安倍政権が誕生して以来、円安と株高が続いている。アベノミクスは果たして、景気にとってプラスなのか? 様々に議論されているが、その中には「期待先行」という批判も少なくない。期待が先行することは、果たして悪なのか? ジャーナリストの長谷川幸洋氏が解説する。

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 株高円安が続く中、アベノミクスをめぐって熱い議論が続いている。たとえば、日本経済新聞は次のような伊吹文明・衆院議長の発言を伝えた。

「(伊吹議長はアベノミクスに触れ)『景気が持ち直したような雰囲気になっているが、全く期待の域を出ていない』と指摘した。黒田東彦日銀総裁が2年程度での達成を目指すとした物価上昇率2%については『短くて3、4年かかるだろう』との見通しを示した」(3月25日付)

 そうかと思えば、朝日新聞は「新たな安全神話に陥るな」と題した大型社説でこう指摘した。

「アベノミクスの光の部分を強調する議論は、金利上昇のリスクを甘く見ているか、忘れている。(中略)日銀が国債を買い支えれば金利上昇を抑え込めるとの意見もあるだろう。一時的には可能かも知れないが、値打ちの下がった国債を大量に購入する日銀の信用は傷つき、制御不能のインフレを招きかねない」(同日付)

 ここで触れたいのは伊吹議長の期待先行論だ。たしかに、アベノミクスで金融市場は活況を呈しているが「実体経済は動いていないじゃないか」という声がある。「期待先行だから、いずれ剥げ落ちるに違いない」という見方もある。普通の感覚に近いから、なんとなく説得力がある。

 ところが、現代の経済学では「期待(将来予想)」こそが経済を動かす重要な要素と考えられているのだ。人々は入手可能なすべての情報を正しく評価し、予想を立てて行動するという合理的期待仮説を発展させたロバート・ルーカス教授(シカゴ大学)はノーベル経済学賞を受賞した。

 期待が果たす役割をどう考えるか。実は、それこそが金融政策の焦点である。黒田東彦・日銀総裁は3月21日の会見で「通常の金融政策の下でも期待の要素は非常に大きい」と明言した。

 これに対して白川方明・前総裁はどうだったかといえば、19日の退任会見で「『期待に働きかける』という言葉が『中央銀行が言葉によって市場を思い通りに動かす』という意味であれば、危うさを感じる」と述べた。

 白川は期待の役割を軽視していたからこそ、期待はずれのパフォーマンスしか上げられなかったのだ。

 新聞はじめメディアは「期待先行」と書いて「中身が空っぽ」と批判した気分になりがちだ。本当は黒田が言うように、期待形成こそがもっとも重要な金融政策の核心である。だからこそ「目標達成のためになんでもやる」と盛り上げている。そこが理解できないと、メディアも政治家も周回遅れになってしまう。(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年4月12日号