年収300万は既婚/未婚の大きな境目(出典:内閣府「結婚・家族形成に関する調査(2011年3月)」)

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年収300万円を切った途端、既婚率が急落するのは確かなようだ。「しょせん、女はカネか」と嘆くのは簡単である。しかし、低年収ながら意中の伴侶を得た男は、実は少なくない。女性たちは、彼らの中の何に惹かれたのか?

■「赤字でもない、トントンくらい」

2011年、内閣府が発表した調査によると、「年収300万円」が結婚の境目という(図)。男性の既婚率は、20代・30代では年収300万円未満が8〜9%で最も低いが、300万円以上だと既婚率は約25〜40%弱に跳ね上がる。ちなみに男女ともに年収が上がれば上がるほど、既婚率も上がる。

また、厚労省が行った第9回21世紀成年者縦断調査(2002〜10年に同一人物を調査)では、「初職で正規の仕事をしている者のほうが、今回調査時までに結婚を経験する割合が高い」、つまり男女とも最初に非正規の仕事に就いた人より、正規の仕事に就いた人のほうが多く結婚している。

ただ、年収が低くても、非正規職でも結婚する人はしている。同じ年収300万円程度で、結婚できる男とできない男の差はどこにあるのだろうか?

兵庫県に住むタカギさんカップルを訪ねてみた。妻ミカさん(32歳、専業主婦、妊娠7カ月)と夫ケンイチさん(31歳、設計関係)は2人とも4年制大学卒。2年間同棲して昨年結婚したが、ミカさんが妊娠を機に仕事を辞め、今はケンイチさんの収入350万円のみで生活している。

JR神戸駅から電車で1時間の郊外にあるマンションは、築18年とはいえきれいにリノベートされている。家賃は3LDKで7万円。リビングの真ん中にはソファ。ガラス張りの本棚にはCD、一眼レフカメラとドラクエのフィギュアが。国産車も所有する。つい最近まで共働きだったとはいえ、思ったよりずっとモノが豊富だ。

友人との飲み会で出会った2人の結婚のきっかけを尋ねると、ミカさんは「優しくて、合わせてくれるから」と笑う。ミカさんの前職は舞台美術関連で、仕事はかなり不規則。「徹夜とか泊まりでスケジュールが見えないのに、まめに連絡を取って、私に合わせて会う時間をつくってくれていたから。これまでは、会えないし連絡も取りづらいので、付き合っても別れるパターンが結構多かったんです。でも、頑張って連絡取ってくれて(笑)、夜ご飯だけでも会ってくれたりとか、そのあたりが好印象でした」と言う。

ケンイチさんのほうがひと目ぼれで「頑張った」というのが真相のようだ。

「年収に関係なく、マメに頑張る男性」というところが結婚のポイント1。同棲中も、2年間の共働き婚時代も、家事や家計をお互い協力している。

「洗濯と食器洗い、すごいしてくれる」とミカさん。ケンイチさんも「それが主な家の仕事です」と言う。「仕事があるときは泊まりこみ。仕事がないときは時間があるという極端な生活だったんで、それはお互い協力せな無理やん。やっていかれへん」(ミカさん)。“協力してやっていこう”という柔軟性がポイント2。逆に低収入でも「俺が養う」意識が強い男性は、なかなか結婚には至らない。

しかし固定費が月12万円というから、手取り月18万円の給料だと、かなりギリギリの生活にはなる。

「赤字でもない、トントンぐらいです。食費とか日用品は月4万円に収まるように、妻がうまくやりくりしてくれているんです。給料日に4万円渡して、これで今月はお願いしますって」

近くに住むケンイチさんの両親はまだ現役の50代。食事や買い物をともにして、5000円分程度の食料や日用品を買ってもらうこともある。豊かな親世代からの恩恵はありそうだ。

年収300万円台でも、地方なら十分に子どもを持つ暮らしができる。今は貯蓄はボーナス時だけだが、ミカさんが専門職なので、出産後は土・日などに仕事ができれば貯蓄は可能だ。「月に4回出れば、6万ぐらいにはなる。近所のスーパーのパートよりも効率がいい」というから、教育費を捻出する余裕も出てくるだろう。

話していて不思議に思うほど、2人は似ている。醸し出すホワンとした空気というか、顔も似てきているような。

「よく言われる。結婚する前から兄弟みたいと言われてた、そういえば」

美男美女というわけでもなく、結婚するのはこういう似た者同士なのだ。

■何かが起こっても、「俺が家族を守る」

年収300万円台の非正規職でも、東京の下町に一戸建てを構え、3人の子どもを育てる人もいる。というのも、彼の奥さんは年収1000万を稼ぐキャリア女性なのだ。

3社祭の季節になると、急にマツダさん一家は忙しくなる。運送業の夫ヒロシさん(39歳)は地元の御神輿の担ぎ手としては欠かせないお祭り男。地元の友達や地方出身の友達まで家に呼んで、毎晩どんちゃん騒ぎだ。下町のおかみさんらしく煮物の仕込みをするケイコさん(45歳、マスコミ)は、もともとお嬢様学校出身の4大卒。

2人が出会ったのは、離婚したケイコさんが子連れで移り住んだ下町のバドミントンクラブだった。クラブの主婦同士の揉め事を見事に捌いたのがヒロシさん。「この人、問題解決能力がある!」とケイコさんは感動した。

そして、子持ちで6歳年上のケイコさんに惚れ込んだヒロシさんが、毎日仕事帰りに1トントラックで会社に迎えにいき、見事、2人はゴールイン。

「前の結婚でわかった。一緒に暮らす男に学歴や地位は必要ないんです」

とはケイコさんの名言。子どもも生まれ、手狭になったマンションの代わりに一戸建てを買った。高校中退の夫の仕事が突然契約を切られ、6カ月ほど失業したこともあるが、収入に関してはケイコさんという大黒柱がいる。

「でもウチの精神的な支柱は夫。大震災のときも、『迎えにいくから待ってろ』ってすぐ連絡してくれて、頼もしかった。震災直後には、家の2階からの脱出ルートを確認したり、風呂水をためたり、夫の地元ネットワークで『いざというときはこうしよう』と細やかに動いてくれました。もし窓や扉が開かなくなっても、『絶対に俺が蹴破ってやるから大丈夫』と言ってました」

有事に頼れるまっすぐな“オトコ力”に、ヒロシさんは満ち満ちている。

「何かが起こっても、俺が家族を守ってやる……という夫の気持ちが、がっしりと家族を支えています。実際、力があるので、子どもを抱えて走るとか、倒れたものを起こすとか、問題なくできると思うので安心ですね」

もともと派遣社員だった夫の仕事は今も不安定だが、それに代え難い男気がある。洗濯、子どものお迎えなどをフットワーク軽くこなす柔軟性も大事だ。そして夫の地元に住み、そのネットワークに家族が守られる、お金では買えない「絆」も手に入れたといえる。

年収300万円台でも、非正規社員でも結婚できる男性の特性は、「優しさ」「まめさ」「男気」「自分から好きになってくどく積極性」「家事を嫌がらない」等々だ。では、一方の「結婚できない男性」の特性とは何だろう?

■なまじ高学歴だから余計にこじれる

高学歴の年収300万男は、扱いに困る……というのは、同級生に悩まされたメグミさん(40歳、マスコミ)。

「大学生のとき、地方出身者同士ということで仲良くなった仲間の1人なんですが、一流私立の院卒なのに、結局40歳の今も独身です」

大学時代から「小説家になる」と豪語し、就活の時期になると「俺は出版社に行くから。バカな大学の奴と女の文系は就職に苦労する。男は一生勤めた会社で働くけど、女の働きたい気持ちなんて、すぐに消えるよ」と、差別的な発言が多かった。

だが、メグミさんがマスコミに決まり、本人がフリーターという結果に。内定を知らせると「見下してるだろ。俺のこと」と逆切れされた。結局、彼は院に進んだが、自分が書いたミニコミ誌の記事のコピーを自宅のポストに入れにくるなどストーカーまがいの行動をされ、頭にきて縁を切った。

しかし、その後も友達が結婚すると「先越されたね。25歳の壁は厳しいらしいよ」と嫌みなメールが。ネットの英語の書き込みにも「文法間違ってる。添削しようか?」と際限がない。

「仲間うちの掲示板やmixiやフェイスブック、ツイッターなどで絡んでくる。すぐにアンフレンドにしましたが」

メグミさんも今は結婚もし、キャリアアップして仕事も順風満帆。久しぶりに聞いた彼の近況は「海外留学して大学を転々とし、今はアメリカの片田舎の大学の講師」。もちろん独身だ。

「優越感と劣等感が両方強い。なまじ高学歴だから余計にこじれるんです」

それでは、逆に大人しい年収300万男はどうなのだろうか?

「いい人だけじゃダメなんだな、とつくづく思います。昔だったら、お見合いで結婚していたと思うけれど」と言うのはスズキさん(34歳、公務員)。

「第一志望の大学の入試では、途中でお腹が痛くなって退席。地元の大学に行ったけれど、就職は超氷河期で」

コネで最終面接までこぎつけた会社では、「大人しすぎて営業は務まらない。君のためにもウチには来ないほうがいいよ」と人事の人に諭された。

落ちまくったあげくに就職した会社でも、地方転勤で友達ができず、営業が辛くて半年で退社。職を転々として実家に戻った。親戚のコネを使い、34歳でようやく公務員として就職した。

田舎の役所は、やっと見つけた安住の地かもしれない。「誰とも波風たてず、争わずやっていきたいんです」と言う彼の姿かたちは、どう見ても疲れた40代だ。優しくていい人で、公務員……でも婚活時代の今は、積極的に動かないと結婚など覚束ない。行動の源泉は「自信」だ。今一番ワリを食っているのはこういう人かもしれない。

■なりふり構わず人を好きになる力

「老後の孤独なんて、百も承知ですよ。子どもなんて、大学出る前に定年がきちゃう……何熱く語ってんだ、俺」

といささか自暴自棄なササキさん(43歳、地方公務員)は、年収約700万円。背も高からず低からず、ルックスも人並み。でも、独身だ。

プレジデントのアンケート(11年7月実施)によれば、20〜40代独身女性の7割超が、男性に望む理想の年収を600万円以上としているのだが……。

「結婚しないんじゃなくて、できない。間違いないですよ。自己分析するとね、自分が嫌いなわりに傷つくのを怖がるんです。そのくせ、『結婚できない男』の阿部寛みたいに上から女性を見てる」

女性の話になると、攻撃的なほど饒舌になる。「社会人デビュー」以来、約20年間に6人と交際。すべて理由不明のままフェードアウトされた。

「『使い捨て』の駒として利用されて、後はポイ。元カレと別れたばかりの子と2回付き合ったんですけど……」

休日、ランチの後で頬を寄せ合ってウインドーショッピング。夜はホテルのラウンジで延々4時間、元カレの愚痴から仕事の悩みまで、じっと聞いてあげた。なのにその彼女、「私、決めた。結婚相談所で相手を見つける」と宣言。大手商社の男をゲットして消えた。

「未練が吹っ切れたところで用済み。いい仕事してんな、俺(涙目)」

もう1人も「完全なお泊まりコース!」と手を握ろうとしたが、指先が触れあう寸前にパシーンと振り払われた。話を聞く限り、「それって女性サイドはタダのお友達のつもりでは……」という疑問もなきにしもあらずだが、何しろ涙、涙の女性“遍歴”だ。

「こんなんばっか、ずーっと女性不信ですよ。突っ走ってたのは俺だけで、振り向くと誰もいない。女って怖い」

しかし、そんな彼に光を与えてくれるのが、アイドルという存在だ。

中学時代から大学卒業まで徹頭徹尾アイドルにのめり込んだ。菊池桃子に始まり、おニャン子クラブ、西村知美……。私大在学中は、アイドル同好会を結成。青春はこうして費やされた。

「AKBなんて邪道」と言い切る彼が今はまっているのは“懐アイ”。かつての子役やマイナーなアイドルで、現在40に近い女性たちが、松田聖子や石川秀美のヒットソングを舞台で歌い、盛り上がる。同世代の男性が押し寄せ、すぐに立ち見になる盛況ぶりだそうだ。

合コンは年2〜3回は参加するが、おおかた2度目に会えばそれで終わり。

「3度目のない男」と化している。職場恋愛は難しい。ヘタに手を出したらセクハラだし、今は高学歴で優秀な子が多く、怖くて声をかけられない。

かくして彼の年収は心おきなくアイドルに費やされるのだ。しかし、同好会仲間も半数以上は既婚者。新婚早々、長大なカメラのセットを発見した妻に「これ、何?」と聞かれて、とっさに「バードウオッチング」と切り抜けた猛者もいる。1夜漬けで勉強して、実際に妻を山に連れていったという。

「そこまでする根性はない。気合が足りないんですね、俺」――わかっている。でも、変えられない。彼の心のバリバリに硬い鎧が、結婚を遠ざける。

既婚率は年収とほぼ比例するとはいえ、女性が最終的に結婚を選ぶ決め手は「経済力」ではない。「性格」「恋愛感情」が上位にくる(図)。結局、「なりふりかまわず人を好きになる力」が結婚を左右するのだ。そのためには「愛は奪うものでなく与えるもの」であることをぜひ知ってほしい。

結婚できない男たちは、「女性に何かを奪われること」を極度に警戒しているように見える。奪われるものはお金かもしれないし、なけなしのプライドかもしれない。惜しみなく「与える」ことができる男に、運命のウエディングベルは鳴るのだ。

(ジャーナリスト 白河桃子=文 浮田輝雄、小原孝博=撮影)