今月、新装開場した歌舞伎座。こけら落とし公演は盛況で、客足は改築前の3〜4倍に伸びているという。新生歌舞伎座のお目見えとともに人気に湧く歌舞伎だが、歌舞伎座に足を運ばなくとも、いま、映画館で歌舞伎が楽しめることをご存じだろうか。歌舞伎に限らず、オペラやバレエ、音楽ライブや舞台など、映画館で“映画以外”の上映が広がっている。

 松竹が、歌舞伎を映画館で上映する「シネマ歌舞伎」を始めたのは、2005年。年々、上映ラインナップと上映館を増やし、毎月演目が変わる「月イチ歌舞伎」は、現在全国の27映画館で上映されている。チケット代は演目ごとに異なるが、歌舞伎座新開場こけら落とし記念上映は2000円。一等席20000円、一番安い三階B席で4000円の歌舞伎座と比べると、割安だ。
 
 月イチ歌舞伎のファンだという40代の女性は言う。

「歌舞伎座に行く特別感はありませんが、気軽なのがいいですね。料金が安いから、初心者におすすめです。でも、一度見た演目でも、カメラワークによって、舞台では目視できない役者さんの表情や汗が見られたりと、新たな発見があるんです。私の友人は日本舞踊を習っていて、踊りの研究のために、シネマ歌舞伎を利用しています。マニアにもいいんですよ」

 松竹はシネマ歌舞伎のほかに、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場のオペラ公演を映画館で上映する「METライブビューイング」を手掛ける。オペラを格安で楽しめるだけではなく、バックステージや歌手のインタビューを幕間に上映するなど、映像ならではのプラスアルファを打ち出している。

 音楽ライブやコンサート、スポーツ中継など、映画館での映画以外の上映は、一般にライブビューイングや「ODS(非映画コンテンツ)」と言われる。急に始まった動きではないが、昨今、映画館のデジタル化が進むことで上映館が拡大し、注目を集めている。

 2011年にはアミューズが、ライブビューイングを配信する「ライブ・ビューイング・ジャパン」を設立。ももクロや私立恵比寿中学などのアイドルコンサートから、野田秀樹・三谷幸喜の舞台まで、多彩なコンテンツの配信を始めている。全国に60ほどの劇場を展開するワーナー・マイカル・シネマズは、映画以外の作品の上映を「シアタス」と名付け、昨年、国内初となる英国ロイヤル・バレエ団の上映を行うなど、コンテンツの充実に力を入れている。

 こうした状況の背景には、厳しい業界事情があるようだ。映画評論家の野村正昭氏はこう指摘する。

「昨年、国内で上映された映画の本数は、980本程度。それでも、映画は足りないのです。おおよその映画は、上映初日と二日目の入りで、上映日数が決まります。お客さんが入らなくて、早く打ち切られてしまう映画が多いから、映画館が空いてしまう。2012年の映画興行収入額は前年比7.7%増でしたが、一館当たりの収入額は、減っているんですね。

 こうした状況において、歌舞伎やオペラ、舞台など、熱心なファンのいるコンテンツは、映画館にとって非常に魅力です。ODSの収入額は、いまは全体の数%に過ぎないですが、隙間産業として、増えていくと考えられます」

 映画館の数は、この十年間で約1.2倍に増えた。なかでも複数スクリーンを持つシネマコンプレックスは倍増したが、すでに淘汰が始まっているという。

 では、ライブビューイングの拡大のために今後、何が必要か。キネマ旬報社の掛尾良夫氏に聞いた。

「地方にも根付かせていくことが重要になります。舞台を見に行くなどの習慣は、主に都会のものです。コンテンツをそろえ、地方での上映を増やし、面白さを伝えていく必要がある。わが社ではいま、Jリーグと組んで、試合の上映を始めたりしています。急拡大は難しいと思いますが、少しずつ、広げていきたいですね。

 昨年は、ODSの拡大で、映画の平均入場料が上がったんです。映画の一般入場料は1800円ですが、前売りやサービスデーなどがあるため、平均では1200〜1300円程度。それが上がっているんですね。一昨年は3Dの影響で上がりましたが、昨年は、ODSが押し上げた。徐々に根付いてきていると考えられます」

 ODSによって映画館が潤うとともに、オペラ、バレエ、舞台など、コアな少数のファンに支えられてきた文化の広がりも期待できそうだ。