『65歳定年制の罠』岩崎日出俊・著/ベスト新書
2013年4月2日から定年制が変わり、65歳まで会社に残ることができるようになる。だがそこには暗い側面が隠されていた。減給、職場いじめ、定年鬱。そして年金が支給されない「空白期間」。65歳定年時代の「罠」をデータに基づきながら解説する本書。後半では60歳からの企業やボランティア活動、NPOという生き方について語っており、シニア・ミドルエイジを励まし背中を押す内容になっている。中高年はもちろん、働くことの意味に悩む若い会社員にもお勧めしたい一冊だ。

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いよいよ明日4月2日から「改正高年齢者雇用安定法」が施行される。平たく言うと、今まで定年は60歳だったのが、本人の希望があれば65歳まで会社で勤務することができるようになるということ。
リタイア後の蓄えが多いにこしたことはない。これで老後の生活も一安心というもの。

が、現実はそんなに甘くない。

『65歳定年制の罠』という新書が3月20日に発売された。著者の岩崎日出俊は1953年生まれ。JPモルガン、メリルリンチなどの名だたる投資銀行に勤めた後、現在は経営コンサルタント会社の代表取締役という人物だ。
本書によると、実はこの法律、ほとんどの場合が定年を65歳まで延長することを意味するものではないらしい。どういうことだろうか?

そもそも法律では企業に対し、1.60歳の定年年齢の引き上げ、2.継続雇用制度の導入、3.定年制度自体の廃止の3つのうちひとつを義務づけている。そしてほとんどの企業が採用しているのは2の継続雇用制度。
なかでも「再雇用制度」といものが主流だ。60歳でいったん会社をやめてもらい、その後あらためて雇用契約を結びなおす。しかし、この再雇用にはいくつかの重大な落とし穴があるのだと著者は言う。

第一に、単なる定年延長と異なり給料が激減するという点。通常の場合、再雇用後の給与は7〜6割程度になり、なかには半分近くになってしまうという調査結果もある。

第二に、雇用形態と配属先の問題。厚生労働省の調査では、60歳を超えた再雇用者の実に6割が嘱託、契約社員としての採用だ。結果、専門外の部署に配属されて若い社員と折り合いがつかなかったり、ひどい場合にはリストラ候補が集められる通称「追い出し部屋」に押し込められる。ストレスで鬱病になる人も増えているという。

第三に、今年の4月2日以降に60歳を迎える男性の場合、年金をいっさいもらえない「空白期間」が訪れるという点。これまでは60歳から年金が支給されていたのだが、今年度から年金支給開始年齢65歳への段階的引き上げが始まる。つまり今後60歳で退職すると、最大で5年間、給与も年金も受け取れないことになる。再雇用で減った給料のみでやりくりしていかねばならないのだ。

一般的なサラリーマンにとって、20歳から60歳までの全国民が加入する国民年金と会社で積み立てられる厚生年金が支給される年金の二本柱となる。厚生年金の保険料は給料から天引きなので、勤労年数の累計や給与額に比例する。
厚生労働省のデータによると、将来的な年金給付にあてられる積立金の残高は2011年度末の時点で119兆円。5年前の2006年度から約30兆円も減少しているのだ。
政府は5年に一度、年金制度の見直しをすることになっており、今後の財政検証で制度の改正が行われるのは必至だろう。

人口高齢化が進むドイツでは、65歳の年金受給開始年齢を段階的に67歳に延長することに決まっている。アメリカでも67歳まで引き上げられるよう移行中。
そして、世界でもっとも少子高齢化が進んでいるのは日本である。
「にもかかわらずその日本でいつまでも65歳からの年金受給開始の恩恵に浴しつづけることができると期待するというのは、甘い見通しに過ぎないような気がします」と著者は言う。

3月28日の朝日新聞の朝刊。「高齢化 都市部で加速」という見出しが一面を飾った。2040年には高齢者の割合が人口の30%を越す見通しだ。
私は現在20代の若者だが、例えば私たち新卒世代が高齢者となる2050年代には、約2.5人に1人が65歳以上という現実が待っているのである。

私たちからしてみれば、65歳という年齢ははるかに遠い未来の話に思える。だが実際に、多くの企業では総人件費の抑制のため人事制度や給与制度を変更し始めた。65歳まで働く場を提供することによって生じる余分な人件費を、60歳以下の社員の給与総額を圧縮することで捻出するわけだ。結果、若い世代は給料が思ったように上がらなくなる。
65歳定年制は明らかに年金制度の行き詰まりの結果だ。年金が将来支給されるか否かという先の話ではなく、すでに若手社員の給与の伸び悩みというかたちで表出し始めている。

『このように今年(2013年)4月から65歳定年時代が幕開けするといっても、決してバラ色というわけではありません。いえ、バラ色どころか、年金支給の開始年齢が引き上げられることにより、従来よりももっと暗澹としてきているのが実情です。仕事も、お金も、そして65歳以降の生活についても、あらかじめ「この先は厳しい現実が待ち受けているかもしれない」というくらいの覚悟をしておくべきでしょう』

表面上「働きたいぶんだけ働くことができる」と好ましく思える改正高年齢者雇用安定法が暗示するのは、著者が指摘するように、決して明るくはないこの国の未来だ。
若い新卒社員やフリーターにとっても、決してヒトゴトではない。
(HK 吉岡命・遠藤譲)