『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 村上春樹氏が4月に出す新刊のタイトルが公開されました。今や世界中で翻訳され、楽しまれている村上作品。待望の新刊にも関わらず、作品が大きいものであればあるほど、自分の本が人なかに出ていくということ自体がおっかないと彼は言います。

「長編小説を出してしばらくのあいだは、どこかにこっそり隠れていたいです。」

 『夢を見るたびに毎朝僕は目覚めるのです』は、そんな彼の本音から小説が出来る過程、翻訳の進め方や趣味のランニングまで、村上春樹がまるわかりのインタビュー集です。

 彼の作品は、特別な発想や奇抜なアイディアから始まったわけではありません。いかなる設定も持たずに書き始め、ただただ日々書くことによってストーリーを発展させていく。まわりにあるすべての要素を日々吸い込み、それを自分の中で消化することによってエネルギーを得て、物語を自発的に前に進めていくのです。

 次に何が起こるのか、自分でもわからないままに村上は小説を書き進めていくため、新刊についても「書いてみないとわからなかったけど。」とコメントしています。長編小説『スプートニクの恋人』は、「22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。」から始まる一段落を、ある日なんとなく書いたことをきっかけに生まれたそうです。今回はどんな登場人物から書き始められた物語なのでしょう。

 彼の書く小説の中には、とても暗くて残忍で、奇妙なものもあります。しかし、彼は断言します。「でも僕の登場人物たちに共通しているのは、愛を信じているということです。」
彼の創作を支えているのは、妻の陽子さんだといいます。彼女の辛辣な批評に対して頭に来ることもあったり、時には感情的に論争したり。しかし、妻としてずっと隣に居る彼女を「定点」として大事にしているからこそ、村上作品の主人公は愛を信じ、暗闇を抜けていくのでしょう。

 村上自身が楽観的に小説を書くように、読者にもそれなりに楽観的であってほしいと彼は言います。新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』がハッピー・エンディングであろうとなかろうと、彼の作品が私たちの心を鼓舞し、喚起し、揺さぶり、そして愛がとても重要なものであることを信じさせてくれるものであるに違いありません。



『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011 (文春文庫)』
 著者:村上 春樹
 出版社:文藝春秋
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