『中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実』福島香織/PHP研究所
大成長を終えて変化する中国。田舎から都市へ出稼ぎし、都市民や日本製品に憧れと反感の両方を抱く若者たちの「現地の声」を伝えるルポだ。

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「世界の工場」と呼ばれ、すさまじい経済成長とその失速を経験している中国。広がる貧富の格差や公害汚染、反日抗日活動…隣国だけにさまざまなニュースが伝わってくるが、本当の姿はどのようなものなのだろう。

iPhoneなどの生産を請け負っているフォックスコンで工場労働者が相次いで自殺して話題になった件でも、「実はその自殺数は特別多いものではない」と言われていたり、ニュースを見ているだけではわからないことも多い。

『中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実』という本は、そのあたりの、現地の雰囲気を伝えてくれるルポだ。

中国へ行って若者たちやその家族、工場関係者などの話を聞いて取材している。さらに中国の各種記事などのまとめや引用も紹介されており、状況を把握して読みやすい内容になっている。

・「第二代農民工」という人々

日本で「ゆとり世代」「ワーキングプア」といった言葉があるように、中国にも80年代生まれのワガママ一人っ子「80後」や、大卒なのに高給職に就けない「蟻族」などといった言葉がある。

農村戸籍と都市戸籍が分かれている中国では、手厚い福祉などを受けられる都市民と農村市民に格差がある。都市での高収入を求めて出稼ぎに行く農村の人々を「農民工」と呼ぶが、その2世代目が「第二代農民工」であり、工場やサービス業の底辺で社会を支えているらしい。

親が出稼ぎで苦労しているので、子どもには農業をさせず、「学歴を身につけて都市で成功して欲しい」という願いを込めている場合が多いようだ。だがその子どもは幼い頃から甘やかされている場合も多い。「そんな彼らが都市へ出稼ぎに行っても、忍耐力やコミュニケーション能力の不足でうまくいかないのだ」と分析する専門家もいる。なんとなく日本でも見られるような構図だ。

・お金より夢や自由

裁縫や電子機器製造の工場などで働く「第二代農民工」たちにさまざまなインタビューをしたものが本書では読めるが、その考え方も面白い。

がむしゃらに働いた人が多い親世代に比べ、ルーチンワークや過剰残業を嫌う人も多い。「自分のお店を持ちたい」「クリエイターになりたい」などの夢を持ちながら貯金している人も少なくない印象だ。その一方で「死にものぐるいで一気にお金を貯める」という感じでもなく、スマートフォンやカラオケ、服などの娯楽にもお金を使う。

なんだかこう書くと、のびのび人間らしく働く若者たちにも見える。だが鬱屈した面もある。

・Androidは買えるけどiPhoneは無理

都市で働いているのでそれなりの収入があり、スマートフォンも買える若者たち。だが多くはiPhoneではなく、その半額でも買えるAndroidだ。自動車を買ってもだいたい中国産。日本車は買えない。

そしてそうした若者の多くはインターネットを使っており、自分たちが頑張っても到底買えないような高級品や、豊かな生活も日々目の当たりにしてしまっている。

反日デモやストライキも、日本云々は関係なく、こうした鬱憤が表面化していると考える学者も少なくない。事実はどうあれ、彼らの声を直接読むことは、彼らの国や彼らそのものを理解する助けになるだろう。

どんな本やニュースにも偏りはあって当たり前だが、何も見ないで考えるよりは現地の様子をイメージさせてくれるはず。この本の取材は2010年から2013年のものが多く、日本も中国もリーマンショック後はかなり状況が変化しているので、そのあたりも感じ取れる内容になっている。(香山哲)