私が洋画というものを見始めた頃に、すでにアカデミー賞(主演男優賞/「クレイマー、クレイマー」)を受賞していた俳優、ダスティン・ホフマン。その後、彼はトム・クルーズと共演した「レインマン」で、再び主演男優賞に輝きました。2度もオスカーを手にした演技力抜群のホフマンは、“ムービー・レジェンド”として世界中に名をはせています。

 そんなホフマンが映画監督デビューを果たし、PRで来日するというニュースが! 彼の監督作に出演するキャストが、これまた豪華! アカデミー名優陣と、名音楽家たちが共演し、笑いと涙でつづる人生賛歌を繰り広げます。


「カルテット!人生のオペラハウス」
 英国の田園地方にある、引退した音楽家たちが暮らすホーム<ビーチャム・ハウス>。常に歌声や音楽が鳴り響き、優雅に見えるビーチャム・ハウスでしたが、実は内情は火の車でした。そこで住人たちは、ヴェルディ生誕200周年を祝うコンサートを開いて成功させ、資金を調達し、ホームを存続させるという計画のもと奮闘します。

 ところが、スター・ソリストが出演を辞退し、チケットの売り上げが激減。コンサートの準備を仕切るセドリック(マイケル・ガンボン)は頭を抱えます。

 そんな中、かつてカルテット仲間だったテノールのレジー(トム・コートネイ)、メゾソプラノのシシー(ポーリーン・コリンズ)、バリトンのウィルフ(ビリー・コノリー)は、もう1人の仲間であり、オペラの名プリマドンナとして活躍したソプラノ歌手ジーン(マギー・スミス)が、新たに入居してくることを知ります。ジーンは住人たちから歓迎の喝采を浴びますが、レジーら3人の心境は複雑。エゴイストで野心家のジーンは、仲間を傷つけて去り、長い間、友情は途絶えたままだったのです。


 中でも浮かない表情のレジー。ジーンは彼の別れた妻で、レジーはその後、再婚しませんでしたが、ジーンは再婚、離婚を繰り返していました。でも、セドリックは彼らの状況など構っていられません。せっかく英国オペラ界を代表する4大スターがそろったのだから、コンサートを成功させるために、彼ら4人にオペラの金字塔とも言うべき「リゴレット」のカルテットを歌ってもらい、大勢の観客を呼び込みたいセドリック。


 しかし、プライドの高いジーンは、自分の衰えを嘲笑されることを恐れ、人前で歌うことを封印していました。一方、認知症が始まり、子どものように無邪気なシシーは、ジーンとの再会を喜び、部屋に閉じこもるジーンをどんどん外に連れ出します。それでも、かたくななジーンを説得するのは簡単そうではありません。ビーチャム・ハウスの存続が危ぶまれる中、英国オペラ史にその名を刻んだ、4大“旧”スターのカルテット復活は実現するのでしょうか……?

 本作は、1896年にヴェルディが私費を投じてミラノに創設した、音楽家のための老人ホーム<音楽家のための憩いの家(Casad:Riposo per Musicisti)>を取材し、1984年に製作されたダニエル・シュミット監督のドキュメンタリー映画「トスカの接吻」が原案。この作品は、1999年には「カルテット(原題)」という舞台になり、2011年には日本でも黒柳徹子主演で「想い出のカルテット〜もう一度唄わせて〜」というタイトルで上演されました。

 ダスティン・ホフマンが監督を務め、映画化された「カルテット!人生のオペラハウス」は、老いの悲喜劇をユーモアで包んだ、人間味あふれる傑作となっています。

ダスティン・ホフマン監督『カルテット! 人生のオペラハウス』来日記者会見レポート


 4月9日、ダスティン・ホフマン監督の来日記者会見が開かれました。“ムービー・レジェンド”に会えることに浮足立つ私は、カメラを抱え、もちろん最前列をキープ。現在、彼は75歳だということを改めて知り、私は正直驚きました。だって、「レインマン」で兄弟役を演じたトム・クルーズと25歳も年の差があったなんて、全く思わなかったんです。初監督作で大先輩たちを演出したのだな、なんて思っていたら、実はキャストと年齢が近かった……。あ、これ全部、ダスティンが若く見えるという話ですよ(笑)。


 質疑応答の時間になり、真っ先に手を挙げた私は、なんと最初に質問権をゲット! 「あなたは映画界の伝説的存在であり、『カルテット!人生のオペラハウス』の出演者やミュージシャンのみなさんも伝説的存在ですが、この映画は敷居が高くなく、映画や音楽にあまり詳しくない人でも、とても楽しめる作品だと思います。誰もが楽しめる映画にするために、何か工夫したことは?」と聞いたところ、「いい質問だね、気に入ったよ」と笑顔で言ってくれたダスティン。もう、うれしくて涙が出そうになりました。


 「この映画は、まさに人生を描いている。非常に普遍的な映画なんだ。年を取ることについて、20代・30代の人たちは、自分には関係ないと思って生きているかもしれない。でも年を取ると、体のいろいろなところが不自由になったり、痛くなったり、目が見えにくくなってきたりする。私は老いた人はみな、英雄的存在だと思っているんだ。(ジーン役の)マギー・スミスは常に痛みを抱えている。劇中、使用しているつえは、実生活で彼女が使っているものだ。観客に『自分もいつかはこうなる』と伝えたい。人生というものは、どんな状態になろうとも生きることができるんだということを、本作で表現したんだよ」


 その後も、この映画について熱く語ってくれたダスティン。

 「本作を監督するにあたって、引退したオペラ歌手やミュージシャンを集め、ドキュメンタリーのようなものにしたいと考えた。そして、実際に引退したバイオリン奏者、チェリスト、オペラシンガーたちに声をかけたよ。中でもジャズトランペッターのロニー・ヒューズは、昔と同じように演奏することができるのに、ここ20〜30年、仕事の話がこなかったそうだ。ほかの人たちも同様で、映画に出てくださいと頼んだら、本当に喜んで出演してくれた。70代から90代までの人たちが、この低予算の映画の撮影に参加してくれて、感謝や喜び、情熱を見せてくれたんだよ。これは本当に素晴らしい体験だった。映画で流れる演奏は、後で録音したものではなく、現場で彼らに歌ってもらい、演奏してもらったものだ。エンドクレジットでは、参加してくれた彼らの人生を見せたいと思い、名前と一緒に彼らの若い頃の写真を見せることにしたよ」


 年を取ったからと言って、何かを諦めることはない。経験を積み重ねていけば、ヒーローのような存在になれる。ダスティンの話を聞いて、老いを恐れることはないんだと、幸せな気分になれました。さすがは、ムービー・レジェンド!

 その後、ゲストの樹木希林さんと、ヒット祈願に樽酒で鏡開きをしたダスティン。とても楽しく、そして勉強になる記者会見でした。