「1対1の真剣勝負。たがいに笑みがこぼれます」(モデル:ぷで 撮影:筆者)

写真拡大

■ エキナカの小さな人気店

JR秋葉原駅構内には、他の駅には見られない、ちょっと変わった小さな店があります。名前は「ブシロードTCGステーション」。TCG、つまりトレーディングカードゲームの代表的なメーカーである株式会社ブシロードの全国唯一の直営店舗です。数人入ると圧迫感を感じるほどの広さしかない店内では、関連商品を購入できるほかにも、店員を相手にゲームを楽しんだりできます。一部のユーザーの間でこの店舗が話題になり、遠方から電車で来店しては、駅構内から出ることなく、そのまま帰っていく人もいるそうです。

トレーディングカードゲーム(以降、TCG)とは、その名の通り、トレーディングカードとカードゲームを融合したものです。ブロマイドのようにさまざまなキャラクターが描かれたカードは収集する楽しみもあり、そのカードを使って本格的なゲームをすることもできます。TCGの発祥はテレビゲームよりも時代が下り、世界最初のTCGは今からちょうど20年前に米国で誕生しました。日本で最初の本格的なTCGは1996年に発売された「ポケモンカードゲーム」です。世界中で大ヒットしましたから、見たことがない方でも聞いたことはあるかと思います。

TCGのおもしろさを理解するには、皆さんもきっと遊んだことがある「将棋」を思い出せば分かりやすいと思います。TCGも将棋と同じように1対1で勝負をします。将棋の駒にはそれぞれに配置や使い方の決まりがあるように、TCGにもカードの配置や使い方に厳密に決められたルールがあります。そして、戦略によって勝敗が左右される奥深いゲームなので、1回の対戦には数十分かかるのが普通です。このように、TCGは将棋と同様に、時間をたっぷりかけて1人の相手とのやりとりを楽しむことができます。つまり、勝敗が決まるだけの単なるゲームではなく、対戦相手とのコミュニケーションの道具にもなり得るのです。これは、独りでプレイするテレビゲームでは決して味わえない楽しみです。

■「会える遊び仲間」というリソース

秋葉原には多くのTCGショップがあり、冒頭で紹介した秋葉原駅構内の店舗の他にも、現在20数店舗が営業しています。そのほとんどの店舗では、客同士がゲームを楽しめる場所を提供しています。秋葉原のTCGショップに集まる客層は20代前半くらいの若者が多いのですが、雀荘と違って店舗内は完全禁煙です。大切なカードがタバコの火で燃えてしまっては大変ですから。

TCGショップでは大概、店内で少額の商品でも購入すると、無料で時間無制限にゲーム用の場所が利用できます。もちろん入り浸りになる客も現れますが、それでよいのです。なぜなら、TCGは対戦相手がいないと独りでは遊べません。遊び仲間が必要なのです。いかに遊び仲間をつくる環境を提供するかが、競争が激しい秋葉原の店舗では重要な戦略になります。初心者でも楽しめるように店員がルールを解説しながら対戦相手をしたり、定期的にイベントや大会を開催して客同士の交流を図ったり、ゲームに熱中しすぎてトラブルを起こさないように守るべきマナーを指導するなど、さまざまな工夫が見受けられます。そのおかげで、TCGは今や秋葉原の代表的な趣味文化の1つになりました。

ところで、カードの販売金額で今や年間1000億円を突破したTCGの市場ですが、どうして「紙切れ」がこんなにお金を生み出すのでしょうか。人気が高いTCGに登場するキャラクターは、アニメの中で活躍し、マンガの連載にも登場します。関連グッズも販売され、ファンイベントやゲーム大会も全国で開催されます。つまり1つのコンテンツをさまざまなメディアで展開して相乗効果を生み出す最近のコンテンツビジネスの手法が、TCGのビジネスにも使われているのです。

また、TCGの中には、既存のアニメやゲームのキャラクターを絵柄に使用したものもあります。ゲームのルールは変わらず、しかも、元のアニメやゲームの世界観を壊さないように工夫されているので、人気作品が生まれるたびに、カードの種類も増えて収集する楽しみも生まれます。これは日本が得意とする魅力あるキャラクターを上手く活用した版権ビジネスと言えるでしょう。

それでは、これからのTCGのビジネスはどうなるでしょうか。TCGと同様に仲間とのやりとりがおもしろい最近流行のソーシャルゲームと、どのように融合あるいは差別化していくかが、おそらく重要な鍵になるでしょう。しかし、ソーシャルゲームがネット上の仮想空間でのやりとりであるのに対して、TCGは「会える遊び仲間」とのリアルなコミュニケーションを楽しめることが大きな強みなのです。平日の夜でも仕事や学校帰りに秋葉原のTCGショップに集い、見知らぬ者同士でゲームを楽しんでいる若者たちを眺めていると、TCGは遊び仲間を見つける道具であり、TCGショップはその機会を提供するビジネスとしてこれからも活躍してほしいと思います。

(次回のお題は「免税店」。4月16日[火]更新予定)

(梅本 克=文(デジタルハリウッド大学客員准教授))