中村剛也選手が昨年10月25日に左膝の手術(前十字靭帯及び半月板の修復手術)を受けて以来、先日ようやくティーバッティングを開始した。術後は、最速で前半戦中の復帰とも見込まれていたが、実際には早くてもオールスター明けからの復帰となりそうだ。中村剛也選手が話しているように、ティーバッティングであれば左膝にはそれほど大きな負荷はかからない。手術を受けたばかりということもあり、左膝を捻りやすい動作は心配となってしまうが、トップハンドトルクという打法に近い中村選手の場合、捻るのはどちらからと言えば膝よりも足首だ。つまり足首の柔軟性さえあれば、膝はある程度の回復具合でもティーバッティングは行うことができる。

これがもしトップハンドトルクではなく、ウェイトシフトという打法だった場合は、左膝への負荷はもう少し大きくなる。ちなみにトップハンドトルクとは、右打者ならば軸脚に重心を残して右手で打つ打法のことで、ウェイトシフトとは、体重移動をして左手で打つ打法ということになる。力がある選手である中村選手の場合は、トップハンドトルクで打った方がより遠くへ打球を飛ばすことができる。逆に非力な選手はトップハンドトルクよりは、ウェイトシフトの方が強い打球を打つことができる。

ティーバッティングとは、ティースタンドに置いた時速0kmのボール、もしくはトサーが下投げで軽く投げてくれたボールを打つ練習のことだ。140kmあるストレートとは異なり、ボールが持つエネルギーがない。その分打つ時の衝撃が少なくて済むのだ。つまりティーバッティングを開始したからと言って、ここから回復が劇的に進むということではない。少なくともしばらくはティーバッティングでしっかりと膝を慣らしていく必要があるだろう。筆者は、本格的な打撃練習に入れるのは交流戦明けくらいになるだろうと考えている。そこから本格的な守備、本格的な走塁へとステップを踏んでいくのだろう。

中村剛也選手はパワーだけがクローズアップされがちだが、しかしパワーと同じだけ高い技術も要しているのだ。ホームランを打つための技術だ。これに関しては筆者はこれまで、日刊埼玉西武の記事や、その他雑誌などでも多々語ってきたことだ。詳細は以下のページを参照して欲しい。

中村剛也が48本塁打できた秘密
中村剛也選手が統一球でも本塁打を量産できた理由

「ホームランバッターらしいホームラン」とはよく使われる表現だ。これは美しい、まるで虹のような放物線を描くホームランをそう呼び、この打球を打つための高い技術を中村選手は擁している。弾丸ライナーで飛んでいくホームランは、どちらかと言えばホームランを打つための技術ではなく、タイミングの良さで生まれる打球だ。例えば栗山巧主将のように打球をバットの面で捕える打者に多い打球となる。こう考えると同世代であり、親友であり、よきライバルでもある栗山主将と中村選手は、まさに好対照にある選手だと言える。

今季ライオンズ打線は好調だ。だがこの打線を完成させるためには、やはり3番栗山主将がヒットで出て、その栗山主将を4番中村選手がホームランで還すという状況が必要だ。この状況が生まれてこそ初めて、今季のライオンズ打線は完成するのだ。そのためには、例えオーティズ選手スピリー選手が20〜30本のホームランを放ったとしても、それでもやはり中村剛也選手の存在がなくてはならない。

だからこそ中村選手には一日でも早く復帰をしてもらいたいわけだが、しかしまずはしっかりと膝を治してもらいたい。100%の状態になり、守備にも不安がなくなった時に、1軍に戻って来てもらいたい。中村選手のように体重のある選手の場合、どうしても他の選手よりも膝にかかる負荷は大きくなる。それによりまた膝を悪くしてしまうよりは、この先まだ長い野球人生を考え、最悪日本シリーズに間に合えば良い、くらいの考え方でしっかりと治してもらいたい。その上で一日でも早く復帰をしてくれれば、ファンとしてはそれで十分だ。

中村選手は今、日本で最も55本塁打に近い存在だ。だが今季はまずは回復に努めてもらい、56本への夢は来季以降に取っておきたいと思う。