■「行動を促すため」に、効果的に伝える

今日、あなたが「人に何かを伝える」目的はなんだろう?

子供の頃に遊んだ伝言ゲームのように、とにかく情報を渡すことだけが目的なら、ただ正確に伝えればいい。だが、仕事上の多くの場合は、“相手の何かしらの行動を期待して”行うことが多いのではないだろうか。

たとえば担当窓口や責任者を紹介してもらう、取引金額を検討してもらう、技術力の高さを理解してもらう、商品やサービスを買ってもらう、お互いの関係性を強める……。相手に動いてもらうことを期待する以上、情報の内容はもちろん、伝え方そのものにも注意を払う必要がある。

行動を促すために、少しでも効果的に伝える――。

この連載では、話し方の達人や先達に学び、事例になぞらえながら「伝えるコツ」について考えていきたい。今回は、「聞き手に“自分を意識させる”」ことから始めよう。

■聞き手に「自分」を意識させる

聞き手の興味をひきつける一番のポイントは「聞き手自身の環境を意識させる」こと、つまり「いかに聞き手の仕事や生活レベルに落とし込み、メリットを感じてもらえるように」伝えられるかである。

たとえば、今日の目的は顧客に自社の商品を紹介し、最終的には購買につなげることだとしよう。

その商品がどんなに画期的な技術を使って生み出され、自信があったとしても、聞き手が興味をもたない限り、その場においてその商品の存在価値はない。専門用語を並べたて、いかに優れているかを力説したとしても、聞き手は蚊帳の外にいるだけだ。話を聞く意味すら感じられないかもしれない。

そこで、まずはこの商品が「聞き手にとってどんな価値があるのか」に集中して伝えてみよう。それはたとえば相手の会社規模や組織形態に応じて「○○の作業効率がX%向上する」「○○に関する経費がX%削減できる」など、数字に限らず、いかに聞き手のメリットとして関わってくるかを提示するということである。

自身の仕事や生活と商品との“接点”が生まれた瞬間から、相手は身を乗り出して話を聞いてくれるものだ。

これは有名な話だが、スティーブ・ジョブズがプレゼンで製品を紹介する際、技術面の優秀さを伝えるのにも、テクニカルタームは最小限にとどめていた。

たとえば「30ギガバイトのストレージの意味」を技術的に説明する代わりに、「音楽で7500曲、写真で2万5000枚、映像を75時間記録するのに十分だ」のように、身の回りの“現実として感じられるもの”に落とし込んで説明していた。 

ここにあるのは「技術的に正確な、単位としての30ギガ」ではなく、「聞き手の生活の中での30ギガ」として具体的な写真の枚数や音楽の曲数に落とし込むことで、聞き手に自分ごととして意識させる効果だ。

■相手の「特殊概念」に入り込む

デール・カーネギーによれば、私たちは物事を考えるときに「一般的な概念」(※1)ではなく、自分の手の届く範囲で、具体的に身の回りの事象にあてはめる「特殊概念」(※1)で考えをめぐらせる。目の前にある事物や経験にあてはめて、自分の中で納得のいく答えを探し回るのだ。そうであれば、聞き手のイメージしやすい事物にあてはめて話を伝えることが、相手の興味をひくために有効に働くことは想像に難くないだろう。

伝えるために大切なのは「相手の環境や立場を意識する」ことであり、聞き手には「自分の身の回りの出来事としてとらえてもらう」ことである。これによって聞き手側に話を聞く意義が生まれ、ひいては話し手の目的達成につながるのだ。

※1:Dale Carnegie, [1991]The Quick and Easy Way to Effective Speaking, Reissue,.
『心を動かす話し方』(デール・カーネギー著、山本悠紀子監修、田中融二訳 2006年 ダイヤモンド社)

(上野陽子=文)