自動車レースの最高峰であるF1(フォーミュラワン)への復帰が半ば確定的となっているホンダ。そんな中、ホンダと同じく2000年代にF1に参戦していたトヨタの復帰説がまたぞろ噂として出てきた。

 情報源は、メルセデスのチーム代表コメント。「ホンダの他にもF1を検討している企業がある」と漏らしたことから、業界通たちの“尾ひれ”がついて「TOYOTA」の名が取り沙汰されているというわけだ。もちろん、ホンダもトヨタも公式発表をしていないため何ら確証はないのだが、モータースポーツファンにとって日本チーム復活を待望する声も少なくないのは事実だ。

 一度は撤退を決めた日本勢のF1復帰。その動機は何なのか、また復帰した暁には国内外にどんなメリットをもたらすのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏に聞いた。

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――トヨタのF1復帰説をどう見るか。

井元:トヨタは2009年にF1から完全撤退しましたが、参戦した8年間で優勝は1回もできませんでしたし、リーマン・ショックによる金融危機の影響で、F1チームの拠点であるTMG(トヨタモータースポーツ有限会社)は清算するような形で終わらせてしまいました。そうした苦い経験があるだけに、「本当にまたやるのかな?」と。

――F1に再び参戦することになれば、莫大な投資も必要だ。

井元:もちろん円安が進んだおかげで海外での業績を盛り返している自動車業界だけに、モータースポーツへの投資もしやすい環境になっていることは確か。でも、ホンダも既存のチームにエンジンを供給する形での参戦が囁かれていますし、関わり方によって投資額は違ってくるでしょう。しかも、トヨタはヨーロッパの耐久レース選手権などで成果を上げていますし、決してF1だけがモータースポーツだとは思っていないはずです。

――では、F1に参戦することの最大のメリットは?

井元:アメリカに比べて販売台数が振るわないヨーロッパでブランドイメージを高められることが大きいと思います。先進国市場の中でもヨーロッパは世界一、「走り」にうるさいユーザーが多く、そこで成功することは、新興国においてもブランド力を輝かせる原動力になるのです。

――F1はその格好の材料になると。

井元:そうですね。また、F1技術は市販の自動車研究に応用できるものはなくなったと言う人もいますが、そんなことは全くありません。例えば、「トヨタ86」や「カローラ」、「クラウン」ほかいろんな車種のテールランプ付近などに小さな突起物がついているのを知っていますか? あれは高速走行時の車両の安定性を保つのに有効で、F1カーから学んだパーツ。トヨタはF1をやったおかげで、世界でも注目される空力レベルになりました。

――ただ、F1エンジンなどはそのまま量産車に適用されるわけではない。

井元:これもよく誤解している人がいますが、F1のエンジンはエネルギー効率からいえば、市販車よりケタ違いにいい最高峰の技術です。例えばレース車を2時間近くもあのスピードで走らせる割には、たった200リットルの燃料で済んだりします。

 今年6月にホンダから発売される予定のハイブリッドカー『アコードPHEV』のエンジン開発者は、F1はじめ多くのレース車エンジン開発に従事してきた第一人者。新型アコードはその技術を応用して、飛躍的に燃費を向上させたと前評判は上々です。

――さて、日本メーカーのF1復帰が次々と果たされれば、若者のクルマ離れも防げるのか。

井元:F1に日本チームが復活したからといって、モータースポーツファンが一気に増えて若者向けのスポーツカーが売れて……という好循環はすぐに期待できません。本当にファンを引き付けたいならば、実際にレーシングカーに同乗して速さが体感できるイベントを開くなど、もっと触れ合いのプロモーション活動をメーカー自らが行わない限り、国内の地盤沈下は止まらないと思います。