杉浦由美子『女子校力』(PHP新書)は、女子校出身者が社会で生きる時に手にした、世間知らずで空気を読まないパワーについて、数多くのインタビューから分析した本。自分を持つ力とは一体なんなのか? 果たして女子校の実態はこの本に書かれている通りなのか?

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「女子校」という単語を見てワクワクしちゃうおっさんなぼくです。こんにちは。
まあとはいえ、女子校出身者の方を多く出会って話を聞くと、そんな甘ったるくないよねーというのはわかります。
と同時に「女子校っぽさ」を本人たちが意識していることに興味がわきました。
そもそも「女子校っぽさ」って何よって話ですが、漠然とあるんですよね。

杉浦由美子『女子校力』は、ずばり女子校らしい世間知らずさが、突き進む力になると説いた強烈な本。
78人の女子校出身者にインタビューをし、女子校出身者の特徴や感覚、視点などを調べ、作者なりの分析をした本です。

先に言っておきますが、これは進路を女子校にするかどうか、選ぶための参考書ではありません。
なんせ、女子校出身者のセックス事情まで載っています。
これから高校進学する中学生や、子供を抱える親御さんには刺激がちょっと強すぎるよ! 下世話な、とか破廉恥な、とか言ってもだめだよ! 注意はしたからね!
ただ、赤裸々にこのあたりまで突っ込んで、女子校出身者のコミュニケーション感覚の話を聞いているのは、とてもめずらしいです。セックスもコミュニケーションですもんね。あくまでも事例として聞いていて、ゴシップ臭はありません。

「女子校では”ヘン顔”をつくるんですよ。汚い表情や気持ち悪い顔、何でもいいから、ヘンならヘンなほどいい。『うわー、超ヘンなかお、気持ち悪いっ!』とウケれば勝ちですからね。でも共学だと、女子はそんなにヘンなかおをつくらないんですよ」

女子校から共学に転校した女性のインタビューです。確かに共学ではヘン顔なんてやらないと思いますが……。
著者は女子校には見られているという「世間」感覚がない、と分析しています。共学だと男子が見ているからおかしな行動は取らないし、世間体を考えた人間関係づくりを常に考えている。そこからスクールカーストが生まれてしまう。
しかし女子校はスクールカーストがない、とまでズバッと言い切っています。

共学のスクールカーストについても色々書かれていますが、これが胃が痛くなるものばかり。
誰々と付き合うと他からヘンな目でみられるからやめてほしい、あの子はメイクがアレだからグループには入れない、自分の居場所をわかっていない発言をしてほしくない等々。
もちろん大人になってみると「卒業しちまえば同じだ」とわかりはするんですが、高校時代は生き地獄。
女子校は教室内の上下関係がなくフラットで、時にオタクのパワーが強いとも書きます。

「ギャルが一割、ヴィジュアル系が二割、ふつうの子が三割、地味な子が一割、あと三割はオタク」
「オタクは校則どおりの長めのスカート丈で闊歩するから、先生たちのウケもいい。強いですよ」

オタク多いな! そういう学校もあるのかー。
もっとも、恋バナよりも趣味の話が多くなっていくから、という話には納得もできます。
ジャニーズオタク、アニメオタク、BL好き、宝塚好き。
いい意味で干渉しすぎず、「それってどんなのー?」とギャルとオタクが会話する。
それぞれが自分を持っていて、周囲からどう見られるかを意識しすぎておらず、「何が好きかカースト」がない、と作者は分析します。
女子校だってカーストあるでしょう?と首をかしげて読んでいたのですが、時代の変遷でかつては強かったものの、今は比較的薄まってきている、と書かれています。
そういえば確かに大島永遠のマンガ『女子高生』も初期はスクールカーストあったけど、今はないなあ……。

インタビューを読んでいくと、女子校あるあるのようなネタもたくさん出てきます。
・ついついネタに走ってしまい、お笑いポジションになる。
・マシンガンのようにしゃべってしまう。
・思ったことをすぐ口にする。
・男子校出身者との会話との方があう
・恋愛ではつい、がっついてしまって待つことができない。
うーん、どこまで本当なんでしょう?

女子校出身者は「空気が読めない」と作者は書きます。
「空気が読めない」というのはあまり響きがよくないのもあり、作者は「世間のなさ」と書いています。
逆に「空気が読める」共学出身者が抱えている問題の一つに「空気を読めすぎてしまう」とも書いています。
女子校出身だと、社会に出ていきなり地雷を踏むこともあるし、男性上司のメンツをつぶしてしまうことも多い。周囲の目を気にしない行動もある。
しかし「他人なんてどうでもいい、自分は自分」という「自分力」がとても強い。コツコツ黙々と作業に没頭出来る人もいる。
共学で「空気を読めすぎてしまう」と、相手と同調する能力に長けており、愛想も良い。
けれども、うまく手を抜く方法を覚えてしまったり、上っ面で済ませてしまったりする。
自立した女性社会人としての芯の強さを育てるには、女子校は最適だと書きます。
この突き進む力こそが「女子校力」です。

この本は誰向けかというと、おそらく女子校出身で今働いている女性向けでしょう。
女子校最高!という女子校賛歌本ではありません。いいところも悪いところもズバズバ書いています。
正確なデータ集でもありません。あくまでもインタビューと著者の主観による、女子校力分析論です。
これが非常に女子校出身の人にとってのエールになっている。
おそらく読んでいて「これは本当なの?」と考える部分もたくさんあると思います。
女子校の環境分析から多くの問いを投げかけつつ、社会で強く生きる女性に求められるものをあぶり出します。

ところで「男子校力」もあるんですかね?


杉浦由美子 『女子校力』

(たまごまご)