若者を中心に「ブラック企業」という言葉が急速に普及した。〈従業員に劣悪な環境で労働を強いる企業〉といった意味合いで使われ、ネット上では多くの企業が「ブラック」と名指しされる。就活生は必死でそうした書き込みを探し、メディアでは「ブラック企業批判」の大合唱が巻き起こっている。もちろん違法行為は許されない。しかし、単に企業名を晒し、「悪」だと糾弾すれば問題は解決するのだろうか? ジャーナリストの伊藤博敏氏がリポートする。

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 現在、ブラック企業批判の矢面に立たされている中の一社が、ユニクロなどを傘下に持つファーストリテイリングだ。『週刊東洋経済』(3月9日号)は、「ユニクロ 疲弊する職場」という特集を9ページにわたって展開。

「ブラック企業」という表現こそなかったが、「サービス残業が常態化、うつ病の罹患率も高い」「新卒社員の3年内離職率は5割超」といった実態が報じられた。元社員の証言などを軸に、同社がブラック企業的な要素を持っているとして紹介されたのだ。業界関係者はこう言う。

「ファーストリテイリング社内でも『ブラック企業批判』は深刻に受け止められている。社内では既にトップダウンで、サービス残業や体罰といった違法性のある点はもちろん、言葉の暴力や離職率が高い職場環境についても実態と原因を把握し、人事制度改革に着手しようとしている」

 改めるべき点を改めるのは当然かもしれないが、この関係者はこんな言い方もした。

「とはいえ、サービス残業や長時間労働なんてどこの会社にもある。ファーストリテイリングは業績も良くて目立っているから“標的”にされたんじゃないか……」

 多くの日本企業では「サービス残業」が“文化”として根付いているのが実態である。それはつまり、ブラック企業が出現する背景には「日本型の雇用慣行」があるということだ。

 かつて終身雇用を前提とした日本の企業社会では、新卒の「正社員」の立場をできる限り守ることが、経営陣と労働組合の共通目標だった。日本は先進国の中で最も正社員解雇の規制が強い国だ。

 それは企業と社員の間に連帯感を生むが、一方でグローバル社会の中でスピードアップする市場変化についていけなくなる。一度苦境に陥ると、新しい人材を雇おうにも既に雇った社員の立場が強く、人件費の総額を考えれば採用抑制せざるを得ない。そのハンデを、正社員のサービス残業をはじめとした長時間労働などで凌いできたという構図がある。「正社員の強さ」がブラック企業化につながるのだから皮肉である。

 脅迫的・暴力的な方法で従業員を辞めさせるブラック企業があるのは解雇規制が強いからでもあるし、若者が体を壊すまでそんな企業に勤め続けてしまうのも、一度退職して「守られる正社員」の立場を失うと、再びそれを手に入れるのは難しいからだ。人事コンサルタントの城繁幸氏は、「規制緩和で雇用慣行を変えることがブラック企業改革につながる」と言い切る。

「規制緩和によって賃下げも解雇もしやすくし、かつ国が労働時間の上限を明確に区切るなどすれば、忙しい職場は人を雇うようになり、雇用の流動性が高まる。長時間のサービス残業もなくなります。世界を見渡せば、新卒で採用した社員の半分程度が数年で辞めるのは普通です。辞めても流動性のある労働市場があれば問題はない。『我慢したら定年まで雇ってあげる』という慣行こそ改めるべき」

 雇用規制の見直しは、すでに安倍政権の産業構造改革で論議されている。

※SAPIO2013年5月号