企画・提案力に火がつく20冊 −役職別 鉄則本ガイド【若手・中堅編】

■日常を違う視点で捉える力を養う

仕事をひととおり覚えた若手・中堅社員に必要なのは、言われた仕事プラスアルファの実績を残すこと。そのためにはいい企画を立てて周囲を説得しなければならない。いい企画は、発想の幅を広げることから始まる。それには、自分の専門外のジャンルの本を読むことだ。人と同じような情報をいくら集めても、似たような企画しか出てこないからだ。

例えば『シマウマの縞、蝶の模様』という生物の本。同書によれば、動物の体のデザインは実に多様だが、遺伝子レベルでは、ごく一部が違うにすぎない。これは「業績の悪い組織のメンバー全員を入れ替えずとも、影響力の大きい人物をたった1人替えるだけで組織はがらりと変わるかも」「AKB48がセンターの子を替えることで話題性を保つ効果に似ている」など、読み方次第でマネジメントやビジネスのヒントになる。

『シマウマの縞、蝶の模様』ショーン・B・キャロル/光文社
多様性に富む生物の体のデザイン。遺伝子レベルではその違いはわずかなものだった──。一部を替えただけで全体が変わるなど仕事の参考にもなる科学の本。

このような本は、検索して本を探すネット書店ではまず出合えない。本屋をぶらついて見つけるしかないのだ。東京・代々木上原の「幸福書房」のようなイケてる本屋になると「それが知りたかった!」というような本が次々に見つかる。思わず想定外の本を買ってしまうのが、いい本屋だ。

企画のヒントは何気ない日常の中にあることが多い。日常を見る目を鍛錬できる本としては『広告コピーってこう書くんだ!読本』がある。感想を言うときに使いがちな「なんかいいね」を封印し、なぜいいと思ったのかを分析するクセをつけることを提唱している。『フォークの歯はなぜ四本になったか』は、フォークやピンなどシンプルな道具のデザインが、どんな紆余曲折を経て今日の形に落ち着いたかがわかる。何気ないデザインの意味や機能を知ると日常の道具を見る目が変わってくる。

『広告コピーってこう書くんだ!読本』谷山雅計/宣伝会議
東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、日本テレビ「日テレ営業中」など数々の名コピーを生み出したコピーライターが“発想体質”をつくる31の方法を伝授。

『フォークの歯はなぜ四本になったか』ヘンリー・ペトロスキー/平凡社
ピンやファスナーなどの道具の歴史を辿ると、不具合や失敗を改善する形で今のデザインに進化したことがわかる。身近な道具を見る目が変わること請け合い。

面白いアイデアを思いつくのも大切だが、そのアイデアをどう具体化していくかも、同じくらい重要だ。『グーグル ネット覇者の真実』『コンテナ物語』は、新しい検索エンジンや、コンテナを利用した輸送システムといった、極めて斬新なアイデアを、いかにビジネスとして実現化していったかという点で参考になる。

『グーグル ネット覇者の真実』スティーブン・レヴィ/阪急コミュニケーションズ
アメリカの大学院生が「リンクが多いサイト=イケてるサイトでは?」と思いつき、Googleを実現させる物語。起業の過程と検索エンジンの仕組みがわかる。

『コンテナ物語』マルク・レビンソン/日経BP社
1956年に登場した「コンテナを利用した輸送システム」により世界は激変した。奇抜なアイデアを実用的にフォーマット化していくプロセスが興味深い。

仕事の幅を広げるには、このように、一見、仕事と関係ない「無駄な迂回」の蓄積こそが武器となる。ぜひ、実際に本屋に足を運び、自分の感性で本を選んでほしい。定期的な本屋歩きが、やがて大きな差につながるはずだ。

『情報の呼吸法』津田大介/朝日出版社
Twitterの第一人者が、フォロワーの増やし方、信憑性のはかり方、アイデアを生む「連想ゲーム術」など、情報をもとに人を巻き込み変化を起こす方法を指南。

『一般意志2.0』東浩紀/講談社
ルソーが提唱した民主主義の概念「一般意志」はGoogleやTwitterから読み替えるとしっくり理解できる。「情報社会」による新しい民主主義の可能性を提示。

『ウェブはバカと暇人のもの』中川淳一郎/光文社
新書将来性ばかり強調されがちなウェブだが、少数の暇なフリークによる「炎上」、それを警戒した自主規制など負の部分を指摘。メディアリテラシーの良書。

『わたしは英国王に給仕した』ボフミル・フラバル/河出書房新社痛快に出世するチェコの料理人の物語。「これが世界文学の棚にあるのか東欧コーナーなのか料理書と並べられているかで本屋のセンスと相性がわかります」。

『マカロニの穴のなぞ』原研哉/朝日新聞社
気鋭のデザイナーが、日常の事象の細部に宿る「デザインの神様」を流麗な文章で綴る。デザインがいかに人の心を動かすか、心に迫るストーリーが満載。

『グレートフルデッドにマーケティングを学ぶ』D・M・スコット、B・ハリガン/日経BP社
ライブは録音OK、コピーし放題。40年前からフリーもシェアも実践し大きな収益を上げていた米国のバンドがいた。その活動はビジネスヒントの宝庫だ。

『ゼロ年代の想像力』宇野常寛/ハヤカワ文庫
1990年代の若者は自分の決断が他者を傷つけることを恐れてひきこもったが、2000年代の若者は自ら決断し始めている。時代を読み解くサブカル評論。

『小商いのすすめ』平川克美/ミシマ社
大震災以降の個人・社会のあり方とは何か?「拡大しつづける経済」は存在せず「縮小均衡」という新たなステージを迎えるとする国民経済復興論。

『世界がわかる宗教社会学入門』橋爪大三郎/ちくま文庫
宗教がわかると国際情勢がよく理解できる。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教の世界4大宗教の発生と変遷を「高校生を相手にするつもりで」解説。

『大学生物学の教科書』D・サダヴァほか/講談社
米国の大学で使われる世界基準の生物学の教科書。図が豊富でわかりやすい。「人が知らない分野の知識が仕事の幅になる。あえて文系の人に勧めます」。

『物理学対話』砂川重信/河出書房新社
古典力学、電磁気学、相対性理論、量子力学の基本となる考え方を系統的に解説した名著。対話形式のため読み物としても楽しく、物理学の真髄が理解できる。

『美術の物語』E・H・ゴンブリッチ/ファイドン
原始の洞窟壁画から現代の実験的な芸術まで、美術の歴史を論じた入門書。過去から現在に連なるひとつづきの物語のように美術史を描き出している。

『京都の平熱』鷲田清一/講談社
路線バスで巡る「ぶらり途中下車の旅・京都バス版」のような一冊。哲学者らしい京都分析も知的好奇心を満たしてくれる。仕事に疲れたときの現実逃避用に。

『なめくじ艦隊』古今亭志ん生/ちくま文庫
5代目古今亭志ん生が、なめくじが出る「なめくじ長屋」での赤貧生活を中心に、洒脱な口調で抱腹絶倒の半生を語る。煮詰まったときの“抜き系”の本。

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』R・P・ファインマン/岩波現代文庫
好奇心いっぱいのノーベル賞物理学者が、自身の常識破りの人生をユーモラスに語る。「ここまでキテレツな人でも大丈夫なんだ、と安心できます(笑)」。

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博報堂ケトル代表 
嶋 浩一郎(しま・こういちろう)
1968年生まれ。上智大学法学部卒業後、93年、博報堂入社。2006年、博報堂ケトルを設立。著書は『企画力』ほか。

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(博報堂ケトル代表 嶋 浩一郎 構成=斎藤栄一郎 撮影=向井渉)