酒井若菜さんは子どもの頃、相田みつをまみれでした。

 昨年5月、自身のブログ「ネオン堂」の記事を選りすぐったエッセイ集『心がおぼつかない夜に』を上梓。現在もブログやメルマガ(BOOK STANDプレミアム『水道橋博士のメルマ旬報』で連載中!)で外連味のない真摯な文章を披露されている、女優の酒井若菜さん。高校時代には書店でアルバイトもしていたという本好きでもあります。

 「子どもの頃、年に1度だけ両親が"今日はなんでも好きなものを買ってあげるよ"って言ってくれる日があったんです。その時に私がいつも希望したのは"本"。一番のご褒美が本だったんです。学生時代にもずっと本を読んでいたし、本屋でアルバイトもしていたし、一人暮らしをするようになってからも本がいた。今でも本・・・台本ですけれども、私は活字とかかわる仕事をしているんだって、思っています。なくなってしまうなんてことが想像できないぐらい、自分と強く繋がっているものだと常々感じています」
 
 そんな酒井さんが、小・中・高校時代とずっと共に過ごしてきたのが、同じ栃木県出身の相田みつをさんの言葉でした。

「地元の学校には、廊下であったり、校長室であったり、体育館であったり、どこを見ても相田さんの言葉が飾ってありました。そういう環境で育ってきたので、代表作の『にんげんだもの』はもちろんのこと、相田さんが残したたくさんの言葉とともに育ってきたという感覚があります」
 
 特に心に残っている言葉はありますか?

「相田みつを美術館の館長で、みつをさんの息子さんの相田一人さんが、毎年年賀状を送ってくださるんですが、いつもみつをさんの言葉がプリントされているんです。その年賀状の言葉が、だいたいその1年の目標になっていますね。ちなみに今年いただいた年賀状には"ひとの世の幸不幸は、人と人が逢うことからはじまる。よき出逢いを"という言葉が書かれていました。これを今年の目標にして、肝に銘じて生きようと思っています」

 また、歴女ならぬ「司馬女」を自称する酒井さん。座右の書に掲げる本も、やっぱり司馬遼太郎でした。

「座右の書・・・たくさんあるのですが、やはり一番は司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』ですね。読んだのは20代半ばの頃。当時はすごく悩んでいた時期で、仕事の悩みもあったし、プライベートの悩みもあった。そんな真っ暗闇だった時に"きっといい指針になるよ"って、友人が勧めてくれたんです。すごく影響を受けましたね。竜馬の行動力や思考がとても面白くて、またそれを書いている司馬遼太郎さんの感性というのもすごく興味深かった。それから司馬さんの本はたくさん読みましたが、やはり『竜馬がゆく』が一番印象に残っていますね」
 歴女なイメージの酒井さん。でも意外なことに「歴史は苦手」で、司馬遼太郎作品にはかなり敷居の高さを感じていたそう。

「司馬さんを初めて知ったのは、本屋さんでアルバイトをしていた頃。文庫コーナーの棚を"司馬遼太郎"という人が書いた本がすごい占めていたので、この人どんだけ本書いてるんだ!?って思っていて。それで興味は持ったんですが、歴史が苦手だったし、すごく敷居が高いように感じていて、どうにも読むきっかけをつかめずに20代半ばまできちゃいました」

 実際に読んでみて、敷居はどうでしたか?

「高かったです(笑)! 私、ほんとに歴史が苦手なので、読んでも何言ってるのか全然わからなかったんですよ。出てくるワードもそうですし、登場人物もすごく多いので。ただ、周りに歴史好きの友人が多いので、わからないワードが出てきたら、その都度電話で"尊皇攘夷ってどういう意味?"とか"佐幕派って何"とかって聞いて、教えてもらいながら読みました。ラッキーだったなと思いますね。それをきっかけに、昔の本が好きになって、古典文学(をわかりやすく説明してくれるような本)なども読むようになりました」

 そして出会ったのが、橘曙覧(たちばなのあけみ)という幕末の歌人の連作短歌『独楽吟』でした。

「52篇の歌を集めたもので、すべての歌が"楽しみは"という言葉で始まるんです。例えば、本を読んで"あ! これ、私のことを書いてる"って思った瞬間とか、早く帰って欲しいなと思っていた客がわりと早めに帰ってくれた瞬間とか(笑)。本当に他愛もない、日常の些細なことを書いているのですが、すごく楽観的で楽しくて優しくて、温もりがあって。現代にも置き換えることのできる日常の楽しみがたくさん書かれている、大好きな一冊です。決して有名な歌人ではないですが、正岡子規は彼のことをすごく評価しているんですよ」

後編では、酒井さんのご褒美読書のお話をお届けします。お楽しみに!



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