もしも科学シリーズ(57):もしも汗をかき過ぎたら


2013年・東京の桜の開花は3月16日で、平年より10日も早かった。同月19日には最高気温25℃が観測され、早くも汗ばむ陽気になっている。



もしも汗をかき過ぎたらどうなるか?体温や心拍数の上昇、脱力感、視力や聴力の低下など深刻な症状が待ち受けている。水を飲んでも自発的脱水が起きたら、事態は加速度的に悪化するのだ。



■たかが水、されど水



人間の身体の半分以上は水で、成人男性の60%、成人女性は55%、乳児では77%が標準的だ。成人男性の60%なら細胞内に含まれる水分が40%、残り20%が細胞外液になり、20%中15%を組織液が占め、血管を流れる血漿(けっしょう)が5%を占める。



一日に必要な水分は2.4〜2.5リットル程度と言われ、収支をみると、



●摂取量



 ・飲料水 … 1.2リットル



 ・食べ物に含まれる水分 … 1.0リットル



 ・代謝によって産生される水分 … 0.3リットル



●排せつ量



 ・ふん尿 … 1.6リットル



 ・汗や呼吸で失われる水分 … 0.9リットル



が目安で、日常生活だけでも1.2kgの水が必要だ。これに運動が加わると体温が上昇し、発汗量は一気に跳ね上がる。激しい運動では1時間に1〜2リットルもの水分が失われることも珍しくなく、60kgの人なら体重の1.6〜3.3%分に匹敵し、1%失っただけでも運動後も直腸温度はおよそ0.3℃、心拍数は毎分5〜10回も上昇するのだ。



体重の2〜5%を失うとのどの渇きや唾液(だえき)の減少、5〜10%になると血液が濃縮され視力/聴力が低下する。この辺りから熱による疲弊(ひへい)から脱力感や倦怠(けんたい)感に襲われるのと同時に、体液を確保するために発汗量が減り始める。汗をかくほど体温が上がっているのに、身体を冷やすための発汗が減少するので、体温は加速度的に上昇していくのだ。



10%を超えると直腸などの深部体温が上昇し、生理的に危険な状態となる。18〜20%が生存限界と言われ、これを超えると普段から身体を鍛えている人でも耐えることはできない。



もっとも注意すべきは、体重の2%未満の水分が減っても、渇きを感じにくい点だ。飲み物が欲しいと思った時はすでに2%も減少しているので、体重60kgの人なら1.2リットルの水分補給が必要だが、この量を短時間で飲むのは容易ではない。



元・相撲取りの芸人が2リットルのジュースを10秒以内で飲み干す芸を持ちネタにしていたが、糖分の摂(と)り過ぎを医師に指摘されてからはお茶に換えたと聞く。ジュースかお茶かは別として、おなかがくだらないか心配だ。



■水で中毒?



逆に水分を過剰摂取するとどうなるのか?おなかの調子が悪くなる程度なら幸運で、水中毒を引き起こすと生命の危険にさらされる。



水中毒は、必要以上の水分が細胞に入り込み、全身がふやけたような状態になると起きる。細胞内液にはカリウム・イオン、細胞外液にはナトリウム・イオンが含まれ、これらによって栄養の取り込みやカルシウム濃度の調整がおこなわれているのだが、バランスが崩れて機能しなくなるのが水中毒だ。余分な水分は血管にも入り込み、血中のナトリウム濃度を低下させ、虚脱感や疲労感、頭痛、重症化すると痙攣(けいれん)や昏睡(こんすい)を引き起こす。薄まって量が増えた血液は心臓の負担も増加させるので、良いことは一つもない。



もっとも危険なのは自発的脱水だろう。自発的脱水は、汗を多くかいた後に水だけを摂取すると起きやすく、体内の水分が不足しているにも関わらず、渇きが止み尿の排せつが多くなる厄介な症状だ。



原因は電解質、つまりイオンの不足で、発汗で電解質が減少した状態に水だけが補給されると、身体はさらに薄まり機能がどんどん低下してしまう。そこで、これ以上薄まらないように、水分を体外に排出するのが自発的脱水だ。



飲みたくないなら大丈夫では?と思うかもしれないが、相対的に水分が多いだけで、体液の量や状態が回復したわけではない。不足しているのに渇きを感じないのだから、最悪の状態と呼ぶべきだろう。



電解質不足が原因だから、スポーツ飲料や経口補水液、古典的には塩で補給するしか方法はない。水、砂糖、塩だけでも経口補水液が作れるので、ぜひともお試しいただきたい。



■まとめ



学生時代の部活では、練習中に水を飲むのは最大の御法度だった。練習が終わるとたまらず水道水をガブ飲みしていたが、今思えば恐ろしい光景だ。



今年も猛暑になりそうだが、水の飲み過ぎには注意しよう。



(関口 寿/ガリレオワークス)