アメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアといえば、世界有数の広告激戦区です。そんななかに、ひとつだけ毛色のまったく違う妙な広告を見つけました。

先日、ニューヨーク(以下、NY)に出張した際、かの有名なタイムズスクエアに初めて立ち寄りました。人種のるつぼと呼ぶにふさわしい多様性とカオスを醸し出していました。

ビル街を少し見上げれば、四方から世界各国の大企業の広告看板が迫ってきます。日本の東芝やソニー、韓国のヒュンダイやサムスンといった企業は目立つ場所に展開しており、アメリカにおけるアジアンパワーを実感しました。

そんな広告群のなかに、ひときわ異彩を放つ大型LEDモニターを発見。「新華(しんか)通信社 Xinhua News Agency」。最近日本でも知る人が増えてきた中国の国営通信社です。NYでありながら漢字表記を前面に押し出し、英語よりも目立っていました。

しばらく眺めていると、モニターは次々と表示内容を入れ替えていく。新華社以外に、「中国山東(シャントン)」や「中国甘粛(カンスー)」など地方政府のPR、大手家電会社……といった具合です。

NYのど真ん中で、ぼくは一種の異質感に襲われました。

民間企業がタイムズスクエアに広告を出すのは普通のこと。しかし、ぼくが見た中国のLEDモニター広告は、内容からいって、そのほとんどは中国政府が国家戦略として出資している。

しばらく途方に暮れていると、漢字広告を見ながら、「ウォー!」と歓声を上げる一団が近くに寄ってきた。中国人観光客です。あの広告はアメリカ社会・アメリカ人に対する国家PRだけでなく、NYを訪れた中国人、在住している中国人に対し、意思統一を働きかけるプロパガンダなのでしょう。ぼくが見たところ、タイムズスクエア周辺にいるアジア系観光客の半分以上は中国人でしたから、異国の地でチャイナパワーを誇示し、中華民族の意思統一を図るという意味では、それなりに効果のある戦略なのかもしれません。

とはいえ、こういうことを臆面もなくやってしまう中国政府には一種の違和感を覚えずにいられません。

この一件で思い出したのが、2011年に広州で、「中国の国家イメージを向上させるために何をすべきか?」というテーマのシンポジウムに参加したときのことです。

中国政府は以前にもタイムズスクエアに広告を出したことがあります。国内の有名アーティストや一般農民などが出演する映像で、アメリカでの中国国家イメージを改善する狙いを持ったものでした。これがケーススタディとして取り上げられ、意見を求められたぼくは、次のような話をしました。

「中国にとって国家イメージは“核心的利益”。やらないよりはやったほうがいいと思う。ただ、方法論は別にあるのではないか。以前、東京で母とコンビニに行った際、親切に対応してくれた女性店員さんがいた。名札を見ると『李』とあり、中国からの留学生だという。母は『今どきこんなに素晴らしい若い方がいるのね』と感心し、中国に対するイメージはガラリとよくなった。

国家のイメージを変えるのはタイムズスクエアに流れるプロパガンダ広告ではなく、そこを歩く中国人観光客やそこで学ぶ中国人留学生たちだ。彼らの表情や立ち居振る舞いが、よくも悪くも現地社会の中国に対するイメージを長期的なスパンで形づくっていく」

タイムズスクエアで「新華社」の広告を見て歓声を上げていた観光客をしばらく見ていると、悲しいことに、周りを気にすることもなく大声で振る舞い、たばこをポイ捨てするなどゴミを散らかして去っていきました(もちろん、多くの中国人がきちんとしたマナーで振る舞っている事実は尊重するべきですが)。

アメリカ人が見て不可解な広告をタイムズスクエアに出し、それを見る観光客はマナー違反……。こんな状態で国家イメージを改善できるというなら、その理由を逆に教えて!!

今週のひと言


政府がいくら宣伝したところで、


中国の国家イメージは改善しません!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)


日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!