに伝えていくか、コミュニケーションが非常に重要だと考えていました。ところが、アピールの仕方に全体感がなく、単発に終わっていて、なかなかブランドの価値が伝わらない。日ごろの問題意識をお話しすると、佐藤さんも同じ考えを持っておられた。そこでセブン−イレブンを進化させるため、力を貸してほしいとお願いしたのです。

2人だけで何回も話し合い、私の信念をすべてお話ししました。ロゴやデザインを具現化するため、社長以下、現場部隊も入ったミーティングは1年間で30回を超えました」

その間のエピソードが、11年5月31日に行われた新ロゴの発表会で披露された。あるとき、弁当を試食した佐藤氏の口から意外な言葉が飛び出した。

「ところで、この弁当はどこの仕出し屋がつくっているのですか」。セブン−イレブンではチームMD(マーチャンダイジング=商品政策)といって、ベンダーと呼ばれる弁当メーカーとチームを組んで共同で開発し、品質の改善改革を積み重ねてきた。ところが、コンビニに強い関心を持っていたという佐藤氏にも、価値が伝え切れていなかったのだ。

現場部隊を率い、佐藤氏と並んで発表会に臨んだ井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者)が、「われわれにはコンテンツはあっても、それらをつないで結びつけるコンテクスト(文脈)がなかった」と語る言葉が印象的だった。

近くて便利なだけでなく、味や品質を徹底追求する。脈々たる理念を1つのブランドマークにいかに注ぎ込むか。実際、1年に及ぶブランディングプロジェクトは、佐藤氏によれば、「セブン−イレブンの確固たる信念をブランドマークで表すプロセスだった」という。その意味合いを鈴木氏はこう話す。

「個と全体という構図でいえば、これまではそれぞれの商品について、個としてしか考えなくて、“セブン−イレブンとしての弁当”という感覚がなかった。いや、みんな、自分ではあるつもりでいた。しかし、弁当にはロゴマークもついていないし、パッケージも全部違っていて、結局、バラバラでブランドのイメージが伝わっていなかった。

今回のプロジェクトで学んだのは、提供する価値を整理することと、それを的確なコミュニケーションで伝えることの大切さです。すると顧客の側も、個々の商品は違っても、ロゴやデザインが統一されていることで、背後にある関連性や文脈を感じることができます。商品の絞り込みはレコメンドする価値を強く意識づけるためですが、それは整理して伝えることで初めて意味を持つのだと学んだのです」

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セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO 
鈴木敏文(すずき・としふみ)
1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。

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(ジャーナリスト 勝見 明=文 岡倉禎志=撮影)