猿が毛繕いをして仲間の絆を確認するように、人間は会話で友情を確かめ合う。(写真=田中光常/AFLO)

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唐突ですが、あなたに、友人は何人いますか?

単なる知り合い、というだけではなく、安定した関係を保ち、困ったときには助けてくれるような、そんな友人が、どれくらいいますか?

英国の人類学者、ロビン・ダンバー氏が、興味深い研究をしている。大脳新皮質の大きさから見て、1人の人間が安定的に関係を保つことのできる友人の数には上限があるというのである。

ダンバー氏は、さまざまな猿、類人猿について、脳の大きさと群れの大きさの関係を調べた。その結果、大脳新皮質の割合が大きいほど、群れも大きくなるという関係を見いだしたのである。

人間の大脳新皮質の大きさから予測される、安定して関係を保てる「友人」の数は、約150人。この上限のことを、「ダンバー数」と呼ぶ。

なぜ、脳の容量で友人の数が決まるのか? 知り合いが多くなるほど、関係性は複雑になる。相手によって、自分の態度を変えなければならない。また、「この情報を、彼は知っているけれども、彼女は知らない」というように、情報の管理を巡る状況も、複雑になっていく。

友人の数が多くなるほど、その関係を整理し、的確に行動するための脳の負担も増えてくる。従って、大脳新皮質の大きさによって友人の数の上限が決まってくると考えられるのである。

ダンバー数は、脳の容量から見た友人の数の「上限」であり、ほとんどの人はこの容量を、使い切っていない。自分の友人の数はダンバー数よりも小さい、という人は、友人のネットワークを増やすことを考えてみてはどうか。

安定した関係を結ぶ「友人」がいることは、私たちが生きるうえで、大切な意味を持っている。私たち人間は、長い進化の過程で、社会的動物として生きてきた。「友人」との絆こそが、私たちの生の支えなのである。

猿の群れでは、「友人」同士が「毛繕い」をする。お互いに毛繕いをすることで、絆を確認し合うのである。

毛繕いをすると、脳内にβエンドルフィンが放出される。βエンドルフィンは、痛みを和らげたり、幸福感をもたらす作用を持つことが知られている。がん細胞の増殖が抑えられるとも言われる。

猿の群れでは、毛繕いをする個体同士は、何かトラブルがあったときに助け合う傾向があるという。毛繕いをする仲間を増やすことで、1つの「安全保障」になるのである。

人間の場合、毛繕いはしない。その代わりに、言葉をかわすように進化してきたという説がある。また、一緒に笑うことで、毛繕いをするのと同じように絆を深める効果を持つという考えもある。

社会的動物である人間にとって、友人を通してつくられるネットワークは、かけがえのない財産。時々会って、言葉をやりとりし、楽しい時間を過ごすことで、人間にとっての「毛繕い」が行われる。そのようにして安定した関係を築くことが、仕事のうえでも生活のうえでも大切なことは言うまでもないだろう。

猿たちは、自由な時間のかなりの部分をお互いの毛繕いに費やしているという。猿に比べれば、さらに複雑に発達した社会構造を持つ人間。多くの時間を人間にとっての毛繕い=会話に費やすことは、当然の行動と言える。

友人関係を保つことは、時に面倒臭い。だからこそ、脳を使う意味がある。頭のいい人とは、毛繕いの仕方のうまい人。「ダンバー数」の上限を使い切るくらい、友人関係を充実させてみてはどうか?

(茂木 健一郎 写真=田中光常/AFLO)