現場の想いと本社をつなぐ存在を目指す

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ビジネスパーソン研究FILE Vol.206

株式会社船橋屋 坂井貴大さん

くず餅の老舗、船橋屋で受注・生産管理を担当する坂井さん


■入社1年目から店長補佐に。社内報を作成するプロジェクトにも参加し、仕事の全体像をつかんだ

「同じ働くなら、イキイキと楽しく働きたい」と考え、社員がイキイキと働いている会社を選んだ坂井さん。就職活動当初は、くず餅の老舗である現社の名前も商品も知らなかったが、イキイキと働く社員の自信と誇りに満ちた姿に強くひかれたという。
「社長はもちろん、人事担当者などの社員も圧倒されるほどパワフルでした。『働いていて楽しいですか?』と聞くと、『えっ?見てわからないの?』と逆にビックリされてしまうほど(笑)。まさに思い描く社会人像がそこにはあった。ほかの会社とは明らかに勢いが違い、『自分も言葉にせずともイキイキと働く姿が見て取れるような輝く毎日を過ごしたい』と感じ、入社を決意しました!」

入社後、販売部に配属され、本店で1カ月の研修を受けた後、葛飾区にある柴又帝釈天(しばまたたいしゃくてん)店に本配属。店長補佐という立場で、店舗の運営、接客販売はもちろん、併設されたイートイン・スペースにおける接客や調理なども学んでいった。
「本配属された時、上司から『店長にしっかり迷惑をかけておいで』と言われましたが、本当に失敗ばかりで。レジひとつも、『このボタンを押さないで』と言われたのに間違えて押したり、地域で発行する商品券の種類を把握しきれずに扱いを間違えそうになったり。お客さまにも叱られてばかりの毎日でした」

ある時、商品券と現金で支払うお客さまに対し、「商品券にはお釣りは出ません」と言ったところ、「そんなはずはない!」と激怒されてしまったという。
「商品券と現金で支払う場合は、お釣りを出せるルールがあるのに、それをしっかり把握していなかったんです。結局、店長に頭を下げさせることになってしまい、自分のミスにいたたまれなくなりました。船橋屋は歴史ある老舗のため、お客さまも当然しっかりした対応を求めます。たとえ新入社員であっても、店頭では自分が会社の顔。小さなミスひとつでもすれば、会社がこれまで築いてきた信用を失ってしまうかもしれないのだと痛感しました。以来、どんなに小さなことでも、一つひとつ確認していくようになりましたね」

また、坂井さんは、店全体を盛り上げたいと考え、店長とパートスタッフ8名の両方の気持ちをくむ存在になることにも注力した。
「店長以外に社員は自分1人。店長の考えを伝えながらパートさんたちの話もしっかりと聞き、楽しくのびのび働ける環境をつくろうと思いました。それぞれに立場が違うので、感じ方、考え方は違うもの。双方の話を聞いて上手に気持ちを伝えていくよう努力していきました。配属から半年後、パートさんたちから『坂井さんが間に入り、サブとしての役割をしっかり果たしてくれたことにより店長を含めた全スタッフ間でのコミュニケーション、意思の疎通が円滑になりさらに良い店になった。いろいろ受け止めてくれてありがとう』と言ってもらえて。自分の努力が伝わったと感じ、うれしさのあまり、思わず泣いてしまいましたね(笑)」

入社半年後には、社内の組織活性化プロジェクト「社内報分科会」にも参加。社内報を通じて、製造部門や販売部門の情報を共有し、それぞれの想いをつないでいこうという取り組みだ。
「企画から取材、そして記事の作成まで、すべて新入社員に任せてもらえるプロジェクトだと聞き、『絶対参加したい!』と思いました。熱い想いを決意文にした結果、同期と2人でチームを組む形で、このプロジェクトを任せてもらえることになったのですが、喜びも束の間。PCスキルがまったくなかった自分にとっては、編集作業ひとつ取ってもわからないことだらけで。当時、店舗のお金の管理などを行う店長業務も任せてもらえるようになっていましたが、そうした通常業務と並行して、月に一度発行する社内報をつくっていかねばならない。これは大変だと思いましたが、『やると決めた以上、絶対にやってやるぞ』と奮起しました!」

坂井さんは、プロジェクトチームの同期と手分けをしながら、時間を作って店舗の取材を行い、帰宅後に編集作業を進めるなどしていった。
「商品や仕事内容を紹介するのではなく、働く人たちに焦点を当てることをテーマにしました。最初に取材した店舗に、次に取材しにいく店舗を指名してもらって、どんどん紹介の輪を広げていく『店舗リレー』という企画を考え、さまざまな店舗を訪問していくことに。そして次から次へと店の様子や店長への取材などを重ねていきました。ハードな毎日ではありましたが、いろんな人と出会える楽しさを感じましたし、『楽しく読ませてもらっているよ』『面白い内容になったね』と言ってもらえることが何よりもうれしかった! 頑張る原動力になりましたね」

2年間携わったこのプロジェクトで、最終的には30本の社内報を作成したが、この経験はその後の仕事にも役立っているという。
「どこで、どんな人が、どんな想いで働いているのかがわかり、会社の全体像をつかむことができました。また、各店舗のスタッフに顔を覚えてもらえたことで、業務上のコミュニケーションもスムーズにできるようになりましたね。自分の店舗で足りなくなりそうな商品を、ほかの店舗から補充する商品移動の際にも、『坂井くん、久しぶりだね』と言ってもらえたり。自ら足を運ぶことにこだわり、すべての店舗を回って良かったと感じます」


■入社2年目で新規出店の立ち上げに携わり、3年目には店長に。スタッフを指導するやりがいを実感

入社2年目、坂井さんは新規出店となるエキュート赤羽店(東京都北区)の立ち上げに携わることに。商品の配置からスタッフの教育まで、ゼロから店づくりしていく面白さを経験した。
「店長は、入社3年目の先輩で、2人で『こんな店にしたい!』と話し合いながら進めていきました。目指したのは『スタッフが楽しく、明るく働くことで、お店を輝かせること』。何度も試行錯誤しながら店内の動線を考えて什器(じゅうき)や商品を配置。また、他店舗の視察にも出かけ、経験豊富な店長たちからスタッフ教育についてのアドバイスをもらうなどもしていきました」

坂井さんが最も力を入れたのは、「スタッフに船橋屋の想いを伝えること」。オペレーション教育のマニュアルも、店長と一緒にオリジナルのものを作成し、それを活用しながら指導していったという。
「長く続く老舗である船橋屋の想い、そして商品への想いを伝えたいと考え、会社の歴史をまとめ、どれだけ多くの人たちに愛されてきた商品なのかを理解してもらえるような内容にまとめていきました。スタッフ教育の際には、それを見ながら指導し、これから手がけてもらう仕事の背景にどんな意味や価値が隠されているのかまで伝えていったんです」

オープン後、スタッフが商品に愛情を持ち、「ぜひうちの商品を知ってほしい」「うちの商品が一番おいしい!」と言いながら、楽しそうに商品をお勧めしている姿を見て、大きな喜びを実感。
「誰もが、ただの販売スタッフではなく、船橋屋の一員だという誇りを持ち、輝きながら働いてくれました。目指す店の実現に一歩近づけたという喜びを感じましたね。また、真剣にスタッフと向き合ったことで、自分自身を信頼してもらうやりがいも実感。この後、また別の新規出店の立ち上げを経験してから、再び柴又帝釈天店の業務に戻りましたが、早い時期からいろんな経験をさせてもらうことができ、ひとつ成長できたと感じます」

入社3年目、坂井さんは自分が立ち上げた店舗、エキュート赤羽店の店長となり、ひとつの店を任せられる責任の重さを知ったという。
「今までとは違い、今度はすべてが店長である自分の責任。おまけに、予算の組み立てや売り上げの分析と改善策の提案、さまざまな報告書の作成など、店長として覚えなくてはならないことが山積みの状況でしたが、とにかく頑張るしかないと思って。店長業務について学ぶ一方、スタッフにのびのびと仕事してもらえる環境づくりも実現しようと考え、一人ひとりと面談を重ね、じっくりと信頼関係をつくっていきました」

スタッフのモチベーションを上げるさまざまな工夫も重ねた。改善提案ノートをつくって意見を書き込んでもらい、お互いにコメントしあう仕組みをつくったり、お客さまの少ない時間帯に試食サービスを行ってお客さまとのコミュニケーションを活発にするなどの努力で、イキイキと働いてくれるようになったという。
「とはいえ、赤羽店は1年前にオープンした店なので、前年の売り上げも大きく、その数字を超えることはなかなか難しくて。どうすればいいか考え、発注も売り上げも伸びている店舗の店長に話を聞きにいったことで、売り上げだけにとらわれるのではなく、まずは店の状況を把握していこうと思ったんです」

そこで、坂井さんはこれまでは個々のスタッフに任せていた発注書を見直すことを思いつく。
「前年の同じ日の売り上げを見ても、曜日も天候も世の中の状況も違うもの。しっかり予想を立てなければ、商品が足りなくなり、お客さまの求める商品がない状態になるだけでなく、売れずに返品する商品が増えてしまう。船橋屋のこだわりのくず餅は、おいしく食べられる期間をわずか2日に設定しているので、本社に返品した時点でもう売ることはできないんですよ。まずは、お客さまが欲しい商品を欲しい時に購入できる状態と商品をムダにしない発注に取り組もうと考え、スタッフそれぞれに予算の割り出し方や予想の立て方を教えていくことにしました」

発注作業の背景まで教えていくうちに、スタッフのモチベーションは大きく向上。売り逃しもなく、なおかつ返品率も次第に下がっていった。
「自分の予想が当たることの面白さに気づいてくれたおかげで、みんなやりがいを感じてくれるようになりました! 私が異動した後にスタッフから『坂井さんに教わった発注方法が役立っている』と聞きうれしく思いました」

現在、坂井さんは本社の仕入受注管理部に異動し、商品の一日ごとの製造数や、各店舗への納品数の指示・管理などを手がけている。まだ異動して間もないため、新たな知識を吸収している真っ最中だ。
「全社の商品をつかさどる仕事のため、責任は非常に重いと感じますし、これまで経験した販売部の仕事とはまったく違うので、ひたすら学ぶ日々です。異動する際、部長から『船橋屋に新しい風を起こすため、一緒に会社を盛り上げてほしい』と言ってもらえて、すごくうれしかった! これまでいろんな人たちの想いに触れてきたからこその経験を生かし、現場と本社をつないで会社を盛り立てるような存在を目指していこうと思います」