雇用の流動化を促し、労働生産性の向上を図るという名目で、安倍政権が議論を進める「解雇の自由化」。安倍首相肝いりの政府の有識者会議である「産業競争力会議」で、“解雇規制緩和”についての議論が行なわれているのだ。

そもそも、ここで議論されている「解雇」とはどんな事態を指すのか? 若者の雇用問題を調査するNPO法人POSSE代表の今野晴貴氏によると、解雇とは使用者からの一方的な雇用契約の解約のこと。勤務成績や適性など労働者側に問題のある「普通解雇」と、業績不振や事業の失敗など経営者側に問題のある「整理解雇」のふたつのケースに大きく分けられるという。

「普通解雇の場合、会社側のさまざまな努力にもかかわらず、労働者に改善の可能性がない場合にしか認められません。整理解雇の場合も、『企業全体が赤字である(客観的な経営上の理由がある)』『解雇回避の努力を尽くす』『解雇の人選基準が合理的である』『当事者と労組に説明、協議する』という4要件があります。しかし実際には、ほとんどこの判例が問題になることはありません。退職勧奨で十分に人員整理はできていたからです」

今野氏が続ける。

「ただし、裁判を行なった場合、話は別です。もし、裁判で解雇が『権利の乱用』と判断されれば、経営者は解雇を争っていた期間の賃金を支払った上で、その社員を職場復帰させなければなりません。しかしその場合は、金銭を支払って解決することも一般的に行なわれています」

その額は数千万円に上るケースもあるという。さらに、不当な解雇が表沙汰になれば企業の信頼も失墜しかねない。たったひとりの社員を辞めさせるだけで、企業は多大な損害を被ることもあるわけだ。

実際、正社員をクビにすることができずにいる日本の社会では、こんな問題が起きていた。人事コンサルタントの城繁幸氏が言う。

「終身雇用で既存社員の雇用を守り、不景気になれば新卒採用を削る。そんなことをやり続けてきたから、今、日本企業の高齢化が問題になっています。例えばパナソニック社員の平均年齢は約45歳、ソニーも41歳……大企業を中心に、オジサンのオジサンによるオジサンのための会社と化しているわけですね。老いた会社にヒット商品が作れるはずもなく、これが企業の競争力をそぐ一因にもなっています」

某中堅会社社長もうなずく。

「新規事業に投資したくても、人材が足りなければ、大量に人を雇わなければいけません。でも事業に失敗したら、彼らは過剰人員になってしまう。こうしてわれわれは、何度も事業の立ち上げを諦めてきました」

ふたりの話は、社員をクビにできないために企業の成長力が鈍り、給料も上がらず、社会が閉塞してきたという経済界や規制改革論者の言い分を端的に表している。そうした声を反映するかのように、安倍首相は本気で解雇の自由化をやるつもりなのか? 労働問題に詳しい弁護士の佐々木亮氏が語る。

「第一次安倍政権時に小泉・竹中路線を引き継ぎ、安倍首相は解雇の自由化を目指しましたが、リーマン・ショックと派遣村(派遣切りの問題)にかき消されました。政権を取り返した今こそ『小泉・竹中路線よ、再び』というのが安倍首相の狙いです。竹中氏の産業競争力会議へのメンバー入りも、安倍首相の猛プッシュがあったからとされています。今回は本気ということです」

産業競争力会議では人材の流動化が労働生産性の向上につながるという意見が出ているが、果たしてそううまくいくのだろうか。解雇の自由化を具体的に進めるにあたり、金銭の補償はあるのかなど、今後の展開を注意深く見守る必要があるだろう。

(取材・文/興山英雄)

■週刊プレイボーイ17号「正社員“クビ切り自由化法”がオレたちを襲う!!」より