脳科学が実証! 笑わせ上手は稼ぎ上手

話が面白くてレベルの高いジョークがとめどなく溢れてくる……。そしてなぜか、仕事までうまくいっている。そんなデキるビジネスパーソンの頭の中はいったいどうなっているのか。

■人が最大に能力を発揮できる「フロー状態」を引き出す

グローバルビジネスでの競争は厳しさを増している。そのなかで卓越していくというシリアスな側面が必要な一方で、真面目一辺倒では、どうしてもうまく回らない局面があることも事実だろう。厳しい時代とはいえ、遊び心やユーモアをもって前向きに取り組みたいし、またそのほうが、成果も挙がりやすい。

脳科学的にも、ユーモアの効用は非常に高いことがわかっている。

脳の神経回路は、楽観的に物事をとらえていないと、潜在能力を発揮できないようにできている。悲観的なときの脳は、言うなれば潜在能力に蓋をして抑え込んでいる状態なのだ。

しかし現実的には、必ずしもいつも楽観的でいられるとは限らない。そんなときでもなお、前向きに明るく、という脳の基本的な態度を育むためにユーモアが重要になる。脳は自己暗示にかかりやすいため、悲観的なことでも面白く捉え直したり、楽しいことを考えたりするだけで前向きになり、邪魔をしていた蓋を外すことができるのだ。

脳がもっとも創造的になっているのは、「フロー状態」にあるときだ。フロー状態とは、「集中しているけれどもリラックスしている」状態。努力することなく自然に、脳や身体が最大のパフォーマンスを発揮できる。

私たちはつい、緊張してしゃちほこばっている状態を「集中している状態」と勘違いしてしまうが、そうではない。目指すべきは緊張ではなくリラックスだ。

陸上のウサイン・ボルト選手が2009年の世界選手権で100メートルの世界新記録を出したときの走りは、リラックスして笑いながら走るような状態だった。ああいうフロー状態が理想だ。

おやじギャグを連発するなでしこジャパンの佐々木則夫監督は、無意識のうちにユーモアを使って選手をフロー状態になるよう仕向けているのだろう。

笑うと創造力が高まり、良いアイデアも出やすくなる。これはおそらく、笑うと、嬉しいときなどに出る神経伝達物質のひとつであるドーパミンが分泌され、脳の司令塔の機能を持つ前頭前野を刺激し、フロー状態に入りやすくなるためだ。

特に今の日本のように、逆境に立ち向かうときには、そうした創造性が必要になる。困難なことにぶつかると、当然脳は緊張する。大きな課題を乗り越えるためには、自分をできるだけフロー状態に近づけて、あらゆる視点から解決策を導いていかなくてはならない。ユーモアをもって脳を前向きにすると同時に、リラックスした状態にすることで、それが可能になるのだ。

はたから見てエネルギッシュな人と、悲観的で元気がない人がいるが、脳の消費するエネルギーを見ると、楽観的であっても悲観的であってもたいして変わらない。元気がない人に足りないのは、エネルギーそのものではなく、自分をフロー状態にするためのユーモアなのである。

辛いことや苦しいことは誰にでも平等に降りかかる。ユーモアをもってマイナスのエネルギーをプラスに変えられる人にとっては、「人生のエネルギー問題」は存在しない。日本は失われた10年、20年などと言われるが、私はずっと「1人高度経済成長」している。社会がどんな不景気でも、自分の脳はデカップル(分離)して、貪欲に学んでいくことができるはずである。

■「自虐ネタ」は自分を修正、成長させるスキルである

ユーモアは、非常に高度で複雑な脳の働きによって生まれる。中でも特に重要なのが「メタ認知」だ。これは前頭葉の働きで、自分自身をまるで外から見ているように、客観的に俯瞰して見ることができる能力を指す。

メタ認知ができないと、ユーモアは生まれない。人に面白いと思われることを言ったりしたりするためにはまず、自分の行動や言動が、他者から見るとどう突飛に、意外性をともなって映るかを知る必要があるからだ。

ユーモアの中でも高度なのが、自分を笑う「自虐ネタ」だ。通常はプライドや劣等感が邪魔をするので、自分の欠点を見つけてさらけ出し、笑いに変えるのは難しい。うまく自虐ネタを披露できる人は、欠点や課題から目をそらさずに、前向きに取り組むことができる。つまり、課題解決能力が高い人といえる。課題解決能力とはすなわち、自分を修正し、成長していく力のこと。

ユーモアは、脳の「若さ」とも関係している。年をとって守りに入った人は、変化に抵抗を持つようになり、ユーモアもパワーダウンしてしまう。権威や地位に頼り、自分の成長に消極的になって停滞し、老化が始まるのだ。

組織も同じだ。欠点や課題などのネガティブな面も、ユーモアをもって話せる雰囲気の会社は成長する。それがなければ、課題への対応を先送りしたり、問題を隠蔽しようという組織文化を生んでしまうことになる。

「自虐ネタ」で、自分の欠点を笑いに変えられる人は、指導力や包容力が高く女性にモテるということが、科学的な研究結果からわかっている。他人の欠陥にも寛容で、リーダーとして信頼される要素が強いのだ。お笑い芸人の男性が女性にモテるのは、こんなところにも理由があるのだろう。一方で、自分の欠点を隠して認めたがらない人は、他人の欠点も許容できず、攻撃的であることが多い。

リーダーには、常に状況を客観的に見て問題点を直視し、改善していく力が求められる。このプロセスにユーモアをもって取り組めない人は、問題点を見逃してしまう可能性が高く、組織を成長させる力が弱いといえる。

信頼されるリーダーになるためには、ユーモアを武器として上手に使うべきだ。中でも、自分の欠点をメタ認知し、自虐ネタに変えることは、ユーモアセンスを磨く一番いい方法だと思っている。

ソフトバンクの孫正義社長は、よく自分の頭髪の自虐ネタで周りを笑わせているが、考え方が柔軟でユーモアのセンスが高い。ビジネスパーソンは、彼をお手本にして自分なりの技を磨いてほしい。

■「おやじギャグ」を言うリーダーは逆境に強い

「笑い」とはもともと、危機やリスクなど、ネガティブな状況と密接に関係している。

進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは、笑いの起源について「偽の警告仮説」を唱えている。群れに外敵が近づいているのを見つけた1匹が警告の叫びを上げる。でも、それが実は敵ではなかったことがわかったときに、仲間の緊張を解くために、顔の筋肉を弛緩させてニヤリとした表情を見せる。このような、「敵は来ていないので安心だ」ということを知らせて仲間の緊張や不安を和らげるサインが、笑いの起源だとしている。

危機的状態のときほど、部下の緊張を解きほぐしてフロー状態に近づけるために、リーダーはユーモアを活用すべきだ。暗い雰囲気のときでも、空気を変えて部下をリラックスさせ、潜在能力を発揮できるよう促すのがリーダーの務め。おおげさなことをする必要はない。おやじギャグで和ませるのも手だろう。

東日本大震災後の福島第一原発事故の対応中に、菅直人前総理大臣が関係者を怒鳴りつけたりしたと聞くが、これはリーダーとして一番やってはいけないことだ。部下のフロー状態を引き出すことができないばかりか、問題点を見つけ出して共有するためのメタ認知の力を、抑えつけてしまうことになりかねない。

こういうときこそ、ユーモアをもって落ち着いて対応すべきだろう。ユーモアには即効性があるので、極度の緊張状態にあるときでも、瞬時に周囲をリラックスさせる効果があるからだ。

共和党の故ロナルド・レーガン氏が米国大統領だったときに、挙銃で狙撃されて病院に運ばれたことがある。病院に着いたレーガン氏は医師らに「君たちは全員、共和党員だろうね?」というジョークを言い、その場を一気に和ませたという。危機的な状態のときにもユーモアを忘れなかったレーガン氏への国民の評価は上がったそうだ。

ユーモアが場の雰囲気を和ませるのは、前頭葉にあるミラーニューロンというシステムが関係している。これは他人の行動や気分が自分にもコピーされるメカニズムである。相手が不愉快な気持ちでいると、自分も不愉快になるし、相手が笑っていると自分も楽しい気持ちになる。

商談などで条件が合わず、気まずい思いになったときでも、タイミングよくユーモアのある一言があって楽しい気持ちになると、互いにその楽しい気持ちがコピーされあって、前向きに「もう1度検討してみましょう」となる。

ユーモアは、楽しい気持ちの起爆剤になりえるのだ。だからチームを組む場合でも、ユーモアのある人が1人いれば、チームワークがうまく回って高い成果が期待できる。外交交渉の場などでも、そういうお笑い担当の人がいてもいいかもしれない。

■ユーモラスになるには「連想記憶」を鍛えよ

おやじギャグを非難する人も多いが、あまりおやじギャグを虐待しないでほしい。ダジャレは、側そく頭とう連れん合ごう野やの優れた働きに関係しており、非常に高度な「連想記憶」を要する。脳を鍛えるのでボケ防止にも最適だ。

ダジャレに必要な連想記憶は、1つの言葉に対して、その言葉の音に似た言葉を瞬時に思い起こす力のことをいう。高い連想記憶と、豊富な語彙があって初めて生まれるのがダジャレなのだ。

ダジャレを生むためにはまず、語彙が記憶されている側頭連合野に対し、前頭葉から、たとえば「『布団』という言葉と似た響きの言葉はないか?」というリクエストが送られる。そこで側頭連合野が、「吹っ飛んだ」という言葉を返してきて生まれるのが「布団が吹っ飛んだ」というダジャレだ。

前頭葉からのリクエストに対し、側頭連合野がどれくらい質と量に優れた言葉を瞬時に返してくれるかが、ダジャレの力になる。この、前頭葉と側頭連合野の間をつなぐ回路を、鍛えて太くしておかないと、ダジャレは思いつかない。普段から面白いネタはないかと考えることが、そのままトレーニングになる。

ダジャレの素晴らしさは「意味を超えていること」にある。人はどうしても意味にとらわれてしまうが、こうした固定観念から離れ、言葉の結びつきと関係性を発見するのがダジャレである。非常にクリエーティブな脳の働きなのだ。

小学生くらいの子供たちがダジャレをよく言うのは、語彙がどんどん増えていく過程で、言葉の間に関係性を見出すとうれしくなってつい言ってしまうからだ。その意味で、おやじギャグを言う人は少年の心を失っていないといえる。

うまく使えば、周囲をリラックスさせるためにも効果の高いおやじギャグだが、思いついたからといってところかまわず口にするのはいけない。私は「おばさん」の定義を無意識の垂れ流しをする人であると言っている。思いついたことは何でも実況中継のように口に出してしまう状態だ。おじさんの場合には、それがおやじギャグになる。コントロールをせず、無節操に垂れ流すのは、脳の老化現象の表れ。どれをいつ言うかについても頭を使い、慎重に考える必要がある。

ユーモアは、そう簡単に身につくものではない。「ユーモアは1日にして成らず」だ。お笑い芸人の方々を見るとわかるが、プロとして成功するほうが、東大に入るより難しいのではないだろうか。

だからといって、眉間にしわを寄せて目を吊り上げて訓練すればいいというものではないのが難しいところだ。まずはユーモアの重要性を認識し、普段から意識して日常会話に取り入れるようにすることが大切だろう。

私は寝る前にベッドサイドでパソコンを開き、イギリスのコメディを見るのが日課になっている。イギリスのコメディアンの多くは、有名大学を出たインテリ。

「『知性』イコール『ユーモア』」なのだ。彼らの魅力は、自分たちの欠点をネタに変えるテクニックに優れていること。

こうした高度なユーモアは非常に勉強になり、自分のセンスも鍛えられる。

忙しければ忙しいほど、疲れていれば疲れているほど見たくなる。いくら疲れて帰ってきても、コメディを見て笑うとリセットできる。リラックスしてゆっくり休めるのだ。

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脳科学者 
茂木健一郎 
「クオリア」をキーワードに、脳と心の関係を探求し続けている。『笑う脳』(アスキー新書)など著書多数。

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(脳科学者 茂木健一郎 構成=大井明子 撮影=向井 渉)