各地で頻繁に行われている「反韓デモ」。2013年4月21日。東京新宿区、JR新大久保駅周辺で、先月31日に続いて大規模な反韓デモが行われた。限度を超えたヘイトスピーチ、デモ隊の主張に反対する人々が集まり、自らのことを反韓デモへの「カウンター」と呼んだ。デモ参加者、カウンターの人々、現地の住民、通りすがりの観光客。本記事は彼らへの聞き取り取材をもとに構成したルポであり、デモのレビューである。

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2013年4月21日。日本有数のコリアンタウンである東京・新大久保。
怒号が響きわたった。

「在日外国人は出ていけー!」
「日本人を保護しろー!」
「在日朝鮮人を、日本からたたき出せー!」

「行動する保守」に分類される団体による、いわゆる「反韓デモ」である。朝鮮学校への補助金撤廃や、外国人参政権反対を訴えながら車道を行進するデモ隊。

一方、歩道ではデモ隊のヘイトスピーチに反対する人々がひしめいていた。
「レイシストは帰れ!」
「お前らこそ新大久保から出ていけ!」
「同じ日本人として恥ずかしい!」

デモ隊から一言が発せられる度に、次々と怒声を返す人々。「排外主義は日本の恥」と書かれたプラカードを掲げる者もいた。彼らの多くは特定の団体に所属しておらず、ネット上の告知を見て集まった有志たちである。
ある者は、反韓デモ隊の「人種差別」に対抗するという意味で、自分たちの活動を「カウンター」と称す。

われわれは、約2時間に渡って行われたデモ行進と、それをとりまくカウンターの人々に取材を試みた。
日本列島は寒気に被われ、3月なみの寒さとなった新大久保。しかし、デモ行進に合わせて、ある種異様な熱気が周囲を包んでいった。


【知りたくもないしね、関わりたくないと思っていましたよ】

午後0時。JR新大久保駅前、喫煙所。
差別主義・排外主義を掲げるデモに反対を表明する30代のAさんという男性を中心に、数名の有志が集まっていた。彼らはツイッターやブログを見て新大久保へ来たのだと言う。

カウンターとして行動する人々の参加理由は実に様々だ。
今回が2回目の参加だという大学生のBさん(21歳男性)は、朝鮮大学校との学習会がきっかけだ。そこで在日朝鮮人の友達がたくさんできた彼は、デモ隊の差別的言動をネット上の動画で見て、驚いた。何か自分に出来ることはないかと考えカウンターに参加した。
また、拡声器を肩に掛けるCさん(30代男性)に参加理由を尋ねてみると「やっぱネトウヨ、大嫌いなんすよ」だそうだ。
「僕の思想は右寄りなんです」というDさん(40代男性)。「反韓デモの連中がやっていることは単なる人種差別。日の丸を掲げながら在日を殺せだなんて、日の丸のイメージを損なうだけなんですよ」と語る。
今回が三回目の参加となるEさん(40代女性)は在日朝鮮人3世である。
在日朝鮮人からすれば許せないという気持ちが強いのではと尋ねてみる。「最初はね、できれば(反韓デモの事は)知りたくもないしね、関わりたくないと思っていましたよ。そりゃ、そうでしょ。気分がね、本当に苦しくなるから。これは日本人にとっての問題。でも日本人の問題だからこそ私たちの問題でもあるんじゃないかなと思ってね」

時間が経つにつれて有志たちの数は増え、1時間後には20名弱ほどになっていた。反原発デモなど、他のデモに参加したことのある人もいれば、今回のカウンターで初めてデモに関わるという人もいた。
Aさんを中心とする集団以外にも、新大久保駅前には、異なるグループの有志たちがそれぞれに集まっていた。30代から50代の男性が半数を占めるなか、20代の女性もいた。
われわれが出会ったなかで一番年少であったのは、今年の4月に高校生になったばかり、15歳の男子高校生たちである。仲良し6人組でこのカウンターに初めて参加した彼らは、韓国のアイドルグループKARAのファンである。
「KARAが好きなんだよ俺たち。だからこんな反韓デモなんて、だめだよね」
ネットを使い、自分たちで今回の活動を探し出したのだという。
それじゃAさんって知ってる? と尋ねると、
「え、何にもしらね」
「あと、俺はただの野次馬なんだからね!」
と一番奥の男の子。
このように、緩やかなグループの一員としてカウンターに参加する人もいれば、まったく個人的に参加する人もいる。彼らに明確な代表者となる人物は存在しないのである。

反韓デモ隊が新大久保駅前を通過する予定時刻は午後3時30分。それまでカウンターの有志たちは、街行く人々に手製のカードを手渡すなどしていた。
「仲良くしようぜ/LOVE新大久保」と題されたそのカードには、一部の日本人による排外的なデモが行われていることと、自分たちは人種差別を否定するということ、そして、韓国や朝鮮の人々への親愛を表明する言葉が連ねられていた。

新大久保は定期的に反韓デモ行進の経路となっており、Aさんらの有志の集いは今回で4回目の参加となる。2月に行われた一回目と比べてカウンターの人々も随分と増えた、とはAさんの談。
2月17日に行われた反韓デモのときには、約100名のデモ隊に対して、カウンターは僅か30人程。それが3月17日のデモではほぼ同数になり、3月31日デモでは遂にその数が逆転し、カウンターの人数はおおよそデモ隊の2倍ほどになった。
「ぶっちゃけて言えば、彼ら反韓デモ隊にたいそうな思想などありません。愛国を言い訳に人種差別を行う人々です。デモという行為自体は警察に届け出もしていますから合法ですが、しかし、レイシズムはいけない。彼らのヘイトスピーチを止めるためには、差別に反対する意志を持って声をあげるしかないんです。カウンターのかいもあって『韓国人は死ね!』などの過激なヘイトスピーチも次第に少なくなりつつあります」

拡声器を使い、駅前で反韓デモ隊への注意と、カウンター活動の告知をするAさん。
デモ隊の出発時刻は刻々と近づいていた。


【みなさん!日本人ですよねー?!】

午後2時30分。歌舞伎町。
新宿区立大久保公園の周りには、プロテクターを装備した警官隊が待機していた。ものものしい雰囲気である。腕章をつけた報道陣の姿もある。

公園内には、反韓デモに参加する人々が集まっていた。その数、目測で100人程度。サングラスにマスクという出で立ちの人々や、軍服姿の初老の男性など、ラディカルな主張をするデモに相応しい格好の者が全体の一割。しかし、デモ隊の多くは街で歩いていても違和感のない洋服姿である。少なくとも外見からは、彼らが過激な排外主義を信条とする人々には見えない。
「普通の人々」。だが、手には日の丸の旗や旭日旗が握られている。

女性の姿も多く目につく。デモ参加者の40代とみられる女性に話を聞いた。
彼女は、私に携帯電話の画面を見せてくれた。2ちゃんねるらしきネット掲示板だった。
「在日朝鮮人が犯罪を犯しても『通名』で報道されるだけで、決して本名は明かされないの。これっておかしいことじゃない? いろんな日本人差別があるの。逆差別がね」
その女性曰く、ある有名女性タレントが数年前に起こした「奇行」も元をたどればある団体のせいであり、その団体を牛耳るのは在日朝鮮人であるのだという。誰から聞いた話なのかと尋ねると、「これもネットに載っている有名な話」なのだそうだ。
彼女のようにインターネット経由で「日本人が不当に扱われている」という話を仕入れる人々は少なくない。他の参加者の男性らは、保守系の言論を扱うブログの話題で盛り上がっていた。

午後3時前。集合した参加者の中央にいる女性が、拡声器を使って声高に宣言する。
「みなさん! 日本人ですよねー?!」
それまで和やかに談笑していた人々が、一斉に片腕をあげる。「おー!」という野太い声が重なる。周囲に緊張が走った。警官隊が先導し、列になった参加者たちが動き出す。
いよいよ、デモ行進が始まる。


【か・え・れ!か・え・れ!】

そして冒頭の場面に戻る。
デモ隊が大通りに出ると、すでに沿道には多数のカウンターの人たちが待ち構えていた。
黙ったまま歩道からプラカードを掲げるだけの参加者もいるが、かなりの人数が声を張り上げて、デモ隊を批判している。中には拡声器を使い、「レイシストは帰れ!」と叫ぶ人も。しだいに「帰れコール」へと変化していった。
デモ隊の車には「特別永住者制度を廃止せよ!!」の文字。搭載された拡声器でデモの中心人物とみられる女性が叫ぶ。

デモ隊「いいですかー! 在日朝鮮人には特権があるんです!」
カウンター「か・え・れ! か・え・れ!」
デモ隊「日本人よりも不当に優遇されていまーす!」
カウンター「か・え・れ! か・え・れ! レイシストは帰れ!」
デモ隊「お前が帰れアホ!」

反韓デモは一定のスピードで歩みを進めてゆくため、それに合わせてカウンターの人々もデモ隊を追いかけていく。
デモ隊の行進とカウンターの人々の間には、緩衝地帯をつくるために警官隊が人間バリケードとなっているのだが、デモ隊とカウンターの興奮はおさまらない。中指を立てて、デモ隊への軽蔑を表す者も少なくない。それに呼応するように反韓デモ隊もヒートアップし、だんだんと罵り合いの様相を呈してきた。
車道は交通規制が入り、歩道も大混雑。警備のための警察官、携帯で写真をとる野次馬、無関係の通行人、店先から出てきた地元の店員など、ありとあらゆる人々でごったがえした。

脇道の駐車場に避難していた20歳のカップルに話を聞いてみた。
「遊びにきただけで、デモがあるとは知らなかったっす。通行人の邪魔になってますよね」
同じく騒ぎを聞いて自宅から出てきたおばあさん。「もう、私にはなにがなんだか……」

そんな彼ら一般人を尻目に、デモ隊とカウンターの人々は行進を続ける。
デモ隊が掲げるプラカードや横断幕の文言を紹介しよう。
「文化財泥棒とは仲良く出来ません」「福祉給付金を廃止せよ」「通名を廃止せよ」「日本人を脅して補助金ざんまい」「韓国人売春婦5万人 生活保護在日3万人の即時強制送還を求める」

それに対して一部のカウンターの人々は声を荒げる。
「おい! ネットで妄想膨らましている馬鹿ども!」「国交断絶などできるわけないだろ馬鹿野郎!」「恥ずかしくないのかコラ!」「お前らがいるかぎり東京オリンピックができねえぞ!」「差別がそんなに楽しいか! オラァ! クズゥ!」

売り言葉に買い言葉。罵声を返すデモ隊。突き立てられた中指に、「ウホッ!いい中指」と書かれたプラカードを見せつけて対抗するデモ参加者もいた。
とにかく、あたりは喧噪に包まれていた。

デモ隊が大久保通りを左折し、小滝橋通りに差し掛かったころ、警官隊による歩道の封鎖が厳しくなってきた。カウンターの人々をデモ隊に追いつけないようにすることで、事態の沈静化をはかりはじめたのだ。しだいに弱まっていくカウンター。進むデモ隊。デモは終わりに差し掛かっていた。
われわれがデモ隊を追いかける最中、偶然15歳の少年たちに再び遭遇した。カウンターに参加した感想を聞いてみる。
「大人のクセになにやってんだって感じですよ」
「幼稚」
「バカラシイ」

デモ隊は新宿の柏木公園で解散式を行ったようだった。公園へ続く道は全て警官隊によって封鎖されており、残り少なくなっていたカウンターの人たちもそこで引き返していた。
反韓デモ隊と違い、カウンターの有志らには代表者がいない。各自解散となり、彼らは新宿の雑踏に消えて行った。


われわれの反韓デモ取材も終わった。
印象に残ったのは「帰れ!」という言葉だった。反韓デモ隊は、在日朝鮮人たちに向けて「帰れ!」「出ていけ!」という言葉を投げつける。その根底にあるのはやはり排他主義的な考え方であって、決して聞き流すことのできない強い言葉だ。
だが、カウンターの人々の一部もまた、デモ隊に対して「帰れ!」という強い言葉を浴びせかけていた。
彼らはどこに帰ればいいのだろうか。「帰れ!」という言葉が、私たちとは関係のない、隔絶した場所へ追いやることを意味するのならば、それもまた、排他の一種ではないだろうか。
それが排除を前提として使われる言葉ではなく、多様性を認める私たち皆の「日本」へ帰ってきなさい、という意味であるのだと思いたい。

反韓デモ隊とカウンター。両陣営が加熱し感情的なやりとりが行われるなかで、自分の主張を社会に問うように、粛々と行進を続けるデモ参加者もいたこと、そして「仲良くしようぜ」「憎悪の連鎖は何も解決しない」というプラカードを無言で掲げるカウンターの人たちもいたことを付記しておく。(HK 吉岡命・遠藤譲)