『不器用な匠ちゃん 1』須河篤志/メディアファクトリー
好きなものを打ち明けられなかった彼女が、認められる場所ができた。それは幸せなことだけど、恋愛がからんでくるともうなんつーか「めんどくせー!!」。『不器用な匠ちゃん』は趣味と恋愛を切り離せるかどうかを、不器用なヒロイン藍川さんを中心に描いた物語。ずっとこのまま、というのは不可能なんだろうか。

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趣味の仲間が欲しいんだよ。
と、かつての自分は思い続けていました。
今思うと偏ったアニメやマンガや音楽が好きで、ロリコン……なのはまあ置いといといて。
ネットがないころは完全に隠れオタクで、それはそれで楽しかったけど……話す相手が欲しかった。
今はネットもあるので、趣味会話には事欠きません。しかし、やはり直接あって趣味を分かち合いたいというのは、少なくともぼくはあります。

『不器用な匠ちゃん』の二巻が発売されました。
この話どういう話か。テーマは「趣味と人間関係」なんですが、ここはヒロインのセリフをかりましょう。
「めんどくせー!!」
……というマンガです。

そう! 人間関係は、男女関係はめんどくせえ。
舞台は江ノ島。ヒロインの藍川さんは凄腕の歯科技工士。でも人と話すのはちょっと苦手。
そんな彼女の趣味は、武器模型作り。古今東西あらゆる武器にロマンを感じ、武器の小さな模型をコツコツ家で作り続けています。人間模型も作ります。
この趣味を誰にも言うことが出来ず、一人で黙々と嗜んでいたのですが、ある日渡井くんという青年に見つかってしまいます。
この渡井、実は鉄道ジオラママニア。藍川のすごすぎる技術に感動し、是非手伝って貰いたいと激しく頼み込みます。
そこに渡井の友人で店ジオラマ作りが趣味の長谷部、その妹でデコスイーツ作りが大好きな睦希もやってきます。
3人は元々、模型作りが大好きな「アトム会」のメンバーで、模型を制作のため部屋を借りている趣味仲間。だから、ずっと隠して話さなかった藍川の趣味を尊敬し、共感してくれます。
自分の趣味は引かれないんだ! 趣味の話ができる女の子の友達もできるんだ!
よかった、本当によかった藍川さん!

「HAPPY END」ではありません。ここからが厄介。
元々人付き合いが得意ではない藍川は、渡井が自分を理解し、とても近い存在になりはじめていることに気づきます。
あれ、いつも渡井のこと考えてる……これって、恋なんじゃないの。
二十歳にして初恋を経験してしまった。

まだまだ話はこじれます。
大親友になった睦希も実は渡井が好きなんだという空気を察知。
ああ、この居心地のいい場所を失いたくない…。彼女は身を引こうと決意します。
ところがそこに、模型なんて興味ない同じ歯科医の潮見という女性がやってきて、渡井にモーションをかけはじめます。
違う、ここは、この場所は、趣味をみんなで共有できる大切な場所、なんだ……。
長谷部くんも混じって、4人+1人の恋愛混乱記になっていきます。

確かにいいラブコメなんですが、もう一度藍川さんのセリフをかりましょう。
「めんどくせー!!」
めんどくせえよ! 
趣味で集まったんだから、趣味の話しようよ、余計なことすんなよ!!
長谷部くんのセリフを借りるとこうです。
「合コンの場じゃねーの!」
そうだ! 趣味の場は特別なんだよ!
……と思うと同時に、気付かされます。
あれ、でも趣味仲間で恋愛が成就するって、めでたいことなんじゃない?

一つの部屋の中で、趣味を共有していたとして、恋愛感情なしに友情だけでやっていけるのだろうか。
場合によると思いますが、この作品の答えは「NO」でした。
特に藍川さんの場合、他に趣味について話せる仲間がいない、という状況もありました。それを打ち明けられるこの場所で、親身になってくれる相手が好きになってしまうのはもう、致し方なしという感じなのです。

「恋愛」がどこからどこまでなのか、それは人それぞれだからわかりません。
藍川さんが渡井を好きになったのは、たまたま理解してくれる相手だったから、かもしれないし、あるいは相手の空気に敏感な彼女が彼の全てを好きになったから、かもしれない。わかりません。
けれども考えていて落ち着かないのであれば、大好きな友人の睦希が同じ相手を好きで苦しいのなら、それはもう立派な恋です。
やはり、密室で男女が心の内を打ち明け合うと、色々な面が見えてきて恋愛沙汰なしにはできないんだろうか?
藍川さんはそれをなんとしても避けたいんです。
このサークルが好きだから。

一番いいのは、恋愛もサークルも両立できることなんですが、どうにも三角関係どころか、四角五角関係までもつれこんでいるので、それはかなわなさそうです。
「ラブコメディ」とはいいつつも、読んでいて正直胃が痛い。
好きな趣味がある。それをわかちあう仲間ができた。
なぜそこに恋が絡んで、うまくいかないんだろう。
二巻で彼女が、大好きなサークルから距離をおいて、一人で正宗を作るシーンのなんとイキイキしていることか。
あれ、人と分かち合う楽しさを知ったのに、「めんどくせー!!」続きで結局一人のほうが、楽しいのかな?

恋愛抜きで趣味の男女関係は築けるのか。
複数人で分かち合うのと、一人で没頭するのどちらがいいのか。
趣味の場に外からの人が入ってきた場合、輪を保てるのか。
基本的にみんないい人なので、サークルクラッシャー(サークルで恋愛沙汰などを起こして人間関係を崩壊させる人のこと)がいないのが救いです。

藍川さんの恋愛がかなうのが、よいことなのかどうかもわからない。
不器用とかそういう問題じゃないよもう。
彼女の趣味が大きな救いになり、できればみんなと趣味のはなしでまた笑い合ってほしい。
本当に人間関係はめんどせえな! 
特に趣味に関しては、同性だけでだべりたい時もあるよね。
とはいえ、めんどくさいから、人間は面白いんだけどさ。


須河 篤志 『不器用な匠ちゃん 1』
『不器用な匠ちゃん 2』


(たまごまご)