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ビジネスパーソン研究FILE Vol.207

株式会社グライダーアソシエイツ 町野健さん

無料アプリ『Antenna』を発案した町野さん。リリースまでの道のりとは?


■デザイナーと参画メディアを情熱で口説き、美しいデザインにこだわって完成させた『Antenna』

キュレーションという言葉を知っているだろうか。まだ耳慣れない言葉だが、キュレーションとはインターネット上の情報を収集・整理して新しい価値を持たせること。町野さんが発案したキュレーションマガジン『Antenna(アンテナ)』は、許諾契約しているWeb上のメディアのコンテンツをファッション、アート、映画、音楽、旅行、グルメ、ビューティ、家電、車などに分類し、ユーザーが興味のある記事を自動収集・受信することができる無料アプリだ。

発案のきっかけは自分自身が月40冊近い雑誌を読む無類の雑誌好きであり、さまざまな雑誌を一度にまとめ読みできるサービスがあったらよいと思ったこと。さらに、海外でもキュレーション機能を持ったアプリ市場が伸びていることから、日本でもニーズがあると考えたのだ。

このアプリを開発するにあたり、町野さんがこだわったのがデザイン性。iPhoneなど、世界的にヒットしている製品に共通しているのは、美しいデザイン性だからだ。一流のデザイナーを探していた町野さんの目に留まったのが、夜のニュース番組のタイトルデザイン。早速そのデザイナーに連絡したが、返事はノー。
「でも、僕はしつこい性格なので(笑)。あらためて電話を入れ、ようやく会ってもらえることに。そして、初対面の場で思いの丈を熱く語ったところ、OKしてもらえたんです。デザイナーを口説くのに約1カ月、リリース日は刻々と迫っていたので焦燥感でいっぱいでしたが、一流の方に依頼できたので、その後はとてもスムーズでした」

一方で難航したのが、参画メディアを集めること。記事は無償で提供してもらうのだが、雑誌社に説明に行くと無償がネックになり、思うように許諾がもらえなかったのだ。メディアを集めてニュースを発信できなければ、このアプリは成立しない。
「2012年4月末に完成予定なのに、1月時点での参画メディアはなんとゼロ。毎日不安でたまらなかったので、当時はリリース後の成功イメージだけを思い浮かべるようにしていました(笑)。アプリは開発中で実物がないし、頼りは企画書と自分の情熱だけ。交渉先は、大手雑誌社から数人規模の出版社までさまざまでしたが、すべてに共通していたのは、映画雑誌なら映画、車雑誌なら車に対する愛情の深さでした。幸い、趣味でかなり雑誌を読んでいたので、各社の編集長と業界の話題で盛り上がることができた。僕がその業界や雑誌が好きだということが通じたから、許諾をもらえたんだと思います」

数社からOKが出るとその後は順調に参画メディアが増えていったが、完成を2カ月後に控えた2月、町野さんはデザイン面で大きな変更を決断した。
「参画が決定した数社の記事を使って、アプリを実際に動かしてみたところ、まったく新鮮さがなかった。小さな写真に記事タイトルが並んでいて、いかにも平凡。デザイナーも納得してくれて、『写真がこのアプリのポイント。だったら、写真のサイズを大きくしてインデックスにしよう』と意見がまとまり、ビジュアルでインパクトを持たせる現在のデザインが完成しました」


■アップデートを重ね、デバイス対応を増やしてユーザーを獲得。人気アプリランキング第1位に

キュレーションマガジン『Antenna』のiPhone版無料アプリがリリースとなったのは、2012年5月15日。同じ週には、App Store無料ニュースカテゴリランキング(アップルの公式ランキング)で1位を獲得した。
「本当にいい情報を配信している日本中のメディアが集まっていて、日本のトレンドのすべてがわかる――今までありそうでなかったアプリがようやく誕生しました」

事業の将来性を確信した町野さんだったが、リリース後が万事順調だったわけではない。キュレーションという言葉がまだ世間に浸透していないのと同様に、欲しい情報は各メディアのサイトで収集するという手法がまだ一般的。このアプリに飛びついたのは主に情報先進層で、その話題性から1度は利用した一般層を、継続ユーザーとしてつなぎ止めることができなかったのだ。
「先進層だけでなく一般層にまで浸透しないと、ユーザーの広がりは望めない。現実の厳しさを実感しました」

そこで町野さんが実行したのが、ユーザーの要望を吸い上げて頻繁にアップデートしていくこと。もう1つが、PC版とAndroid版をリリースすること。いろいろなデバイスに対応することで、ユーザーを増やしていく作戦だ。こうして、7月13日にはPCブラウザ版を、11月7日にはAndroid版無料アプリをリリースした。
「すると、9月は3000件程度だったFacebookの『いいね!』が、12月には約5万件に増加。ようやく手ごたえを実感できるようになりました。電車の中で、Antennaを使っている人を見かけたときは、思わず声をかけたくなるほどうれしかったですね(笑)」

もうひとつAntennaの普及に弾みをつけたのが、11月29日にリリースした「ヨンナナにっぽん」だ。これは、47都道府県のローカル情報を集めたAntenna内のコンテンツで、各地に暮らす協力ブロガーが取材した情報で構成されている。
「発信力がないためにそのよさが伝わっていないものが、地方にはいっぱいある。そうした情報をAntennaが発信し、日本の隅々まで届けたいと思ったんです。参画メディアにも好評で、記事の注目度を表すユーザーのクリップ数も順調に増えています」

2013年2月にはiPhone、Androidに続き、iPadでも人気アプリランキングの第1位を獲得。約50社からスタートした参画メディアも、現在は約130社に増えた。
「とても印象に残っているのが『世界が広がりました』という、たった1行のレビュー。このひと言がAntennaの特徴を言い表していると思います。Antennaは、ジャンルを絞らなければ全メディアの情報が表示されます。そうすると、例えばファッションにしか興味のなかった女性が、かわいい外車の写真に目を留め、車に興味を持つようになる。本来は車の情報に触れないような女性が、車の情報に出合うことで、世界が広がるのです」

発信力はメディアの規模で決まる部分が大きいが、Antennaを介すればメディアの規模や知名度にかかわらず記事が日本中に平等に配信され、媒体力ではなく記事内容という実力で評価されるようになる。本当にいい情報が、全国にスムーズに広がっていく――これが、町野さんが考えるAntennaの存在価値だ。
「直近の目標は『ヨンナナにっぽん』を加速させ、英語版をつくって海外に進出すること。そして、いつかはアジアのニュースを束ねる存在になりたい。目指すのはアジア・ナンバーワンです!」