『セデック・バレ』のメガホンを取ったウェイ・ダーション監督

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台湾映画の底力を感じさせる渾身の力作『セデック・バレ』が、4月20日(土)より公開される。第48回台湾金馬奨でグランプリを獲得し、第68回ヴェネチア国際映画祭など、各国の映画祭を沸かせ、第84回アカデミー外国語映画賞台湾代表作品にも選出された本作。来日したウェイ・ダーション監督にインタビューし、製作秘話を聞いたら、背水の陣で臨んだというスタッフやキャストの熱いスピリットが感じられた。

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1930年、日本統治下の台湾で起きた、原住民による抗日暴動「霧社事件」を描いた本作。1999年から本作の脚本を手がけ、まずは5分ほどのトレーラーを作って資金を集めを始めたというダーション監督。その後、監督デビュー作『海角七号 君想う、国境の南』(08)が台湾映画史上歴代第1位の興収を記録し、その実力を世に知らしめたことで、資金調達は大きく前進する。ジョン・ウーがプロデューサーに加わり、日本からもプロダクションデザインの種田陽平が参加、キャストも安藤政信、木村祐一、ビビアン・スーらビッグネームが出演し、国際色豊かなプロジェクトとなった。

主演のリン・チンタイをはじめ、セデック族を演じたキャスト陣のほとんどは、演技未経験の原住民たちだ。そこで気を配ったのが配役だった。「キャスティングの時点で、それぞれの性格やキャラクターに合う人たちを当てはめていったんです。決定してからは楽で、現場ではちょっとした仕草などを指示するのみでした。なぜなら、彼らは基本的に自分そのものを演じるわけだから」。

とはいえ、現場の環境は劣悪で、腸チフスやツツガムシ病などの病気を発症するスタッフもいたし、セデック族は裸足ということで、怪我人も多く出た。ダーション監督はその逆境にどう立ち向かったのか?「大変緊迫した場面もありました。でも、そういう時は、全員で問題をどう解決するかに専念するものですよ。だから、私が彼らの士気を高めたり、励ます必要はなかったです。というのも、実は最初の3ヶ月間、一生懸命仕事をしてくれた彼らに、なかなかギャランティーが出せなくて。そういう状況で、彼らに対して私が『頑張って!』とは言えませんでした(苦笑)」。

ちなみに、逃げ出した人はいなかったのか?と尋ねると、「最初の1、2ヶ月で辞めた人はいました」と告白。「でも、撮影3ヶ月目に入ったら、給料が全然出せていなかったのに、誰も現場から離れませんでした。環境が悪い状況で、ましてやプロでもなかなかこなせないことを僕は要求するわけです。たとえば、寒い気候でも、裸に近い格好をしてもらわないといけなかったし、激しいアクションで転がって怪我をする人もいました。でも、彼らは負けなかった。そこには、自分たち民族のためにやるという強い意志があったのです」。

小島源治巡査役の安藤政信の熱演も出色だが、安藤とは撮影前に役の設定についてかなり話し合ったという。「ともすれば、日本のイメージを悪くしてしまうかもしれない役だったから、心配することも多かったと思います。彼としては、僕に小島巡査役をどう演じてほしいのかを聞きたかったようです。でも、事前に何度もコミュニケーションを取ったので、撮影自体は順調でした」。

最後に、今、台湾の歴史の暗部を描く意味について監督に聞いてみた。「我々、現代を生きる人間は、過去の事件や人物と対面すると、どうしても現在の価値観でそれらを批判したり、否定したりしてしまいがちです。でも、僕は今、我々が先祖を批判することはできないんじゃないかと思いますね。なぜなら、彼らと僕たちでは、価値観も環境も全然違うから。だから、私は歴史映画を作る時、当時に立ち返り、どういう状況で事件が起きたかを冷静に見るようにしています。そうすることで、自分自身が寛容になれるし、現在、我々が直面している様々な問題や憎しみを解消する手がかりを見つけられるんじゃないかとも思うので」。

前・後編合わせて4時間36分の長尺ながら、一切の中だるみなく、武装蜂起していくセデック族の民族の勇姿が力強く活写された『セデック・バレ』。ボーダレスなキャストやスタッフを束ね、幾多のハードルを乗り越えて本作を世に放ったダーション監督の情熱に敬意を評したい。【取材・文/山崎伸子】