「メイドだってアイドル☆」(コスプレイヤー=みるる 撮影=宮嶋)

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■2013万円(!)の福袋

皆さんは今年の正月をどこで迎えられたでしょうか。私は秋葉原で新年を迎えました。年が明けるのと同時に神田明神に初詣をした後、初日の出を拝もうと秋葉原で適当な場所を探していたのですが、JR秋葉原駅前にある「アキバブリッジ」と呼ばれる高架路に同じ目的で集まっていた若者たちがいたので、私もそこで初日の出を待ち構えていました。ところが、陽が昇る方角には巨大な商業ビルが目の前にあり、ビルの端から太陽が顔を覗かせたのは、日の出予定時間から40分後でした。

初日の出を拝んだ後、元旦早朝の秋葉原を散策しました。すでに初売りの待機列があちこちに見られました。いくつかの家電量販店、ホビーショップ、PCパーツ専門店には、すでに長い列ができていました。列に並んでいるのは、ほとんどが若い男性。初売りの待機列を見れば、その店の顧客層が読み取れるからおもしろい。免税の家電目当てか、外国人の集団も見受けられました。

列に並ぶ人たちの目当ては、多くは初売りに販売される福袋です。今や福袋は日本のどこでも見られる新春の風物詩でもありますが、秋葉原の福袋はちょっと普通ではありません。人気の福袋は、やはり今流行りのタブレットが入った福袋で、あちこちのお店ですぐに売り切れたようですが、ある家電量販店では2013万円のハイエンドオーディオシステムが揃う福袋があり、ある免税店では20万1300円の狛犬の福袋(と言っても、現物むき出しで展示されていましたが)を販売していました。あるホビーショップでは数種類の「買ってはいけない鬱袋」と銘打った不気味な福袋ならぬ不幸袋を販売していました。なんだかわけのわからないごちゃ混ぜ感で盛り上がるのは、秋葉原らしいとも思えます。

■中途半端なネタでは話題にならない

最近のデパートで販売される、特に女性向けの福袋は、売り場で中身を提示している場合が多くなっています。本来、福袋は年初めの運試しという意味もありましたが、中身を先に見せることで「こんなものは欲しくなかった」と顧客を落胆させるリスクを避けることができるからです。しかし、若い男性が主な客層となる秋葉原では、中身がまったく分からず、購入して初めて分かるというものがほとんどです。これは、中身が見えないほうが「ワクワク感」を演出することができるからです。一般に子供向けの食玩でも、女の子向けは中身が分かるようになっていて、男の子向けは中身が分からないようになっているものが多い。どうやら女性の方が手堅く現実的で、男性の方が夢を求めてリスクをとる傾向があるのかも知れません。

秋葉原のさまざまな福袋が演出する「ワクワク感」は、単に顧客の注目を集めるだけではありません。秋葉原に訪れる人たちは、若い男性が中心で新しい物好きである特性があるので、スマートフォンの保有率が高い。そのような人たちに「ワクワク感」を与えることは、話題のネタを提供することでもあり、放っておいても彼らは twitter などのソーシャルメディアを通して店舗の情報を自ら発信してくれます。そうすると、特に広告を出さなくても、秋葉原から発信された情報を得た潜在的な顧客が、実際に新たな顧客として秋葉原にやってくるのです。新宿や池袋など他の地域でも魅力的な商品はあるのですが、パソコンや携帯の画面を見ながら暇を持て余している人にとっては、話題のネタが散らばっている秋葉原に訪れる理由も出てきます。「ワクワク感」が新しい顧客との縁を起こしてくれるのですから、店舗にとってもまさに福袋といえるかもしれません。

一見ふざけているようにも見える秋葉原の福袋ですが、実は話題のネタ作りに真剣で必死なのです。秋葉原での顧客獲得競争は他に類を見ないほど熾烈です。秋葉原に集まる顧客は、特定分野には「通の目」を持つマニアが多いので、中途半端なネタでは「ワクワク感」を与えられません。特に初売りは稼ぎ時でありながら、一つ間違えると他店に顧客を奪われる可能性もあるのですから、いかに顧客に向けて「ワクワク感」を演出するか、そして、まだ見ぬ潜在的な顧客にそれを伝えてもらうかは、それぞれの店舗にとって重要な戦術となるのです。

「ワクワク感」で縁を起こす戦術は、私たちにも日常で応用できそうです。仕事の現場や家庭でも、身近な人に「ワクワク感」を提供することで、まずは自分への興味を引きつけられるでしょう。そして、ワクワク感を得た人たちは自ら良い評価を広めてくれれば、新たな出会いやつながりをもたらしてくれるかもしれません。

(次回のお題は「メイドカフェ」。4月2日[火]更新予定)

(梅本 克=文(デジタルハリウッド大学客員准教授))