グローバル化によって企業は英語力など多彩な人材、能力、スキルを求めている。今、企業が本当に求める「いい学生、いい人材」の条件を採用現場の人事マンが語り尽くす。

■TOEICスコアは本当に必要か

【金融】正直言って、今の新卒採用のやり方には限界を感じている。就活サイトがメーンで、そこにエントリーした人の中で上位校の優秀層の取り合いになっているのが実状だ。結局、その上澄みの学生の取り合いになり、最後は大手が勝つという構図だ。

【流通】確かに本命の企業に関係なく学生はエントリーしてくる。もっと志望度が高い学生、優秀層の中でもセグメントされた学生にターゲットを当てた選考方法があればなと思っている。

【化学】TOEICの点数を選考の要件にしているところも出てきたが、正直、これってどう思う?

【流通】グローバル人材の必要性が叫ばれているし、これからの事業戦略を考えると英語力は必須になるのは間違いない。だから最低要件として入れているのではないか。

【精密】以前ならPCスキルが社会人としての要件と言われたが、今はある程度の英語力があるのが最低要件という時代なのかな。年輩者にとってはきつい時代だよ、まったく(笑)。

【IT】でも新卒の要件に英語を課すことにより、英語はできないが、見どころがある優秀な学生を捨てることになる。選択肢を狭めるという意味で逆にリスクじゃないか。

【金融】うちは英語力を要件にするつもりはない。確かに、「当社はTOEIC何点以上、公用語は英語です」と言えば、わかりやすいし、IR的にも効果があるかもしれない。でも英語を公用語にして、日本人が大勢いるミーティングをなんで英語でやる必要があるのか、はなはだ疑問だ。

【流通】社長や会長が英語ができるから、言われてやっているんじゃないの。ある席で、英語が得意な会長が英語を公用語化するか、と言ったことがある。即座に「無理です。それだったら私は人事部長を降ります」と答えた(笑)。確かに英語力は必要だが、大事なのはビジネス英語で交渉ができるかどうかだ。TOEIC800点あっても交渉できるわけじゃない。

【化学】採用時の語学力と海外で商談をまとめる力とは関係ない。うちには欧米企業に製品を売り込み、実績を挙げている営業マンがいるが、彼のTOEICの点数は500点なんだ。要はビジネスセンスやコミュニケーション能力であって、点数とは関係ないよ。

【精密】物怖じしないコミュニケーション能力と度胸、後はどんなところにでも飛び込んでいける力が海外に行ったときに生きる。今年、いずれ海外に行かせようと思い、ラグビー部出身で英語ができる学生を1人採ったよ。

【金融】メガバンクは、大量採用でしかも短い期間に集中的に選考している。10〜15分の面接をたくさんこなして大変だという。おそらく選考プロセスで学生を絞っていくための要件として英語力を使っているのではないか。

【精密】うちはエントリーシートに「資格」の欄を設けているが、TOEFL、TOEICの点数を書いてくる学生が多い。TOEICの点数を持っていることが就職に有利だと思っている。

【金融】確かに今年は、TOEICの点数でいえば、700点、800点という学生がごろごろいたね。

【化学】語学力だったら外国人にかなわないよ。うちは毎年、外国人を20人ぐらい採用していて、今では国籍で言えば16カ国ぐらいの社員がいる。これからは海外の大学生も含めて世界規模で採用していく。なぜ外国人を採るかといえば、日本の学生は総じて元気がない。外国人の学生は、ハングリー精神、向上心の高さは日本人の学生と全然違う。

【IT】うちも外国人採用は積極的にやっている。アメリカでもハーバード、スタンフォード、UCLA、バークレイといった有名大学からも採用している。ただ、最近わかってきたのは、彼らは経済学など専門の学問を勉強し、3年程度で日本語も修得できる。優秀には違いないが、仕事をやらせてみると、段取りも組めないし、全然使えない人もいる。どうも頭のレベルという点では日本の学生の上澄みの部分とたいして変わらない。

【化学】今年はハーバード、スタンフォードの学生が採れたといって喜んでいる採用担当者もいるが、それじゃ、日本の学校歴採用と同じだ。やはり、実際にビジネスでうまくやれるかどうかだ。日本の学生と同じように人物本位で採用しなければ、意味がないね。

■早慶MARCHの学力差はない!?

【流通】この10年採用を担当していてつくづく感じるのは早慶やMARCHにしても昔に比べてスクールカラーが完全になくなったこと。どこも似たような学生が多い。ただ、東大の学生だけは変わっている。確かに頭はいいのだが、質問すると、俺はそんなことはよくわかっているよという態度で応える。眉間に皺を寄せて、小難しそうに答える学生が多い(笑)。

【金融】日本国内ではまだ東大ブランドは通用する。その人次第だけど、幅広い人脈・ネットワークを持っているのは確かだ。これは企業社会に幅広いネットワークを持つ慶大とも似ているよ。

【化学】うちは確率論ではないが、早慶、旧帝大などの上位校は入り口が狭いし、受験勉強でがんばってきたという地頭においては、優秀な学生が多いだろうという視点で見ている。それ以外はそんなに変わらないと思っているけどね。

【流通】書類選考では、筆記試験をクリアしているのが条件だが、上位校は面接に上げるようにしている。面接では上位校以外の学生でもこれはと思う学生は上に上げている。ただ、最終の役員面接に上がってくる常連校は、それこそ早大、慶大、京大、阪大といった有名校が大半だ。その中にたとえば日東駒専や地方の私立大学が入っていると、なんで彼がいるの、という目で見る役員もいる。

【IT】とくに地方の私立大学の学生のレベルは関東の人から見るとわからない。そういう学生を役員面接に上げると、その時点でバイアスがかかるから、役員面接を通るのは結構しんどいね。

【精密】じつは、あまり面接なれしていないが、人柄が気に入った地方の国立大学の学生を役員面接まで上げた。大学時代にスポーツ系の学生団体の副会長を務め、世界学生選手権のホスト役としてがんばったという経験を持っていた。ただ、よく聞くと、母子家庭で苦労し、私立の高校には剣道で引っ張られ、剣道3段を取るなど活躍し、国立大学にも合格している。大学のスポーツ経験を語るより、剣道を中心に話したほうがいいと部長面接のときにアドバイスした。ところが、役員面接では大学時代のことを話し始めたので、しまったと思ったときは遅かったね。

【IT】残念だな。役員に人柄が伝わらずに落とされることがある。私からすれば高校時代は剣道に打ち込んでも、国立大学に合格する力のある人間は、ポテンシャルはあるし、文武両道を実践できるというのはタイムマネジメント力もあるし、魅力的だけどね。

【金融】どうも最近は、早慶クラスとMARCHクラスの学生の学力の差がなくなっているように思う。大学全入時代に入り、学力レベルも既存の上位校の序列が崩れてきているのではないか。英語の成績にしてもTOEICの点数にしても、早慶よりも高い点数を持つ学生は、MARCHクラスにもたくさんいる。大学時代に努力しているかどうかの差が大きく出てきている。

【化学】今年はMARCHクラスの学生のレベルが下がっている印象を受けたね。これはという特徴がない。全入時代の影響が出てきているかもしれない。

【精密】実際に学生と面接してて、10年前の学生に比べてレベルが落ちてきていると感じる。早慶の学生がMARCHレベルに落ちている印象だ。

【流通】最終面接に上がってくるのは確かに早慶の中の優秀層が多いが、全体として見れば、大学のレベルが昔に比べて1ランク落ちていると思う。

【IT】毎年、地方の大学を回っていて思うのは、地方国立大学や旧七帝大の元気のなさが目立つこと。この元気のなさはなぜかと逆の意味で気になる。

【流通】うちは主に首都圏、中部、関西で採用活動をしているが、採用数が多いのは、首都圏は6大学、中部は名古屋大学、関西は京阪神と関関同立というのは大枠として変わらない。でも関関同立でいえば昔は同志社、関西学院、立命館、関西という序列があったが、今は横並びという印象だ。

【IT】関関同立の中ではうちは立命館を評価している。昔は同志社の学生が1番多かったが、4校を比べると立命館が1番多いし、ブランド価値も上がっているのではないか。

■一部の新設大学が注目される理由

【金融】MARCH以下の大学でも最終選考に残る学生がいる。今年も武蔵大や日東駒専クラスも残ったが、最終面接で学生を並べて見ると、どうも見劣りがする。大東亜帝国からの応募があったが、面接には上がってこなかった。

【精密】うちもいろんな大学から採りたいと思う。採用数は30人程度だが、今年初めて工学院大の学生を採用した。書類選考も通っているし、面接での印象もよかった。大学に関係なく、よい資質を持った学生は採用したいけど、これはと思う学生は少ないね。

【IT】新設大学では立命館アジア太平洋大学から毎年1人か2人は採用している。学生の半分は外国人で、異文化の中で揉まれている。日本人の学生が受ける刺激は全然違うと思うし、実際に情熱のある学生が多い。

【化学】グローバル素養の観点では、立命館アジア太平洋大学もそうだが、秋田の国際教養大学にも魅力的な学生がいる。大学の関係者と話をしたが、学生に「考える力」を重視した教育をしている。こうした新設大学の学生は、1次、2次の面接官には落とさないで上に上げろ、と命じて入念に見ている。

【流通】活躍する人材に共通するものは何か、実際に調査したことがある。やる気と明るさという結果が出た。驚いたのは、学歴に関してはまったく逆相関になった。うちは大学、大学院以外に高校、専門学校卒も採っているが、入社5年目時点の評価は高校、専門学校卒が高かった。大学別でいえば、1番、評価が低かったのは、明治、中央といったMARCHクラスで、次に評価が低いのが東大、京大だった。

【IT】うちが適性試験で最も重視しているのは働く動機だ。動機には達成感、社会貢献、人に褒められたいといった因子があるが、うちの会社で活躍している社員を調査したところ、最も多い因子は、熱中、達成感、チャレンジだった。たくさんの設問があるが、たとえば「宿題をやっているときに、友達から遊びの誘いがありました。あなたはどうしますか」という質問もある。答えの選択肢には「宿題が終わってから遊びにいく」「宿題を放り投げて遊びにいく」というのがある。うちで活躍しているのは、宿題を放り投げて遊びにいくやつなんだ(笑)。つまり、楽しい話があれば、すぐに飛び乗るタイプが仕事でも成功している。だから、適性テストや面接でもその点を意識的にチェックしている。

【化学】個人的に最も重視しているのは社会人になっても伸びしろがあるかどうかだ。遊んだり、合コンをやったりして大学4年間にさびつくわけだ。それが会社に入り、叩いたら伸びるのか、復元力があるのか、あるいはもういっぱいいっぱいでここまでの人なのかをあの手この手を使って見ている。

【IT】体育会系には魅力を感じている。顔つきが違うよね。応募するのはそんなに多くはないが、しっかりしている学生が多い。今年も1人いいやつがいたが、逃げられた。

【金融】じつは去年までは体育会系出身者だけを1つのグループにして採用をしていたが、今年はそれをやめた。というのは体育会の学生が体育会系らしくなくなってきたからだ。昔ながらの上下関係がなくなりフラット化、サークル化してきている。

【流通】体育会出身者を実際に面接すると「今までの旧態依然としたやり方を変えてフラット化した組織をつくってきました」と堂々と言う学生がいる。体育会系の魅力は上下関係など不条理の世界を経験しているから、会社やビジネスの不条理さにもついていけるところにあるが、それがない体育会系の学生ははっきり言って魅力がないな。

■出世の法則は時代とともに変化

【IT】今後の流れとして、グローバル化は避けられない。海外の市場で飯を食っていく以上、海外での実績が出世を左右する時代になるのは間違いない。グローバルに活躍する人材の資質とは、若手を含めて“図太い人間”だ。

【精密】確かに昇進していくには海外経験があるほうが望ましい。「海外に行きたくない」というやつがいるが、論外だ。上司にインドネシアに行くかと聞かれたら「僕でいいんですか、ぜひ行かせてもらいます」というやつじゃないとだめだ。

【化学】出世している人というのは昔も今もそんなに変わらない。上が下した命令を自分のチャンスとして前向きにとらえている人だ。それと運もある。北米に赴任し、市場が大きくなり実績を挙げることもある。個人のキャリアを中心に考えているやつはだめだね。

【流通】日本国内の管理職の役割もどんどん変わっている。うちの会社では、今まではプレーイングマネジャーとしてやってきたが、会社の方針が一気に変わり、今はいかにして下の人間を動かすかが問われている。「自分で手を下すのではなく、人を育ててなんぼだ」と。現場の課長は皆、頭を抱えているよ。時代の変化だから受け入れざるをえない。だから必死になって部下に対する指導の仕方を勉強している最中だ。

【IT】いろんな人をマネージできる人でなければ、これからは出世はできない。昔の職場は正社員の男性ばかりで、部長が号令をかければ一斉に動き出したものだが、今の職場にはいろんな人がいる。女性もいれば、障害者、派遣社員、外国人もいる。こういう多種多様な人をマネージできない限りは、海外に赴任してもマネージできるわけがないと考えている。

【流通】多様な人たちをマネージできなければ数字を出すこともできない。人をまとめる力が出世の大前提だ。

(ジャーナリスト 溝上憲文=文)