山田隆道の幸せになれる結婚 (25) まるで物を取り替えるように、夫の取り替えを行う…A子に見る現代離婚事情

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故・向田邦子氏が遺した『無名仮名人名簿』というエッセー集の中に、ある洋服屋で買った正装用ドレスを一回だけ着て、その後一度も着ていないかのように包装などを取り繕って、店に返品しにくる中年女性のエピソードが綴られている。

正装用ドレスは値段が高いわりに着る機会が少ないものだから、それだともったいないと思い、先述した嘘をついて日常的に着られる洋服に取り替えてもらおうという魂胆だ。

店の主人はその厚かましい計画に気づいているのだが、渋々取り替えに応じてしまう。

人間心理とは恐ろしいもので、こういうことが何度も成功すると、一度手にした物品を取り替えるということにだんだん罪悪感がなくなってくる。

つまり、取り替えの効果に味をしめてしまい、他のことに関しても「ダメだったら取り替えればいい」という考え方になっていく。

この中年女性は、きっと他の店でも同じことをやっているのだろう。

向田氏の作中にはこれを離婚の心理とつなげている一節があり、僕もおおいに考えさせられた。

この世の離婚原因の中には確かに同情せざるをえないような、のっぴきならない事情もたくさんあることは承知しているが、実際に自分の周囲の離婚経験者の話を聞いてみると、「そんなことで離婚するの?」と首をひねってしまうことも少なくない。

中でも気になったのは、10代〜20代前半で結婚した男女が30歳くらいで一度自分たちの関係を見つめ直した結果、離婚を決意したというケースだ。

そこに男女どちらかの浮気やDV、借金などの特殊な事情があったのなら話は別だが、実際はそういう深刻な事情ばかりではなく、「価値観のズレ」や「生活のすれ違い」などといった当人同士でしかわからない、実にフワフワした理由で離婚を選択するケースもしばしば見聞きする。

その経緯と心理とは、たとえば次のようなことだ。

A子は20歳のとき、高校3年のころから付き合っていた2歳年上の彼氏と結婚した。

当時、彼は塗装業で生計を立てている青年で、まだまだ将来に不安があったものの、A子との間に子供を授かったため、若くして結婚する決意をしたのだ。

新婚時代のA子はすべてが新鮮で幸福に満ちていた。

ほんの2年前の高校生時代と違って、大好きな彼氏といつも一緒にいられることが嬉しくてしょうがない。

ところが、やがて子供が生まれると、初めての育児に悪戦苦闘する日々が始まり、他のことを考える余裕もないくらい、生活が慌ただしくなった。

その後、ようやく子供が幼稚園に入り、少しは生活に余裕が出てくるかと思いきや、その矢先に第二子を妊娠。

再び出産から育児という大変な時間と労力を使う忙しい日々が始まり、目まぐるしいスピードで年月が経っていく。

そのころには新婚時代に感じた「大好きな彼氏といつも一緒にいられる喜び」など当たり前になり、昔は目につかなかった夫への不満が溜まっていた。

そんな第二子もなんとか幼稚園に入ると、今度こそA子の育児生活も少し落ち着いてきた。

夫の収入を考えると、子供は2人で限界のため、これにて子作りは終了だろう。

そうなると、A子はもっと外の世界に目を向けたくなった。

自分はまだ20代後半で、オバサンになるには早すぎる年齢だ。

今までは育児に没頭していため、女磨きをする余裕がなかったが、これからはダイエットを頑張って、綺麗で素敵なママさんになってやる。

女友達との外出も、晴れて解禁となった。

すると、どうにも羨ましく見えて仕方ないのが、大人の恋愛を謳歌している独身の友達たちだ。

彼女たちは瑞々(みずみず)しい20代をさまざまな恋愛を経験する期間に充て、30歳を前にいよいよ生涯を共にする男性を選ぼうとしている。