誕生から37年、「開いててよかった」から「近くて便利」へ刷新した。

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価値の再編集などを意味する「キュレーション」というアメリカ生まれの概念が、ビジネス界で注目されている。総合デザインに佐藤可士和氏を迎えた新生セブン−イレブンを例に、この新時代の発想法を追った。

キュレーションは美術館や博物館で企画や展示を担当する専門職のキュレーターに由来する。例えば、美術館のキュレーターは既存の作品の意味を問い直し、選択し絞り込み、美術館というプラットホーム上でそれらを結びつけ、新しい意味や価値を伝える。

ITジャーナリストの佐々木俊尚氏は著書『キュレーションの時代』で、主にネット上でユーザー自身が情報のキュレーションを行っている動きを紹介したが、キュレーションの発想はリアルの世界でも広まっている。

一例をあげれば、アップル社のタブレットコンピュータiPadは「キュレーテッド・コンピューティング」と呼ばれる。

あれもこれもできる多機能のパソコンと異なり、DVDプレーヤーもなければ、CD焼き付けもできないが、つくり手によって機能が選択され絞られていることで、逆に使いやすさという新しい価値が提供された。

結果、iPadは既存のパソコンが入れなかった場面にも入り込み、高齢者など既存のノンユーザーにもIT利用を可能にし、新しい市場を生み出した。

また百貨店にかわり、洗練された商品を選んで集めて人気上昇中のセレクトショップもキュレーションの典型で、オーナーやスタッフはキュレーターに例えられたりする。

20世紀がつくり手側の発想で「より多くの価値」を追求する時代だったとすれば、21世紀に入った今、受け手側の視点でそれらを再編集し、「よりよい価値」を実現していくキュレーションの時代に入ろうとしている。

それを日本でいち早く実践しているのが、流通の最前線で事業を展開するコンビニエンスストアチェーンの王者、セブン−イレブン・ジャパンだ。

鈴木敏文会長兼CEO(最高経営責任者)の主導により、2009年秋から店舗での商品やサービスの大幅な見直しに着手して1年半、11年2月期決算の既存店売上高は消費不況下でも前年を上回る実績をあげ、前年並みか前年割れの競合他社との力の差を見せつけた。

キュレーションが今なぜ注目されるのか。それはどのように行われるのか。セブン−イレブンの取り組みを例に考え方やプロセスを追ってみたい。

■ビジネスのあり方を「再定義」し「新しい意味」を見いだす

キュレーションの最初のステップは、これまでのビジネスのあり方を問い直し、意味を再定義することから始まる。セブン−イレブンが09年秋に着手した品揃えのキュレーションも、コンビニの本質を見つめ直し、「今の時代に求められる『近くて便利』」という新たな意味を見いだすところからスタートした。その経緯について鈴木氏が話す。

【鈴木氏】日本初の本格的なコンビニエンスストアチェーンであるセブン−イレブンはもともと、初期のテレビCMの「開いててよかった」のコピーどおり、日本人の生活時間が広がっていくなかで、近くにあっていつでも開いている利便性を提供し、若い層を中心に強い支持を受けました。

それから30年以上経った今なぜ、「近くて便利」というコンセプトをまた追求したのか。

それは日本の生活環境やマーケットの変化を見すえ、自分たちはどのような顧客に対し、どのような商品やサービスを提供していくべきか、改めて問い直し、変化への対応を徹底するためでした。

日本は総人口が減少する一方で、少子高齢化や非婚化を背景に単身世帯は逆に増え、今後も一世帯あたりの人数はどんどん減っていきます。また、女性の就業率は年々高まり、60%近くに達しています。

とすると、スーパーマーケットまで行かなくても、近くのコンビニでほしい商品がほしい分量だけ手に入れば、そこで買い物をすませようと考えるのは自然の流れです。

日本人の生活パターンが変わってきた今だからこそ、コンビニを「近くて便利」というコンセプトで定義づけることが重要ではないか。全国各地で店舗の経営相談にあたるオペレーション・フィールド・カウンセラー(通称OFC)たちに、そう語ったのが始まりでした。

もちろん、コンビニエンスストアという言葉自体、便利な店という意味です。別に「近くて便利」などといわなくてもいいのではないかと思われるかもしれません。ただ、便利という言葉はあまりにも広い意味を持ち、なんにでもあてはまってしまいます。

また、われわれ日本人のなかに、「コンビニといえば、ああいう店だ」という固定したイメージができあがっているところもあります。そのイメージのなかにいる限り、マンネリ化するだけです。

そこで、コンビニエンスを「近くて便利」といい換えることで、セブン−イレブンでまたなにか新しいことが始まるのではないかという感覚を顧客に持ってもらう。店舗のオーナーさんたちにも、自分たちが目指す方向性を示すことができます。セブン−イレブンといえば、「近くて便利」が“枕詞”になるようにする。それが大事だと考えたのです。

――セブン−イレブンはこの取り組みを開始すると、「近くて便利」という新しいコンセプトを訴求するテレビCMの放映も開始した。ポップシンガーの財津和夫が率いたチューリップの往年の名曲「青春の影」がBGMに流れ、人々の暮らしのなかにセブン−イレブンが溶け込む様を映したCMは好評を博し、商品そのものを訴求したローソンやファミリーマートのCMとは方向性の違いを感じさせたのだった。

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セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO 
鈴木敏文(すずき・としふみ)
1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン−イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。

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(ジャーナリスト 勝見 明=文 岡倉禎志=撮影)