習近平氏が正式に国家主席の座に就き、中国の新政権が本格的に始動しました。習氏が10年間かけて挑む最大のミッション―。それが「政治改革」です。

中国の国会にあたる全国人民代表会議が3月17日に閉幕し、習近平(しゅうきんぺい)氏を国家主席とする新体制が本格的にスタートしました。

日本では、習氏は“反日派”“対日強硬派”と思われているようです。外務省関係者に聞いた話では、昨年9月、当時の民主党政権が尖閣諸島の国有化を“急いだ”背景には、「次期国家主席の習氏は強硬派だから、親日的な胡錦濤(こきんとう)氏がトップのうちに国有化を済ませよう」という判断が一部にあったそうです。

しかし、ぼくが知る限り、現段階において、習氏が胡氏に比べて反日的であることを示す根拠は見つかりません。今年1月、習氏は日本の安倍総理からの親書を受け取りました。遠くない将来、首脳会談の開催にも前向きな姿勢を見せています。彼がいわゆる反日派なら、このような行動はとらないでしょう。

だからといって習氏を“親日派”と考えるのは早計です。権力移行の過渡期にある今、習氏は誰に対してもいい顔をせざるを得ない。国民、外国、党内の保守派と改革派……。あらゆる方面へ慎重な姿勢で対応している。この過渡期が1年以上続くとぼくは考えています。その間、習氏が自身の政治信条を声高に語り、政策に反映させるべく動く可能性は低いでしょう。

では、習氏はこれからの10年で何をしようとしているのでしょうか? ある高官によれば、習氏は現在、長年の懸案である「政治改革」を真剣に検討しているようです。

国家主席として確たる地位を築き、政治改革へと突き進むために、習氏の頭の中には3つのステップが描かれているといいます。まずは、毛沢東(もうたくとう)思想を掲げ中央政府の路線と真っ向から対立した薄熙来(はくきらい)・前重慶市党委員会書記を潰す。次に、“目の上のタンコブ”の胡錦濤・前国家主席を権力の中枢から追い出す。この2点については、すでに結果が出ています。

そして最後に、“親米派”である江沢民(こうたくみん)・元国家主席を味方につけ、政治改革への道筋をつけること。江沢民氏は86歳と高齢ですが、共産党内での影響力はいまだ絶大ですし、意外に知られていませんが、党内リーダーの中では、西側の民主化をベースにした政治改革に最大の理解を示してきた経緯がある。

もうひとつ重要なのが、習氏は太子党(たいしとう)(中国共産党高級幹部の子弟グループ)出身者だという点です。太子党出身者は保守的だと思われがちですが、実際は権力基盤を持っているため党内調整力&政策執行力が高い。共青団(きょうせいだん)派などと比較しても、改革の実行に必要な条件を備えている。少なくとも胡錦濤氏よりは、政治改革に踏み出せる可能性が高い人物だとぼくは見ています。

中国ではこれから10年、習近平体制が続きます(何事もなければ、ですが)。彼がトップにいる間に司法の独立や報道の自由、民主選挙の実現などを含めた政治改革を推進できなければ、中国という国家は2023年以降、厳しい局面を迎えるでしょう。経済成長モデルの転換がままならないなか、社会不安によって突発的事件が重なり、台頭するネット世論を通じて社会全体がカオス化するかもしれない。火種はいつでも、どこにでもあるわけですから。

「成長」と「安定」だけでは党の正統性が担保されない難しい時代に、習氏は向き合うことになる。ぼくは、習氏が権力基盤を固めた上で政治改革に乗り出すダイナミクスにこそ、中国の対日政策が健全に変化していく可能性を見いだします。さらに、政治改革は中国にとって、改革開放に次ぐ世界政治経済システムへの歴史的貢献をも意味するのです。

世界最大の人口を抱える国で、誰も成し遂げたことのないチャレンジをする。これに勝る政治家冥利(みょうり)があるというなら、逆に教えて!!

今週のひと言

中国という国家の命運は、習体制の今後10年間にかかっています!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)

日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!