もしも科学シリーズ(56):もしもパラドックスに悩まされたら


むかし地下鉄をネタにした漫才がはやった。列車はどうやって入れるのか、子供心に真剣に考えたのを覚えている。





もしもパラドックスに悩まされたらどうするか?落ち着いて考えれば何ということもない問いも、思い込み、錯覚、ウソつきな数字に惑わされ、眠れない夜になりそうだ。



■3枚のカード



パラドックスとは、一見間違えに思える結論が、実は正しい状態を表す。「矛盾」「逆説」と訳される場合もあるが、思い込みや勘違いから生じるものがほとんどだ。古典的な確率のパラドックスを紹介しよう。



3枚の伏せたカードがあり、そのうち1枚は当たりで、残り2枚はハズレと書かれている。当たりカードを引く確率が3分の1なのは、誰でもわかるだろう。



つぎに、あなたが1枚のカードを選び、カードをめくる前に、答えを知っている司会者が選ばれなかったカードから1枚のハズレを披露する。司会者はあなたに最後のチャンスを与え、カードを選び直すか?と質問する。最初に選んだカードを信じるか、選び直すか、どちらが高確率か?



司会者がカードを1枚めくったので、伏せたカードは残り2枚。さらに、ハズレカードが1枚に減ったのだから、当たりを引く確率は2分の1になり、最初に選んだカードでも、選び直しても同じはずだ。



と思ったら残念。選び直した方が、当たり率は3分の2にアップするのだ。



3枚のカードをA/B/C、当たり/ハズレを○/×で表すと、



1. A=○、B=×、C=×



2. A=×、B=○、C=×



3. A=×、B=×、C=○



の3通りあるので、最初にどのカードを選んでも○を引く確率は3分の1だ。



次に、選んだカードをAと仮定すると、選び直すかどうかを「A」と「A以外」の構図で考えると、



1. A=○、BC=××



2. A=×、BC=○×



3. A=×、BC=×○



となる。



司会者は、あなたが選んだカードAはめくれないので、必然的にBかCからハズレを見せることになるが、BもCもA以外と考えればどちらをめくるかはささいな問題で、パターン1.から3.のどれに当てはまるかの方が重要だ。



Aのまま変更しなければパターン1.のみが正解で確率3分の1だが、BかCに選び直すなら、パターン2.と3.の2通り、つまり確率3分の2が正解になる。



一見確率2分の1に思えた選び直しも、実は3分の2にアップしている。選び直さなければ最も低確率の3分の1だから、初志貫徹なんて言葉は忘れて、他人の忠告は素直に受け止めるのが良さそうだ。



■迷惑な事前確率



よく耳にするパラドックスをもう一つ紹介しよう。2種類の小切手があり、1つの小切手には他方の4倍の金額が書き込まれている。中身が分からないようにそれぞれ封筒に入れられ、あなたはどちらか1つを選ぶことができる。





封筒を開けると10万円の小切手が入っていた。もし不満なら残りの封筒と交換できるルールだったら、あなたは交換する?しない?



手元の小切手から推測すると、選ばなかった封筒は4倍の40万円か、4分の1の2.5万円が入っていることになる。考えられる小切手は2.5万、10万、40万の3種類で、平均17.5万円だから10万円では損した気分になる。





交換すれば金額は必ず増減し、プラス30万円かマイナス7.5万円のどちらかだ。ただし増えるか減るかは確率2分の1だから、期待できる増減は(30-7.5)÷2=プラス11.25万円となり、どうやら交換した方が得のようだ。



と思ったら、残念ながらこれも間違えで、交換しても金額が増える確率は2分の1以下なのだ。考えられる金額の組み合わせは、



1. 2.5万円と10万円



2. 10万円と40万円



で、1.か2.が起きる可能性は合計で100%だが、50%ずつとは限らない。10万円の小切手を手にした時点で「事前確率」が決まっているからだ。



事前確率は、実際に起きた現象、1./2.の平均値と可能性から考える。1.が起きる可能性をx%とすると、2.の可能性を100-x%と考えるのがポイントだ。



起きた現象(10万円)=1.の平均×可能性%+2.の平均×(100-1.の可能性%)



から算出すると、1.の可能性は80%、2.が20%となり、すでに同率ではないことが分かる。



手に入る金額と可能性をかけ算した期待値で確認してみよう。



・1.の平均(=6.25万)×可能性(80%)=5万円



・2.の平均(=25万)×可能性(20%)=5万円



となり、どちらも等しい。



期待値は同じでも、事前確率は同じとは限らない。始まる前から差があると知ったら、何だかだまされたような気分だ。



■まとめ



1枚300円の宝くじの期待値は140円程度だから、当たらない確率の方が高いと聞く。数字だけを考えれば、買うだけムダという結論になる。



そう知りつつも毎回ジャンボくじに夢を託す自分は、つくづく小市民なのだと痛感した。



(関口 寿/ガリレオワークス)