NY発 ファイナンシャルINSIDE_5月号
米国に金融危機をもたらしたサブプライムローン。この商品を組み込んだRMBSという証券などに甘い格付けを付与したとして、大手のS&Pが提訴された。そして、詐欺的な格付けは“錬金術”とみなされたのである。


コードネームは「アルケミー(錬金術)」。20人超の法律専門家が動員され、3000万もの文書を解析。金融通のバーニー・フランク議員(米下院・民主党)は「当初から狙っていた」と喜びのコメントを発表した。

2月4日、米国司法省が格付け会社S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)を詐欺の疑いで提訴したのだ。2004年から07年までの間、米国金融危機の原因となったサブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)を組み込んだ証券化商品に付与した格付けが「詐欺的」だったというものだ。

賠償請求額は50億ドルを超え、投資助言会社を運営するバリー・リトウィッツ氏がエンロンの粉飾決算を手助けした会計事務所アーサー・アンダーセンを引き合いに出し、「S&Pが同じ運命をたどらない理由はない」と自身のブログに記した。ブルームバーグなど地元メディアが、「事業の存続が危ぶまれている」ともあおり、ニューヨーク市内にあるS&P本社には連日マスコミが押し寄せた。

翌5日にワシントンで記者会見した司法省幹部によると、訴訟の根拠法は金融機関を詐欺から守るFIRREA(金融機関改革法)。119ページからなる訴状には、「モデルはリスクの半分も捉えていない」「我々は(格付けを)やるべきでなかった」といった格付けアナリストの赤裸々な発言が紹介されている。

問題となったのは、サブプライムローンを組み込んだRMBS(住宅ローン担保証券)やCDO(債務担保証券)と呼ばれる証券化商品。社債といった従来の格付けビジネスよりも利ザヤが厚かったために、「独立性や客観性が求められる格付け部門にビジネス部門が圧力を加えていた」と司法省は主張する。訴状には「ミズホRMBSの商売をムーディーズに取られた」としたS&Pのコメントも紹介されており、日本の金融機関も登場する。

欧州危機の引き金を引いた格下げや米国国債の格下げと世界中で注目される格付け会社だが、本件はビジネスと格付けの利益相反が論点だ。格付け会社は営利企業なので、顧客を喜ばせる高めの格付けが乱造されるリスクがあるのだが、S&PはRMBSなどを格付けする際に、市場シェアを意識するあまりに格付けのモデルを調整していた、と司法省は主張する。ただ、司法省の動きに批判がないわけでもない。20年以上も前に制定した?眠れる法律〞を引っ張ってきたのは、司法省が刑事訴訟に勝つ自信がない証拠でもある。

そもそも発行体企業や証券化商品の引受証券にこび44を売るために甘めの格付けをつける「レース・ツー・ザ・ボトム(底への競争)」はS&Pに限らず、業界全体の問題。大手のムーディーズやフィッチにおとがめがないのは不自然だ。当時はメリルリンチ等が保有していたRMBSを必死に売却しようとしており、投資家がババをつかんだのは業界全体の責任である。

松浦 肇(Hajime Matsuura)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員

日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナリズム・スクールにて修士号を取得。




この記事は「WEBネットマネー2013年5月号」に掲載されたものです。