リサイクル・食品ロス削減政策を推進。循環型社会を目指す

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WOMAN’S CAREER Vol.107

農林水産省 長野麻子さん

【活躍する女性社員】食品ロス削減という課題に取り組む農林水産省の長野さん


■日本の食文化や農林水産業を黒子として支えていく

女性の就職環境の厳しさから国家公務員を目指したが、強く希望する省庁や仕事があったわけではなかった。農林水産省にひかれたのは、官庁訪問をした省庁の中で「職員の方々と最もフィーリングが合った」からだったという。
「人の良さがにじみ出ている方が多くて。食べることが好きでしたし、黒子としていつもどこかで食を支えている仕事に魅力を感じました。それに、私は愛知県安城市というかつて農業が盛んだった地域の出身。東京に出てきた人間として、食料を作っている人たちの頑張りをちゃんと世の中の人に伝えたい、都市と農村を対立関係ではなく、ともに支え合う関係にしたいと考えるようにもなりました」

入省後は1〜2年ごとに異動を重ね、所属した部署・組織は10を超える。係員や係長として他部署との連絡・調整や資料・情報収集、議事録・報告書の作成などを担った時期を経て、自らの考えを持って政策の立案・推進にあたることができるようになってきたのは課長補佐級の役職に昇進した入省8年目ごろから。以後、課長補佐、あるいは課長補佐級の企画官としてさまざまな業務に携わってきた。

とりわけ手応えを感じたのが、9年目に携わった「バイオマス・ニッポン総合戦略」策定業務だ。家畜の排せつ物や生ごみ、木くずなど、エネルギーや肥飼料などに再生可能な生物資源(バイオマス)を日本全体で総合的に循環活用するための具体的な取り組みや行動計画を定めるというもの。長野さんは省内各局から選ばれた6〜7人の検討チームの一員として、国家戦略づくりに取り組んだ。
「この戦略を作り推進することで、農業の役割を食料供給のみならず、エネルギー供給や肥飼料、プラスチックなど食料以外のマテリアルの供給にまで広げることができ、さらには資源やエネルギーの地域循環を図ることができる。そんな希望を持って臨みました」

各分野の専門家によるアドバイザリーグループを設置して戦略案に対する意見を定期的にヒアリングするとともに、環境省や経済産業省、国土交通省、文部科学省など関係省庁にもアイデアを求め、省庁横断の会議の場を設定して取り組みの優先順位や予算の分配などについて議論を重ねた。農林水産省ではできない取り組みを進めてもらえるよう、関係省庁に直接出向いて提案・交渉することもしばしばだったという。その中で長野さんが特に力を入れたのは、戦略内容を的確に文章に落とし込むことと、工程表を明記することだった。
「アドバイザリーグループが実現すべきと考えていることを的確に戦略の内容・文言に落とし込むのが事務官である私の役割の一つですから、世の中に広く理解してもらえるよう、できる限り誰が読んでもわかりやすく表現することを心がけました。そして、『いつ、誰がやるか』がはっきりしていなければ進まない可能性もありますから、年度ごとにやるべきことと担当省庁をはっきりと決めて工程表に落とし込むことにこだわったのです」

でき上がった戦略は、半年後の2002年12月に無事に閣議決定された。「『ニッポン』という冠がつく仕事において多方面と調整を重ね、多くの方の尽力により閣議決定にまで至ることができ、自信になった」と長野さんは振り返る。その後は各地域で資源状況の把握やバイオマスの利活用に向けた合意形成を促すため、メンバーで分担して全国の自治体や企業、消費者団体などに戦略の詳細について説明して回る活動を開始。その最中に長野さんは異動することになったが、閣議決定からの10年余りで着々と戦略に書かれた内容が実現されていることに喜びを感じている。
「バイオマス活用推進基本法が制定されたり、経産省や環境省に交渉して何とか『検討する』の文言を入れてもらった環境税が本当に導入されたり、地域のバイオマス利活用の全体プラン『バイオマスタウン構想』を公表した地域が300を超えたり、農水省のバイオマス担当が『課』になったりと、その後に着任された方々や多くの人の協力によってバイオマスの活用が進んでいることを思うと、感慨深いですね」

その後も、自由貿易協定(FTA※)の締結交渉における国内調整、BSE・鳥インフルエンザ問題への対応にかかわる調整・マスコミ対応、内閣府に出向しての食品安全委員会事務局での業務など、さまざまな業務を担当。現在は食品産業局バイオマス循環資源課食品産業環境対策室の室長として、11人の部下とともに容器包装リサイクルや食品リサイクル、食品ロス(まだ食べられるのに捨てられてしまう食料のこと)削減に関する政策を推進している。
「目下の課題は食品ロス削減です。世界で作られている食料の3分の1である約13億トンが毎年廃棄され、日本でも500万〜800万トンが捨てられている一方、世界では9億人の人々が飢えに苦しんでいます。世界的な食料事情のひっ迫が予想される中、このままでは先進国の食料調達が食料の国際価格の上昇を招き、途上国に食料が回らなくなってしまいます。消費者の方々に向けたシンポジウムの開催や食品業界での商慣習の是正、食品衛生上問題がない規格外品などを福祉施設などに寄付するフードバンク活動の推進など、食品ロスの削減に向けて皆でできることから取り組んでいければと思っています」
※二国間などで関税を相互に原則撤廃することを取り決める協定。実際は交渉により例外品目や段階的削減など、品目ごとにさまざまに取り決められる。

法案や予算の検討、政策の推進など、どの場面でも必要となるのは関係者との調整。「事務官である私たちは、各分野の専門知識を持った技官や専門家の知見をうまく政策にしたり、農水省としての総合的な判断をサポートしたりするのが役割。さまざまな価値観がある中、一つの政策を作り上げるには関係者との調整が大切です」と長野さんは話す。時には利害関係が異なる相手との調整に苦しむこともあるという。
「反対する立場の方から非難されてつらく感じることも多々あります。FTA締結交渉で農産物の関税を調整していたときには貿易自由化を推進する方々から、BSE問題で米国産牛肉の輸入をストップしたときには食品産業に携わる方々から、非難や罵倒を受けました。それでも、農業関係者の方々や消費者の方々のことを思うと守るべきものは守らなければなりませんから、まずは相手の立場や心情を考え、言葉を選びつつ自分が正しいと思うことを話して交渉・説得を進めています。一方で農水省への非難が行き過ぎると、農林水産業自体の印象が悪くなったり、国全体が日本の食文化に自信を持てなくなったりしかねません。日本の食文化や農林水産業の素晴らしさ、大地からモノを作り出す人々の誇りを邪魔しないよう、必要とされることを適切に行い、どの仕事もベストを尽くして役に立つことができればと思います」