もしも科学シリーズ(53):もしもお菓子の家を建てるなら


グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」ではお菓子の家が登場する。食と住を兼ね備えた新しい形態の住宅だ。



もしお菓子の家を建てたら、本当に食べられるのだろうか?柱に使えるほど堅いパンや砂糖の窓がおいしいか疑問だし、虫も鳥も寄り付かないこの家は添加物がふんだんに使われているに違いない。もし再現しても、非常食には程遠い存在になりそうだ。



■パンの柱と砂糖の窓



初版・グリム童話集によると、家の本体はパン、屋根はケーキ、窓は白い砂糖で作られていたと描写され、ずいぶんと豪華な作りになっている。挿絵では2〜3畳の狭小住宅で、ヘンゼルが屋根を食べたと記されている通り、子供の手が届くほど低い。家よりも犬小屋か物置と呼べるサイズだ。



お菓子の家を建てるには、まず強度の問題をクリアしなければならない。初版通りパンで作るなら、食パンでは柔らか過ぎるので、フランスパンかライ麦パンが候補だ。物置サイズと言えども木材に匹敵する強度で、100人乗っても大丈夫なように仕上げたいところだ。



建材の強度は曲げ、引っ張り、圧縮などが測定されるが、まずはどれだけの重さに耐えられるかを表した圧縮強度を見てみよう。1平方cmあたりに乗せられる重さの目安は、



 ・桐 … 215kg



 ・杉 … 340kg



 ・ヒノキ … 400kg



 ・通常のコンクリート … 200〜400 kg



 ・硬鋼 … 800〜1,800kg



だ。木造住宅に使われる杉やヒノキを目安にすると300〜400kgは欲しいところだが、そんな重量に耐えるパンが作れるのだろうか?



以前テレビ番組で、堅いパンの作り方が紹介されていたので、それを参考にしてみよう。まず生地に混ぜる酵母を減らし、膨らまないように調合する。その生地を固め、ガス抜きの穴を開け、長時間かけて低温で焼くと、ヒノキに匹敵する堅いパンができるそうだ。バット代わりに使えたというから、曲げ強度にも期待できる。ヒノキ並に堅いパンをどうやって食べるのか、新たな疑問が生まれてしまうが、ケーキの屋根が崩れることはないので不問としよう。



次は窓作りだ。これは砂糖で飴(あめ)を作り、型に入れて冷やせば良いので比較的簡単にできる。白い砂糖でできた丸い窓としか記されていないので、直径30cm、一般的な窓ガラスと同様に厚さ3mmと仮定すると、1枚当たり約212立方cmとなる。これに砂糖の比重1.59〜1.61を当てはめると339gとなり、ガラスの比重2.4〜2.6と比べると砂糖の方が圧倒的に軽い。パンの柱に負担をかけることはなさそうだ。



作品中でグレーテルはこの窓を2〜3枚食べたと記されている。あいだをとって2.5枚で計算すると、なんと848gの砂糖を食べたことになる。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、日本人の1日あたりの砂糖・甘味料類の摂取量は6.6gなので、グレーテルは128日分を一気食いした訳だ。何日も森を迷っていたので空腹なのは分かるが、カロリーに換算すると3,256kcalに及び、成人の1.5倍もの過剰ぶりだ。肥満や骨粗しょう症につながりかねないので、自制してもらいたい。



■鳥も食べないお菓子



添加物も大いに気になる。二人は目印としてパンくずをまきながら森を進んだが、鳥たちがそれを食べてしまったため、遭難するハメになった。そんな環境にありながら、このお菓子の家には、鳥はおろか虫が集まる様子が全く記されていないのだ。加えて、この家が新築だとしても、木造在来工法と同等の工期なら120〜150日ほどたっている計算だから、多湿な森で原形をとどめているのは、薬品で処理されていたと考えるのが妥当だろう。



建材には銅・第四級アンモニウム化合物や銅・アゾール化合物、枕木や電柱などにはクレオソート油などの木材保存剤が加圧注入され、防腐/防虫処理が施されるのが一般的だが、いずれも工業規格の薬品で、食品には到底使用できない。廃材から染み出た保存剤によってがんや環境破壊につながる例もあるので、もし口にすれば、具合が悪くなるどころでは済まされない。



食べられないお菓子の家では、残念ながら作る意味すら分からない。



■まとめ



兄弟愛と魔女退治の美談として伝わるこの物語は、強盗事件がモチーフだとした説がある。当時人気を博したレープクーヘンのレシピを奪うために、強盗兄妹が女性・菓子職人の家に押し入ったのが元ネタらしい。



真逆のストーリーに変換されたものの、強盗事件を童話の題材に使う発想がスゴい。グリム兄弟の商魂を見習わなければならない。



(関口 寿/ガリレオワークス)