『セデック・バレ』で若き日の主人公を演じたダーチン

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台湾発の歴史大作『セデック・バレ』(4月20日公開)で、若き日の主人公モーナ・ルダオ役を演じたダーチンが来日。長身と甘いマスクの精悍な青年は、本作で俳優デビューを果たした。彼が演じたのは台湾の原住民セデック族の頭目役だが、彼自身もタイヤル族出身で、劇中では獲物を狩る勇者らしい目力を発揮した。新鋭スターのダーチンにインタビューし、過酷だった撮影の舞台裏について聞いた。

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1930年、日本統治下の台湾で起きた原住民による抗日暴動「霧社事件」を、2部構成で描いた『セデック・バレ』。『第一部 太陽旗』では原住民セデック族の武装蜂起を描き、『第二部 虹の橋』では日本の警察と軍による報復、セデック族の人々を襲う悲劇が描かれる。まずは、青年期のモーナ・ルダオ役に抜擢された時の感想から聞いた。「最初は自信が持てず、本当に僕で良いのかな?と思いました。やりたかった役でしたが、とても複雑な気持ちで、ドキドキしました」。

モーナ役が決まり、原住民の衣装であるふんどしを渡された時は面食らったという。「当時の時代考証に基づいた衣装なんですが、ぶんどしと、前にかける布みたいなものと、首とかを縛る背負いヒモしかなくて。『え?これだけ?』と思いました。初めての映画出演だったから、あまりよくわからなくて、他にも別の衣装があると思っていたら、それだけでした(苦笑)」。

ただ、当時の原住民の生活は、彼の幼少期と重なるところもあったそうだ。「当時、小さい頃は家が貧しくて、裸足でいるか、すごく薄っぺらいサンダルを履くくらいで、あちこちを走り回っていました。実家が農家で、トウモロコシ畑に行ってトウモロコシをもいで食べたりもしていたし」。

セデック族を演じた役者たちは、ほとんどが原住民の血を引く演技初経験の人ばかりだった。「我々、原住民たちは、励まし合ったというより、お互いに切磋琢磨し、ぶつかり合っていったという感じです。たとえば、誰かがものすごく喧嘩に強かったとしたら、それよりももっと強くなろうとするタイプ。同じように誰かが上手に演じられたら、自分はもっと上手く演じようとする。まさにお互い刺激を与え合う関係でした。負けず嫌いで闘争心が強いのは、我々部族の天性だと思います」。

血気盛んなモーナが相手と戦い、首を狩るという野性味あふれるシーンは彼の見せ場だ。取材中は実に柔和な印象を受けたが、劇中のモーナは目だけで人を威嚇できる猛者なのだ。何と彼は目力を強化する目の訓練もしたそうだ。「毎晩、炎をずっと見つめるトレーニングを受けました。獲物を射抜くような目がモーナには必要だったので。そういえば、撮影の合間に、自分の部族が住んでいる集落に帰った時、犬を相手にそれを実践してみたんです。そしたら何と犬が逃げていったんですよ。これなら、目だけで相手を負かせる!と、自信を持ちました(笑)」。

セデック族は裸足で行動する。当然、ダーチンも裸足のまま撮影に臨んだため、頻繁に怪我をしたそうだ。「モーナが父親を背負い、裸足で山道を歩くシーンが一番大変でした。10テーク以上撮ったのですが、山にイバラがいっぱいあり、そのトゲがどんどん足に刺さっていくんです。血だらけで痛いけど、演技を止めるわけにいかず、一生懸命こらえて撮影しました。カットがかかる度に傷の手当をし、また演技に入るという感じでした。今も左足に大きな傷跡があります。好きで俳優になったけど、この仕事は簡単じゃないなと実感しました」。

でも、完成した映画には、とても手応えを感じたという。「映画は苦労が報われるような素晴らしい出来栄えだったので、俳優になって本当に良かったと充実感を感じました。いろんな困難もあったけど、諦めずにみんなで最後までやり切ったことが、この結果につながったと思います。自分も頑張ったけど、みんなも必死になって努力し、全員で団結したことで、台湾映画史上稀に見る素晴らしい作品に仕上がったことにとても満足しています」。

『セデック・バレ』は、第48回台湾金馬奨でグランプリを獲得し、第84回アカデミー外国語映画賞台湾代表作品にも選出された話題作だ。もちろん、ダーチンも本作で注目され、テレビドラマに出演するなど活動のフィールドを広げている。タイヤル族ならではの闘争心と謙虚さ、そして好感度大のルックスを兼ね備えたダーチン。俳優としての未来は前途洋々だ。【取材・文/山崎伸子】