もしも科学シリーズ(60):もしも計算機を作るなら


海外ドラマ「テラノバ」では、8,500万年前へ移住した人々が描かれている。未来の物資を持ち込んでの移住だから生活には困らないようだが、電気も道具もなかったらさぞかし不便だろう。



もしも原始時代にタイムスリップしたら、計算機を作れるだろうか?電気も半導体もない時代だから電子式はムリだが、歯車を組み合わせた機械式計算機ならなんとか作れそうだ。



■火を噴く計算機



日本に計算機が普及したのは1970年代で、電子式卓上計算機つまり電卓の登場がきっかけとなった。それ以前は業務用の大型計算機か機械式計算機が主流で、中でも手回し式のタイガー計算器がヒットした。



今となっては使われる機会はめったにないだろうが、もしあなたが不幸にも原始時代にタイムスリップしてしまったら、電力の要らない機械式計算機は、未来に戻る方法を探るための強い味方となるに違いない。



タイガー計算器の資料を読むと、歯車とピンが組み合わさった「出入り歯車」が使われ、まるで金庫錠のような複雑な部品が使われている。



後に扇形の歯車に変更されたものの、再現するにはどちらも精度の高い加工が必要だ。まずは手に入る材料と、簡単な加工から逆算することにしよう。



もっとも単純な構造は歯車の組み合わせだろう。直径が10:1になるように木の板で大小の円を作り、外周に同じ大きさの歯を刻む。



後の加工が楽になるように、歯の数は10の倍数にしておこう。歯の大きさと間隔が等しくできれば歯数も10:1になり、大小の歯車はかみ合うはずだ。



2枚の中心をそろえてはりあわせれば1ケタ分の完成だ。8ケタの計算機なら8セット用意すれば良い。



歯車が用意できたら、歯車・大に0から9の目盛りをつけ、歯車・小が上の位の歯車・大とかみ合うように組み合わせ、回転するように中心に軸を取り付ければ完成だ。



試しに簡単な足し算をしてみよう。53+47なら十の位の歯車を5、一の位を3にセットする。次に十の位の目盛りを4つ進め、一の位を7つ進めれば100になるはずだ。引き算も手順は同じで、それぞれ歯車を4/7コマ戻せば6になる。



単純な構造だけに問題点も多い。まず、隣り合うケタの歯車が逆に回転するため、操作しにくい。これは、あいだにもう一枚歯車を入るだけで解消できる。



深刻なのは上位の歯車を操作すると、下位の歯車が猛スピードで回転することだ。例えば百の位を3コマ進めると、十の位は30回、一の位は300回転してしまう。



歯車も軸も木製だから強烈な摩擦熱が生じ、火起こしにも使えそうだ。さらに、どのケタの歯車も常にかみ合っているので、下位を操作するたびに上位も微妙に動いてしまう。



50になると百の位は0と1の中間になってしまうといった具合だ。摩擦と微妙なズレを防ぐために、小さい歯車の1〜9部分の歯を取り除き、0を通過した際に上位を1コマ動かすようにしておこう。



■足し算だけで四則計算?



掛け算はどのように操作するのか?もっとも簡単なのは、足し算の繰り返しだ。例えば12×25なら、一の位を12回転させる動作を、25回繰り返せば300になる。割り算も同様に、100÷3なら、3が何回引けるか数えれば良い。



つまり掛け算も割り算も、加算と減算に置き換えることができるのだ。



ただしこの方法では労力が多すぎる。12×25を求めるためだけでも計300回転させるのだから、むしろ筋トレと呼ぶべきだ。そこでまっすぐな棒に歯を刻み、歯車を押し回すようにして解消しよう。棒には大きい歯車の10倍の歯を刻み、歯車の目盛りに合わせてストッパーが取り付けられるようにしておく。



25×12を計算する際はこの棒を2本用意し、ストッパーを2と5にセットしておく。次に歯車を25に合わせ、2の棒で十の位を12回、5で一の位を12回押し進めれば、歯車は300を示すはずだ。



割り算も同様におこなえるが、0未満になるとすべての位が9を示してしまうなど、問題点はまだある。とはいえ時間はいっぱいあるだろうから、現代への扉を探しながら、ゆっくり改良することにしよう。



■まとめ



タイガー計算器・第一号は大正12年(1923年)に完成した。開発には4年5か月を要したというから、努力を超えて執念と言うべきだろう。



90年前に作られた計算機は感心するほど実用的だ。不便な時代を乗り越えてきた先達の、知恵と工夫に敬意を表したい。



(関口 寿/ガリレオワークス)