浅田真央選手がソチ五輪を区切りに引退を表明したことで、いっそう熱を帯びそうな来年の冬季五輪。そこで初めて開催される注目の競技が、フィギュアスケートの団体戦だ。

 先日東京で行われた国別対抗戦はその前哨戦とも言われたが、ソチ五輪とはルールが異なる。国別対抗戦でキャプテンを務めた高橋大輔選手が、五輪とのルールの違いを認識していなかったことが報じられるなど、日本の活躍が期待されるわりに、実態の浸透が遅れている団体戦。ルールは複雑で、現時点は決定していない点もあるが、すでにいくつかの“難関”は見え隠れする。

「日本はまだ団体戦の出場資格を満たしていない」。そう語ったのは日本スケート連盟の伊東秀仁フィギュア委員長だ。ISU(国際スケート連盟)発表のルールでは、団体戦に出場するには、4種目(男女シングル、ペア、アイスダンス)中、最低3種目で個人の出場枠を確保しなければならない。だが日本にはまだ、男女シングル、2種目の出場枠しかないのだ。

 3月の世界選手権、日本は、男女シングルは3枠ずつを獲得したものの、アイスダンスのキャシー・リード/クリス・リード組は20位に終わり、19位が目安と言われた出場枠獲得に、あと一歩、届かなかった。一方ペアは、昨年度の世界選手権で銅メダルを獲得したマービン・トラン/高橋成美組が、ペアを解消。高橋選手は、この2月に木原龍一選手と新しくペアを組んで練習をスタートさせたばかりで、今年の世界選手権は未出場。五輪出場枠をかけた大会は9月、それまでに両種目がどこまで進化できるか。

 晴れて団体戦への出場権を獲得したとしても、次なる試練が待ち構える。出場選手が減ることだ。国別対抗戦では男女シングル2人ずつ、アイスダンスとペアは1組ずつだった出場選手が、五輪では、すべて1人(組)になる。団体戦は順位をポイントにし、加算して競うため、五輪では、男女シングルの比重が下がり、ペアとアイスダンスが上がることになる。男女シングルが強い日本にとって、これは不利なルール。ちなみに今年の世界選手権の結果を見ると、アイスダンスは1位:米国、2位:カナダ、3位:ロシア、ペアは1位:ロシア、2位:ドイツ、3位:カナダだった。

 さらに、試合日程の問題がある。すでに発表された団体戦のスケジュールは以下で、早くも、開会式前から開始される。

■2月6日 男子シングルSP、ペアSP
 2月7日 ソチ五輪開会式
■2月8日 アイスダンスSD、女子シングルSP、ペアFS
■2月9日 男子シングルFS、女子シングルFS、アイスダンスFD
※団体戦に出場する10か国のうち、男女ペアSPとアイスダンスSDの上位5か国が、フリーに進むというルール。SP:ショートプログラム、FS:フリースケーティング、SD:ショートダンス、FD:フリーダンス

 まず気になるのは、団体戦と個人戦の日程の間隔だ。個人戦は、ペアが11日から、男子は13日からと、団体戦とそれほど時をおかずに始まる。団体戦の選手は、基本的に個人戦に出場する選手から選ばなければならないため、団体戦に出た選手は、個人戦のピーキングが難しくなると予想される。

 日程に関してはもう一点、団体戦が個人戦の“前”に行われることも議論を呼んでいる。たとえばロンドン五輪で競泳は、個人戦の後に団体戦が行われた。この順序だったからこそ、「北島(康介)選手を手ぶらで返すわけにはいかない」(松田選手)との結束が生まれたともいえる。一方で、“前”に行われるメリットもある。世界王者のパトリック・チャン選手は、「団体戦に出ればリンクの様子もわかりますし、安心して滑れる感覚が得られるんじゃないかなと思います」と、肯定的な見方を示している。

 最後に、誰が団体戦に出るのか、という問題も大きい。

 日本は男女シングルで、それぞれ3枠を獲得している。団体戦に出るのは3人のうち1人。とはいえ、ルールに「2競技までは、SPとFSの選手を変えることができる」という規定があるため、実際は、男女ともに、最大2人を選ぶことができる。女子でいえば、たとえばSPを村上佳菜子選手が、FSを浅田選手が滑って、1人とすることができるわけだ。この2人をどう選ぶのか。

 SPとFSは出場選手を変えるのか、変えないのか。SPにエントリーする選手は必ず滑ることになるが、FSの選手は、SPで上位5か国に入らなければ、滑る機会はなくなり、条件が異なってくる。詳しい選考基準はまだ明らかにされていない。

 ファンにとっては人気選手の滑りを見る機会が増え、応援合戦などでも盛り上がる団体戦ではあるが、このように現状では不確定要素が多い。フィギュア界に詳しいスポーツジャーナリストはこう語る。

「日本は、出場権を獲得できたとしても、ペアとアイスダンスが弱いので、現状ではメダルの可能性は低いです。その大会に、個人でメダルが期待される浅田選手や高橋選手などが出る意味があるのか、という意見が、ファンの間などにはあるようですね。ペアとアイスダンスが強い、ロシアや米国、カナダに有利な競技だと、開催が決定された当初から言われていました。

 やってみなければわからないのですが、女子は団体戦と個人戦の間隔があくとはいえ、それはそれで調整は難しくなるでしょう。たとえば浅田選手は、試合直前に現地入りすることが多い。でも、団体戦に出るとなれば、早くからソチに行かなければならない。男子は個人戦との日程が近いので、両方出るなら、若い選手のほうが有利かもしれない。あるいは団体戦に出た選手は弾みがついて、個人戦でもいい演技ができるかもしれない。ソチの後、ルールなども見直されていくでしょう。

 ただ日本は、浅田選手のほか、高橋選手、鈴木明子選手など、フィギュア人気をけん引してきた有力選手がソチでの引退を表明しています。ソチはメモリアルな大会になるでしょう。選手たちが気持ちよく試合に臨める環境や選考基準を整えてほしいですね」